演 題 : ブラジルにおける企業法務と労務管理の基礎-進出企業の失敗事例からみえるもの
講演者 : 二宮正人 氏(サンパウロ大学教授・明治大学客員教授)

 

lec20160113_04 間半を超える熱弁をふるっていただいたが、ざっくり区分すると、最初の30分が、最近の政治経済事情について、で、後半の1時間は労働法から説き起こし、労働問題ケーススタディー具体例の解説となった。

カルドーゾ元大統領支持を公言する二宮教授らしい、現PT(労働者党)政権批判となったが、客観的なファクトを踏まえた論理展開であった。ルーラ前政権の第二期からメンサラゥンと称する裏政治資金収賄疑惑が発覚したが、2014年の総選挙で再選されたジルマ大統領は、経済不調(年間インフレ10%、基本金利14.25%、為替下落、GDP成長率マイナス3%以上)に加え、政界を揺るがせているペトロブラス(石油公社)国際部門の汚職スキャンダルに直面し、国民の支持率は9%と史上最低である。大統領の弾劾に関しては、プロセスが緩慢で半年はかかり、下院の票決で承認となっても上院で阻止される可能性が高い。

リオ五輪は面子にかけても開催されるだろう。治安は問題であるが、陸軍と州兵も動員されるので、五輪開催時の治安は保たれるだろう。

レヴィ財務大臣は事実上更迭され、信用調査機関FITCHは、ブラジルの格付けをBBBからBB+(投資不適格)に下げた。というように厳しい政治経済状況が続く。

ブラジルにおける労働問題は、20世紀以降の工業化という歴史的背景があり、現行労働法はムッソリーニ法に倣い1943年制定され、過剰な労働者優遇制度が導入された。「疑わしきは労働者の利益に」が原則であり、労使紛争で裁判となれば、まず労働側が勝利する。

lec20160113_02 ブラジルの裁判制度は、連邦裁判所と州裁判所の二本立てで、事物管轄が異なる。現在ブラジルで進行中の訴訟は約1億件に及び、そのうち税金取立訴訟が全体の3分の1で、労働裁判は約1千万件(全体の10%)。裁判では本人訴訟は認められていないため、弁護士の介入は義務。現在ブラジルで登録されている弁護士は約65万人(サンパウロ州だけで30万人)(日本は3万人)と、世界有数の弁護士大国である。

労働裁判は三審制度で、連邦=労働高等裁判所(第三審)、州=労働地域裁判所(第二審)、都市=労働裁判所(第一審)となっており、組合による労働争議を例外として、労働者は常に原告(会社は被告)で、訴訟費用は免除され、弁護士は成功報酬。第一審における和解件数は全体の約50%だ。

労働訴訟の訴因としては、①理由なき解雇、②解雇予告(1か月前)の有無、③法定ボーナス(1か月分)の未払い、④休暇(1年で1か月、10日買取可能)の有無、⑤休暇を2年累積した場合には最初の休暇は100%増しで支払い、⑥残業(時間外)手当の未払い(1日2時間まで合法)、⑦深夜労働、休日労働は100%増し、などが主なものだが、最近はセクハラ、モラハラ、パワハラによる訴訟が急増している。

更に、いくつか、労務管理上の基礎知識としては;

  • 給与削減は違憲
    (倒産しそうになろうが労働者の給与削減は違法、解雇整理も違法)
  • 職務の累積に対する対価支払
    (一定の職務のために雇用した従業員に対し、別の職務をやらせた場合、追加支払いが必要。但し、職種と程度による。これで労働裁判となれば、まず会社側が負ける)
  • 雇用者と被雇用者の関係を超える義務
    (派遣労働者が派遣業者を訴えた場合、業者に支払い能力がなかったら、受け入れ企業も共同被告とされる。)
  • 労働裁判における和解の促進
    (ある進出企業の例だが、円満退社したと思われた長期勤務者から訴えられ、会社は“徹底抗戦”したが、5年かかって、訴訟額が5万ドルから20万ドルに増えただけだった。会社にとって理不尽であっても、和解を勧めたい)
  • 当事者自治の原則による労使双方の合意、は認められないことが多い
    (ブラジルでは、労使合意があっても、労働者側が後に訴えを起こせる)
  • 外国人の労働
    (進出企業の役員は出資額60万レアルごとに一人分の永住権が付与される。ブラジル国籍者との婚姻またはブラジル国籍者の親となった場合、永住権が付与される。最近はハイチ、シリア、アフリカからの難民の受け入れが顕著)
  • 2012年日本ブラジル年金協定
    (両国間年金協定が2012年に発効したが、多くのブラジル人は掛け金を支払っておらず、救済されていない。恩恵を受けているのは、元駐在員だ。)

以上要するに、労務管理が肝要である。

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日  時
2016年1月13日(水) 14:00~15:30
会  場 フォーリン・プレスセンター会見室

住  所:千代田区内幸町2-2-1日本プレスセンタービル6階
電 話:03-3501-3401
アクセス:東京メトロ千代田線・丸の内線・日比谷線「霞ヶ関」駅、
都営地下鉄三田線「内幸町」駅

会  費 会 員  2,000円
非会員  3,000円