演 題 : ブラジル政治経済および法律セミナー(講師計4名)
堀坂浩太郎上智大学名誉教授| 飯村重樹弁理士| J・R・グスマゥン G&Lパートナー、元特許庁長官|A・P・セリドニオ G&Lパートナー
厳しいブラジル政治経済環境と企業ガバナンスの重要性
講 師 : 堀坂浩太郎上智大学名誉教授
現在のブラジルを一言でいえば、視界ゼロ、であり、ある有識者は「闇夜の中で大鎌を振り回す闘いのごとし」と評した。大統領が弾劾され停職から失職となる可能性が出てきたが、現副大統領が後任になったところで一件落着とはならず、政治も経済も混迷が続くだろう。こんな現況では、撤退を考える企業も出てくるかもしれないが、腰を据えてふんばる企業には、逆に、面白い展開ができる時期である。最近のブラジル経済をマクロで復習してみよう。
多様なブラジルは、単数のBrasilよりも複数のBrasisだ、とよくいわれるが、政治経済の時間軸でみた場合、「二つのブラジル、すなわち、1980年代以前のブラジル、と、1980年代以後のブラジル」がある。そこを理解するためにも、マディソンによる実質経済成長率比較(1900年~87年、年平均%)をみてみよう。
1900年から1950年までのGDP成長年率は、ブラジル4.0%で、米国3.1%、日本2.3%、メキシコ2.6%よりもだいぶ上だ。1950年から1987年までの年率は、ブラジル6.0%となっており、日本の7.1%よりは下回るが、メキシコ5.3%、米国3.2%よりは上である。
時代を画す1980年代を四つのタームでみる。①民主化(軍政から民政へ、88年憲法、「エリート層によるトップダウンの政治から国民参加の政治へ」)、②経済の市場化(国家主導から市場開放、貿易自由化、財政責任法、「力ずくの自由化⇒無防備な自由化⇒幸運な自由化(コモディティー価格上昇のおかげ)」)、③多様な国民の社会的包摂(条件付き現金給付制、保健医療統一システム、「中間層の拡大⇒消費市場の拡大⇒要求の拡大」)、④市民社会の勃興(参加型予算、連帯経済、CSR、国民投票、「市場・国家・市民社会の三つが相互に協同し、あるいは牽制しあう多元主義的な経済社会の形成」)
グローボ(TV&新聞)の経済コメンタリスト、ミリアン・レイタゥンは、著書『未来の歴史:21世紀ブラジルの地平線』において、「私たちの進み方はブラジル方式で他の国民や外国から無政府的とみられるかもしれないが、もはや中央集権的、権威主義的に計画される時代ではなく、交渉、討議、民主主義的に決定する方式を国として選んだのだ」、
と書いているが、その通りだ。
現況を大混乱とみなすか、それとも新生ブラジルの「ガバナンス」を模索する過程とみなすか、いずれにせよポストNew-Brazilへの一里塚であろう。
日系企業としては、信頼醸成の実績をバックに「ガバナンス」を生かしたブラジル・ビジネスの可能性を追求することが求められよう。
製造業が海外展開する際の知財リスク
講 師 : 飯村重樹弁理士
知的財産権のうち、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を産業財産権というが、企業が海外展開する場合の知財とはこの産業財産権を指すといえる。
知財なしで海外展開する時のリスクを一般的にみれば、製品・サービスを展開する場合に特許が侵害される、知的財産権が侵害されて事業がストップしてしまう、というリスクである。
このリスクを回避するためには、進出先に近似する知財がないか調べ、さらに市場調査も行い、近似する知財があれば、製品の設計・仕様の変更、ライセンスを受ける、といった対応を行うべきだ。また、近似する知財がない場合は、知財の権利化を図り、製品・サービスの模倣を防止する、ないしは、市場占有により参入障壁を構築する、などを行う。
現地市場の確認に関して、二点申し上げると、①新興国のBOP(Bottom of Pyramid、低所得者層)をどう取り込むか、②製品・サービスの現地化(過剰品質の認識とか)。
現地のインフラの確認に関しては、①独立資本が認められているか、②パートナーを探す場合(共同開発先、部品調達先を見つけるetc)、③進出先の労働力の活用(単純労働力だけとしない、開発機関は現地におく)。
知財マネジマントについては、①製品・サービスの技術コントロール(特許をとるetc)、②製品のデザインコントロール(機能と結びついた製品デザイン設計)、③知財権を取得する(自ら権利化、知財権の譲渡など)
ブラジルに進出する製造業の契約トラブルと知財トラブル
講 師 : J・R・グスマゥン G&Lパートナー、元特許庁長官
まず、最近の政治経済情勢について一言。マクロ時間軸からみると堀坂教授が見事にまとめた如く、現在、政治的な“地震”が起きているが、この大統領弾劾のプロセスが憲法に則って、民主的に、大きなトラブルなく進められている。経済不調はしばらく続くだろうが、今後、もっとよくなっていくと期待している。
ブラジルに事業進出する場合の、知的財産権(IP)に関する指針について。
まず、ブラジル法は全般的にフランス法をベースにしており、知財関係法も同様であることを指摘しておきたい。
第一ステップは、ブラジル国内において自社の知的財産権(商標、特許&実用新案、工業意匠)を保護すること。登録を受けることのできない権利として、「特許性のない技術、ノウハウ、企業秘密・事業手法、トレードドレス、非伝統的商標」がある。
産業財産法に基づき、不正競争行為は罪とみなされるが、トレードドレスと不正競争の“判定”(市場水準とみなされれば、不正競争ではない)の、いくつかの例を紹介。
第二ステップは、知的財産権に関し、堅実な戦略を確立すること。
契約に基づく保護体制により裏付けられたビジネスモデルを選択し、税制上の優遇措置を調査する、など。
第三ステップは、ブラジルの子会社の知的財産権担当チームに関し、同権利を保護するための雇用契約の見直しと合意を築く。
従業員の活動・職務範囲に関し明確な規定を設け、秘密保持規定を設ける。など。
企業秘密を従業員が侵害した場合、民法に基づく不法行為責任に、刑事責任が加わる。
ブラジル特許商標庁(グスマゥン講師は、同庁の元長官)について。
知的財産権のライセンシング、技術移転、技術提供契約およびフランチャイズ契約の登録を担う機関であるが、同庁は、登録のプロセスに介入し、これに異議を唱えたり、当事者に対して条件や条項の修正や変更を求めることができる。
日本企業-子会社または同じ業界に属する企業、の間のロイヤルティの上限については、商標のライセンスについては1%、ノウハウや特許のライセンスについては1~5%.
G&Lが担当した訴訟判例を二つ
- ホンダ対カンジスキー(2010年に、両当事者間において和解契約)
- 武田医薬品工業 対 サンド・ブラジル(2012年に、和解契約を締結)
技術移転、知財移転におけるブラジル特有の留意点
講 師 : A・P・セリドニオ G&Lパートナー
発明特許について。技術保護期間は20年(ないし特許が付与されてから10年間)実用新案特許期間は、15年間(ないし特許が付与されてから7年間)産業財産法に関する重要課題として、非特許事由を三つ指摘する。
- 人体または動物に適用する外科的技術および方法、ならびに治療または診断方法
- 遺伝子組み換え生物を含む生物の全体または一部分
- ソフトウェアそれ自体、事業的・商業的手法、数学的手法、美的創作物、ゲームのルール
商標権については、保護の対象となるのは、①文字商標、②結合商標(文字とロゴの組み合わせ)、③図形商標(図形要素のみ)、④三次元商標
ブラジルにおいて著名な日本の商標としては、”HONDA”も“PlayStation”も認可されたが、”Nikon”は認可されなかった。
最後に、ブラジル特許商標庁における日本の優先案件数の順位をみる。
ブラジルで特許出願を行う外国のなかで、日本の案件数は三番目、同じく、工業意匠出願
数では二番目、さらに、商標登録出願数では七番目、である。
より詳しい情報は、G&L(GUSMÃO & LABRUNIE)に連絡いただきたい。
日 時
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2016年4月20日(水)13:30~16:00 |
会 場 | フォーリン・プレスセンター
住 所:東京都千代田区内幸町2丁目2-1 日本プレスセンタービル6階 |
会 費 | 無 料 |
定 員 | 先着70名様 |
主 催 | 日本ブラジル中央協会、松田綜合法律事務所 |
後 援 | 駐日ブラジル大使館、在日ブラジル商工会議所 |
お申し込み | 4月15日(金)迄に以下URLの協会ホームページよりお申込みください。 |
お問い合わせ | 日本ブラジル中央協会 事務局 担当:宮田、上条 info@nipo-brasil.org |
プログラム
13:30~13:35 | 挨 拶 藤村修 日本ブラジル中央協会副会長(前内閣官房長官)挨拶 |
13:35~13:40 | 挨 拶 松田 純一 松田綜合法律事務所 所長弁護士 |
13:40~14:10 | 講 演 堀坂浩太郎 上智大学名誉教授 ~厳しいブラジル政治経済環境と企業ガバナンスの重要性~ |
14:10~15:50 | 講 演 Mr. José Roberto Gusmão G&Lパートナー Ms. Ana Paula Celidonio G&Lパートナー 飯村 重樹 松田綜合法律事務所 弁理士 ~製造業が海外展開する際の知財リスク~ ~ブラジルに進出する製造業の契約トラブルと知財トラブル~ ~技術移転、知財移転におけるブラジル特有の留意点~ ※休憩時間含む。日英逐次通訳付 |
15:50~16:00 | 質疑応答 |