演 題: 在ベレン領事事務所勤務を終えて〜管轄地域とそのポテンシャリティー
講 師: 小林雅彦 前ベレン領事事務所長

小林雅彦氏(前ベレン領事事務所長)

今回2年8か月のベレン駐在であったが、自分がかつて経験したポルトアレグレ、ブラジリア、サンパウロなどの南部ブラジルとは違う、北伯・東北伯の実態を肌で感じることが出来た。管轄4州の概要・現状、トピックについてお話してみたい。

総領事館時代(2013年まで)は5名体制であったが、領事事務所になってからは3名と減員され、その人数で、面積としては日本の5倍にあたる4州(パラー州、アマパー州、マラニョン州、ピアウイー州)をカバーしていたので、時に厳しい対応を迫られたこともあった。(例えば、大使公式訪問時に、マラニャンにて邦人保護案件が起きた時など)

 

パラー州について

州GDPは、全国27州中の13位で人口820万人、主要産業は鉱業、牧畜業、農業、観光業などだが、私が強調したいトピックが、3点ある。

その1.アルブラス社関連

Valeが抜けノルウェイ資本と日本資本のジョイントへ資本構成が変わったが、年間生産量45万トンの約半分が日本へ輸出され、これは日本のアルミ輸入量全体の10%となっている。この積み出し港として機能しているのが、ヴィラ・ド・コンデ港(ベレンから車で2時間)であり、現在、アルミだけでなく穀物ターミナルも建設中で、中西部の穀物の物流が改善されることが期待されている。

その2.トメアス移住地におけるアグロフォレストリー

モノカルチャーによる胡椒栽培の壊滅的減少という実体験を踏まえて、考案・開発されたのが、アグロフォレストリーという森林再生と農業を混合する手法だが、これが地歩を固めてきている。収穫された果物がトメアス組合加工場で冷凍果汁に加工され、日本へ輸出されている。輸入総代理店フルッタフルッタ社を通じてアサイや各種熱帯果汁が販売されているが、販売では苦戦しているため、日本以外の市場開発も行っている。一方、日系農家に限定されていたアグロフォレストリーのノウハウを、トメアス周辺からアマゾン地方全体に広める啓蒙的運動を展開中でパラー州ばかりかアマゾナス州などにも浸透中で、JICA草の根技術協力のスキームも活用されている。さらには、このアグロフォレストリーが農業資源としてばかりか観光資源にもなっている点を指摘しておきたい。この新農法を見学したい観光客が、日本ばかりか欧米からも来ており、週200名ほどのレベルまできており、受け入れ側のトメアス組合はうれしい悲鳴をあげている。一つの地域経済活性化の成功例になってきている。また、アサイのほか、高級チョコレートの原料となる選別カカオの輸出も増えつつある(輸入者は明治製菓)。

その3.ベレン食文化への脚光

パラー州の多様にして伝統的な食材に注目が集まっている。しびれる効能のあるジャンブー、あるいは有毒マンジオカのしぼり汁を加熱・発酵して作るツクピーなど、あるいは様々な水産物などを原材料とした食文化が、ミラノの「食の万博」で脚光を浴び、ユネスコによってベレン市が「クリエイテイブ・シティー」に認定されている。「世界のシェフ、ベスト50人」に選ばれるなど国際的に知られているサンパウロのシェフ、アレックス・アタラも、頻繁にベレンを訪れており、ベレンが新しい食文化の発信地になってきているともいえる。

 

アマパー州について

かつて連邦直轄領で赤道直下の州。唯一の進出企業が、日本製紙の現地法人であるアムセル社だ。ユーカリの植林とチップ生産を行っており、チップはサンタナ港から輸出されており、同州にとっては基幹産業になっている。赤道のところに記念モニュメントがあるが、あまりぱっとしないものなので、ここを改修して観光客を呼び込むとか、観光開発の余地はある州だろう。

 

マラニョン州について

日本からの進出企業はないが、輸出物流拠点としてのイタキー港に注目が集まっている。現在は、カラジャス鉄鉱石の積出港であるが、新穀倉地帯マトピバ(マトグロッソ北部+トカンチンス北部+ピアウイ南部+バイーア西部)からの穀物輸出拠点になるべく多くの投資が行われている。また、新しい観光地として北部海岸線に位置するレンソイス・マラニェンセスも注目される。日本のテレビやガイドブックで紹介されたこともあって日本からの観光客もサンパウロ在住日本人も多数訪問するようになっている。ちなみに砂丘地帯の悪路に耐える車種はトヨタ・ハイラックスのみで他の車種は淘汰されてしまった。こんなところでもトヨタが評価されていて驚いたものだ。

 

ピアウイ州について

ノルデスチ(東北部)の州のなかでも最貧州で、日本からの進出企業はないが、マトピバの一画を成す州の南部セラード地帯における農業開発(特にダイズ)が著しい。また、私立高校のなかには全国教育水準試験でトップクラスの成績を残した学校もあり、そうした学術・教育交流の一環として、UNINOVAFAPI大学と新潟大学の学術交流協定が締結されている。

 

来年2018年は日本ブラジル移住110周年であり、2019年は日本人アマゾン移住90周年である。この歴史の重みを味わったのが、ベレン駐在という体験であった。

 

日  時 2017年6月8日(木)
14:00~15:30
会  場 米州開発銀行アジア事務所会議室

住  所: 千代田区内幸町2-2-2 富国生命ビル16階
アクセス:都営地下鉄三田線「内幸町」駅 A6出口・・直結
JR山手線・京浜東北線・東海道本線「新橋」駅 日比谷口・・徒歩6分
東京メトロ千代田線・日比谷線「霞ヶ関」駅 C4出口・・徒歩3分
東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2出口・・徒歩5分

会  費 【個人会員】1,000円
【法人会員】2,000円
【非 会 員】3,000円