講 演 者: 中前隆博 外務省 中南米局長
演   題: ブラジル日系社会について~ サンパウロでの経験から「有識者懇談会」の議論を理解する

 

中前隆博 外務省 中南米局長

サンパウロ総領事としての任期中(2015年~2017年)、多くの識者から日系社会についての意見を聞いた。日系社会の継続性についてはネガティブに捉える意見、すなわち「ブラジルの日系社会は現地社会に同化して消えていく、日系社会の日本とのつながりは希薄になっていく」といった論が主体であった。だが、日系人の若い世代から、日系アイデンテイティを再確認したうえでブラジル社会に貢献しようという様々な活動が起きてきていることも事実であり、そうした彼らと親しく交流した自分の体験を踏まえ、ブラジルの日系社会について再考してみたい。

まず、今年5月に提出された「中南米日系社会との連携に関する有識者懇談会」(座長:堀坂上智大学名誉教授)報告書のポイントを復習しておきたい。

日系社会に対する政策は、1955年に設置された海外移住審議会の答申に基づき行われてきたが、1985年の答申では日系人への支援に加え協力が打ち出され、1993年の答申では移民三世までを対象とした支援によって日本の理解者を育成するという考えが出された。2000年の意見では、日系人は日本との「架け橋」、日系人への支援から協力への移行が重要であり、具体的施策として、日系人の招聘や研修、日系社会による日本語・日本文化普及への協力、日系人材の活用・雇用、などが提言された。

今回の「有識者懇談会」の報告書のポイントは、基本的な考え方(①日系社会は中南米の日本に対する信頼の基礎、②若い日系リーダーとの連携を強化、③日系人が誇りを持てる日本を創る)を踏まえて、オールジャパンの取り組みを進める、というものだ。

具体的対応策としては、①中南米日系社会の世代を跨いだ発展に資するための施策(人材育成や連携事業、日系団体の持続的発展の支援、日系人の訪日機会の拡大、小規模日系社会の活性化などなど)②中南米日系社会とのオールジャパンでの連携のための施策(知日・親日派の育成、経済界や学術分野など様々な連携事業など)、③在日日系社会に関する施策(子弟教育支援、人材活用)、といった内容である。

戦前戦後合わせブラジルへの移民は累計24.5万人であったが、現在の日系人口は推定190万人とみられ、その日系社会の特徴として、ブラジル社会における社会的地位の確立、農業分野~経済界~文化面への多面的貢献などを指摘できる。

若い世代による日系文化継承の具体例として、私が感動した三例を挙げたい。①内陸部の中堅都市リンスでの日系移住100周年記念パレード(2016年4月)、②サンパウロ市ヴィラ・カロン地区の沖縄県人会若手メンバーによる沖縄舞踊パーフォーマンス、③徳島県人会の若手によるブラジル的要素も加味した阿波踊り、は画像・動画を見ていただいた通りだ。

多くの若手日系人がボランティア社会活動を展開しており、そのいくつかを私もサポートしてきたが、印象に残ったものとして、

  1. 「ABEUNI」100名以上の医学生によるボランティア団体、低所得者層への医科歯科健診などを行っているが、そのリーダーは日系だ
  2. 「Litro de Luz」太陽電池とLED照明によるミニ街灯を非電化地区に展開する運動、リーダーは日系女子学生
  3. 「Interkaikans」各地の日系団体間のコーディネーション運動、集めた寄付・生活必需品を福祉団体へ
  4. 「文協の青年部会」日系移民の歴史的資産=レガシーの自覚と敬意、日系人としてのアイデンティティーに関する議論の深耕
  5. 「JCI(ブラジル日本青年会議所)」によるリベルダージ地区掃除活動Revitaliba
  6. 「Friends of Japan House」既に累計入館者数48万人となったジャパンハウスの「友の会」が若手を中心に立ち上げられ、SNSもフル活用してなかなか素敵なネットワークが生まれている

最後に在日ブラジル人に関して。ピーク時の32万人が昨年には17万と減少したが、ここにきて増加傾向(現在18万人)にある。3世までのVisa(在留資格)制限を4世にも解禁することが法務省主体に検討されているが、企業関係者にも日系人に関する理解を深めてもらう必要があるし、在日ブラジル人生徒への教育支援も重要であると再認識している。

日  時 2017年11月22日(水)
14:00~15:30
(13:30受付開始)
会  場 フォーリン・プレスセンター

アクセスマップ
千代田区内幸町2-2-1日本プレスセンター6階
アクセス:東京メトロ 日比谷線、丸ノ内線、千代田線、霞ヶ関駅C4番出口,都営三田線 内幸町A6番出口

参加費 【個人会員】1,000円【法人会員】2,000円
【海外日系人協会 賛助会員】1,000円【非  会  員】3,000円
※当日、会場にて領収書と引き換えに、参加費を申し受けます。
※海外日系人協会の賛助会員の方は、当協会の個人会員と同様に扱います。
共催 公益財団法人 海外日系人協会
お問合せ 日本ブラジル中央協会 事務局  宮田・上条
E-mail:info@nipo-brasil.org