演 題:最近のブラジル情勢と日本・ブラジル関係
講演者:山田 在ブラジル日本国特命全権大使

 

1.最近のブラジル政治情勢(テメル政権の成果)

山田彰氏(駐ブラジル大使)

テメル政権に対する国民の支持率は5%前後と低迷しているが、再選を目指さないからこそできる不人気政策=国にとって必要な改革=に取り組んでおり、市場(経済界)の評価は低くない。

  1.  財政健全化のための、歳出上限設定(憲法改正)=2016年12月
  2. 労働法改正(世界最多の労働訴訟の温床となっていた硬直的な労働法を柔軟化)=2017年7月(発効:11月)
  3. 政治改革・選挙制度見直し(2018年度総選挙から政党資格要件を厳格化、選挙資金補助基金の新設、各候補の選挙資金上限額設定)=2017年10月⇒乱立政党数の縮小、企業献金禁止後の選挙資金問題の解消、選挙資金を巡る汚職抑制。以上が既に実施したもので、今後の課題としては次の二つ。
  4. 年金改革(年金支給開始年齢設定など):下院にて審議中、難航中
  5. 税制改革(複雑な税制の簡素化など):議員立法による憲法改正案を下院審議中。

 

2.ラヴァジャット捜査の継続

ブラジル史上最大級の汚職・贈収賄事件は発覚した2014年から3年経ち、捜査は継続されている。今年11月までに282名以上の経済人・元閣僚・議員らが刑事起訴され、177件の有罪判決。現在捜査対象となっている現職連邦議員・閣僚・州知事・元政治家らは100名以上。テメル大統領も二回起訴(2017年6月、9月)されたが、下院での票決で訴追は否決された。

このスキャンダルによって国民の政治不信は深刻化し、テメル政権支持率は史上最低レベルの5%前後。

但し、この“副産物”として、コンプライアンス重視の政治倫理ばかりか企業文化(これまでの“袖の下”容認文化の否定)も近代化する、との期待感も出てきた。

 

3.2018年の大統領選挙(第一回投票10月7日、決選投票10月28日)

テメル大統領は不出馬を表明(但し、出馬する可能性はゼロではないという見方もあり)、次期大統領候補者を巡る構図がまだ見えない(メキシコでは2018年7月大統領選が行われるが、有力候補3名を主体とする構図は見えている、が、ブラジルは“不可視状態”)。

最新の世論調査で34%の支持を集めたルーラ元大統領が出馬すれば当選する可能性が高いが、大手ゼネコンからの収賄容疑で、7月の第一審で有罪判決をくらっている。2018年1月18日に第二審の判決が出るが、ここで有罪確定となれば、出馬不可となる。(但し、“最強弁護士団”を組んでルーラは控訴するなりの法廷抗争が泥沼化する可能性もあり。)

ダークホースがボルソナーロ下院議員。現在の支持率17%と二番手。元軍人で軍事政権時代を美化、同性愛も全面否定する右派(極右という見方も)だが、政治不信の受け皿となり、特に若い世代の支持を集めており、ブラジル版トランプ現象の再現もあるかもしれない。移籍した所属政党Patriota(愛国者党)が小政党なので、政見放送枠(時間)が僅か、とか不利な材料はあるが。

有力候補は、他には、マリーナ・シルヴァ元環境大臣(支持率9%)、アルキミン・サンパウロ州知事(支持率6%)、メイレレス財務大臣(支持率1%)などがいる。政治観察の玄人筋には、中道派アルキミンの受けがいい。

ボルソナーロ氏には、2週間前に会ったが、私には随分マトモな政治家だ、との印象を受けた。親日家で2018年2月に、日本・韓国・台湾を訪問する予定だ。(嫌いな中国には行かない由)。

 

4.明るい兆しを見せるブラジル経済

2015年(▲3.5%)2016年(▲3.5%)と二年連続のマイナス成長だったブラジル経済は底を打ち、年間ベースで、政府見通しでは、2017年0.5%、2018年2%のプラス成長へ、と回復サイクルに入った。またインフレ率も2.8%前後と歴史的な低水準でSELIC(政策金利)も7%と最低レベルとなっている。但し失業率は、最悪時(2017年1月次13.7%)よりは改善しているが、まだ12.2%と高水準にある。

テメル政権下で、本格的な景気回復と持続可能な成長を目指す政策が成立又は審議・検討中であり、外国投資を積極的に呼び込み、空港運営やプレサル(深海油田)開発等の民営化を順次実施している。開かれたブラジルになってきている。

とはいえ、NAFTAによって経済開国したメキシコ=開かれた国=から来ると、ブラジルの閉鎖性には驚くばかりだ。

歴史的に北の大国アメリカにやられてきたメキシコは、かつてディアス大統領が「神はかくも天国から遠く、アメリカから近くメキシコを作り給うた」と嘆いたように、隣国との関係に苦労してきたが、そのメキシコに比べれば、アメリカからも遠く、自国市場がデカいブラジルは、お山の大将になってしまい、その結果、製造業の競争力が弱くなっている。

ここにきて経済外交も開かれた方向に来ており、EU&MERCOSULとのFTA交渉も、アルゼンチンの開国も手伝って進展している。さらには、OECD加盟のための諸作業中であり、ようやくグローバル・スタンダードに近づき、ブラジルのシステム全般が近代化してきている、と思える。

いささか自画自賛すると、私のメキシコ在任中に、日本からの進出企業数は40%以上増えて1,000社を超えるようになっているので、この“運気”をもってすれば、ブラジルへの日系進出企業数(現在、686社)も四ケタになるのでは、と念じている。

 

5.戦略的グローバル・パートナーシップの日伯関係

二国間関係は伝統的に良好であるが、2014年8月の安倍総理訪伯、2016年8月のリオ五輪閉会式への安倍総理参加、2016年10月のテメル大統領訪日、2017年4月のサンパウロにおけるジャパンハウス開館式にテメル大統領出席、と関係強化は継続している。

 三つのJuntos(共に発展、共に主導、共に啓発)をモットーに、日本とブラジルは国際社会において戦略的グローバル・パートナーシップの促進を図っている。また、世界最大の日系社会を通じた信頼の絆を深めている。

2018年は移住110周年であり、様々な慶賀行事やイベントが予定されているが、こうした行事を通じた日伯交流の推進を図る。

ちなみにブラジリアの大使館が開設したFacebookのフォロアーの数は、大使館としては世界で一番である。

 

日  時 2017年12月26日(火)
15:30~17:00
(15:00 受付開始)
会  場 フォーリン・プレスセンター

アクセスマップ
千代田区内幸町2-2-1日本プレスセンター6階
アクセス:東京メトロ 日比谷線、丸ノ内線、千代田線、霞ヶ関駅C4番出口,都営三田線 内幸町A6番出口

参加費 【個人会員】1,000円【法人会員】2,000円【非  会  員】3,000円

※当日、会場にて領収書と引き換えに、参加費を申し受けます。