演 題:サンパウロ支局長として見聞したブラジルを語る
講演者:田村剛 朝日新聞前サンパウロ支局長

 

田村 剛 氏
(朝日新聞前サンパウロ支局長)

1.今年の選挙

中南米(6か国)は今年は選挙の年、ブラジル大統領選は10月(一次投票10月7日、決選投票10月28日)だが、見通しが難しい展開だ。ルーラ元大統領が人気トップ(支持率30%)だが、有罪判決(禁錮12年)で拘留中、右派の「ブラジルのトランプ」ボルソナーロ議員が人気二番手(支持15-20%)。ルーラ氏が出馬できるかどうかで情勢は大きく変わる。

 

2.ルセフ元大統領

2010年、ブラジルで初めての女性大統領に選出され、14年に接戦ながら再選されたものの、景気低迷、汚職スキャンダルに見舞われ、反政府デモが急速に拡大(2015年3月には全土で170万人、16年3月には350万人規模へ)、政府粉飾会計容疑で2016年4月下院が、5月には上院が弾劾を決議、失職。

3.テメル政権

選挙を経ずに政権交代(2016年5月)、収賄罪で起訴(二回)されたが、下院が起訴を認めなかった。テメル氏が何故弾劾されないのか。その理由として、①中間層が反政府で盛り上がらず、②政治家としての基盤、③政界の人脈の深さと根回しの巧みさ、④財政健全化や労働制度改革への期待、などを指摘できるが、国民には無力感と政治不信が残った。

4.ルセフ大統領への単独インタビュー(2016年7月27日)

彼女の言葉から。「今回の弾劾手続きは無実の人間に刑を下し、クーデターという罪を犯すものだ」「危機は私のせいではない。中国経済の減速や資源価格の下落など世界的な情勢によるものだ」
インタビューが終わった時、日本文化の話をぶつけると、一旦立ち上がった彼女は座り直して「日本文化を尊敬している」と安藤広重、松尾芭蕉の話から、夏目漱石の作品も読んだことがあるといった、日本ファンぶりを話し始めた。広重の浮世絵を所持しており、これは彼女の自宅(ポルトアレグレ)で飾られているはず。

5.混乱の中のリオ五輪

開催前は、財政破綻(リオ州財政危機)、治安悪化(州警察の質低下、連邦政府は陸軍を投入)、ジカ熱問題、国民の無関心などなど問題だらけであったが、実際に、オリンピック・パラリンピックを開催したら、大成功であった。リオ五輪がアピールした多様性がポジティブに表現された。(聖火台がリオの街中に設置、LGBT表明の選手が相次いだ、広島原爆の被爆者を追悼するアナウンスがなされることになっていたが、IOCのアドバイスで中止、聖火トーチも公式マスコットもデザイン制作は日系人だった、などなど)但し、五輪レガシーの多くは“負の遺産”になった。また、リオ五輪招致も買収されたことが発覚し関係者は多数起訴された。

6.いくつかトピック

①リオのカーニバル。
サンボドロモ(特設会場)で行われるサンバ競演は高価な入場券を買える金持層向けの観光化されたものでしかなく、TVでみるもの。庶民が集結するブロッコのほうが、本来のカーニバルで、こちらには数百万人が集まって、ロックを聞きながら、楽しんでいる。

②ブラジルのコーヒー
高品質のコーヒーは輸出向けなので、国内市場には低品質のものが流通、焙煎時間を長くしなければならないため、どうしても苦味が増し、ここに砂糖をたっぷり入れたカフェジーニョになるのは自然。慣れると、こちらのほうがよくなってくる。

③シリア難民の受け入れ
シリア内戦が始まった2011年からの5年間でブラジルは2千人以上のシリア難民を受け入れている。欧州での受け入れ制限で行先が亡くなったシリア難民にとってはブラジルは救世主になっている。これ(難民受け入れ)も「ブラジルの文化」と関係者からいわれ、感心した。

日 時 2018年6月7 日(木)14:00-15:30
会 場 新橋駅前ホールⅡ

住 所:105-0004 東京都港区新橋1-14-7荒川ビル 2F-A

参加費  個人会員1,000円, 法人会員 2,000円, 非会員 3,000円
※会費は当日会場にて申し受けます。領収書もご用意します。