講演者:中前隆博 外務省 前中南米局長
演 題: ブラジル・ボルソナーロ政権の現状と日伯関

最近のブラジル経済の流れ

ここ20年間のブラジル経済の動きを国債のレーティングで見てみたい。金融面から国の安定性を長い目で見るのは分りやすい。
1994年から2000年:レアルプラン(経済安定化政策開始)
2003年 ルーラ(労働者党)政権発足→2008年 コモディティブーム
→貿易拡大・経済拡大→大きな期待が持たれた時期
→レーティング上昇、2011年がピーク
2011年 ルセフ政権発足→2013年 リーマンショック後の経済縮小、レーティング下降
2014年 マイナス成長、最大規模の疑獄 Lava Jato、経済システムに対する信頼性失墜
2016年 ルセフ大統領 弾劾裁判→失脚→テメル政権発足→2017年からレーティング
更に下降

ブラジルと中南米経済

中南米主要7ヶ国(ブラジル、メキシコ、アルゼンチン、コロンビア、チリ、ペルー、エクアドル)の内、ブラジルは中南米経済の1/3、メキシコは2割、アルゼンチンは1割を占め、この3か国で中南米全体の6割を占める。2018年中南米主要7か国のGDP成長率平均は1%だった。

ボルソナーロ政権発足

ボルソナーロは軍人出身で64歳。下院議員を7期務めたがずっとヒラ議員だったので、政治素人という評判が選挙ではプラスに働いた。既成政党に対する批判勢力の受け皿となった。
オーソドックスな経済政策を打ち出し、最優先は年金改革、民営化による小さな政府、汚職の撲滅として、さらにシカゴ学派のパウロ・ゲデスを経済大臣に任命した。
これらは、選挙中のブラジルの空気をうまく掴んだものだが、一方では銃の規制緩和、環境規制、先住民保護の規制緩和に関する発言もあり批判を受けた。
政治のスタイルは従来の利益調整型ではなく、選挙戦を通じSNS、ツイッターを大変上手く利用。
日系人に対するシンパシーがあり、選挙活動中の2018年2月に浜松、大泉を訪問。

ボルソナーロ政権発足の6か月の政治・経済
  •  大臣の数(即ち省庁の数)を29から22に減少させると同時にスーパー官庁・大臣を生み出した(ゲデス経済大臣、モーロ法務・治安大臣)。副大統領と閣僚9名は軍人出身。政権発足時は軍政に戻るという批判があったが、皆、優秀で、メディアはこれらの軍人出身の閣僚を評価している。)
  • 年金改革は、下院を通過→ボルソナーロの手腕、成果を示し、市場も好感、株価も上がった。
    ただ2019年の成長率予想は年初の2%の予想が徐々に下がり、現在0.8%に下方修正され、 失業率も改善しておらず、経済の実態はついていけていない。また、政権内の3グループ(テクノクラート、軍人、右派)の対立問題もある。
ボルソナーロ政権の外交
  • ルーラ、ルセフの外交は途上国との関係重視。ボルソナーロは米国ほか主要国との外交重視。
  • OECDへの加盟を強力に進めている。ブラジルがWTOの途上国ステータス、即ち特別待遇(S&DT)の放棄を表明したことで、米国はブラジルの OECD入り支持。
  • 中国との関係:選挙戦中は、ボルソナーロは中国はブラジルの商品ではなくブラジルそのものを買収しようとしていると警戒感を 露わにしたり、2月に台湾を訪問し、中国を刺激したが、政権発足後は、現実的な政策を推進すべきとて最大の貿易相手国の中国との関係はしっかりマネージするということで 進んでいる。5月にモウラン副大統領が中国訪問し、関係はモデレートになって来ている。
  • メルコスール:1月アルゼンチン、3月チリを訪問。6月末にメルコスールとEUとの交渉妥結。
  • その他センセーショナルな発言:「在イスラエル大使館をエルサレムに移転する」
    →通商事務所をエルサレムに設置するという方向で落ち着いた。
    「パリ協定離脱」。
    「国連の人権理事会からの脱退」。
  • 今年、ブラジルはBRICsの議長国→どうマネージするか注目される。
  • 日本との関係:昨年11月のダボス会議にて安倍首相と会談(両者ウマが合う)。
    5月、OECD閣僚理事会に出席した河野外相がアラウージョ外相と会談。両国は普遍的な価値を共有する戦略的グローバルパートナーシップであることを確認した。また、ブラジルに200万人の日系人、日本に20万人のブラジル人がいる。両国のきずなを大切にしたい。
    今年の6月大阪G20サミットの際の日伯首脳会談での日本からブラジルへのメッセージは、「さまざまな改革を評価する。ブラジルのOECDへの加盟審査の開始を支持する。日本企業は 投資環境改善のための年金改革、税制改革の動向も注視している」というもの。その他、ブラジルよりさまざまな分野で閣僚会合もあり、今後新しい関係を作るチャンスでもある。日本とブラジル他中南米諸国が享受してきた自由貿易、民主主義、人権擁護を今後ともパートナーとして一緒に守っていきたい。
【Q&A】

Q:メルコスールとEUの交渉は合意に至ったが、日本とメルコスールとのEPAは止まっているように思える。現在の状況と今後の見通しはどうか?

A:ここ1-2年、議論してきた。民間の様々なフォーラムで要望、ご提案も頂いている。
止まっているとは言えないが日本のさまざまな産業界のコンセンサスを得ることがどうしても必要。EUとの合意も踏まえながら議論している。努力はしている。もう少し時間を頂きたい。


Q:G20大阪会議にぶつけるような非常にタイミングでブラッセルでEUとメルコスールの交渉合意が発表された。日本は既にEUとFTAが成立して動き始めており、日本とEU、EUとメルコスールとディメンションで考えなければいけないのではないか。日本としてTPP11をTPP12へ拡大、アールセップ(東アジア地域包括的経済連携)など優先順位はあるが、今回の発表で(日本とメルコスールも合意に持って行かなければならないという)全体の機運は高まったのか?変化を与えたのか?個人的にどうお考えをお聴きしたい。

A:ブラッセルでメルコスールとEUが合意したことで、日本とアルゼンチンの外相会談が急遽キャンセルされた。メルコスールとEUの交渉もこれまで20年間殆ど止まっていた。自由貿易交渉は、 これから文言の詰め、発効、実施まだまだ時間がかかるが自由貿易体制でやっていくというアナウンス効果はあったが日本への当てつけではない。日本とEU、メルコスールの三角関係でお話されたが、日本は、現在、TPP、EU、アールセップを優先している中で、日本とメルコスールが大きなmissing linkとなっていることは事実だと  個人的には思う。


Q:日伯協力は環境保全という側面を重視して推進されてきたが、アマゾンの開発、その中での農業、 食糧政策を日本政府はどう考えるか?

A:日本は、従来より世界的な温暖化フォーラムで積極的な環境保全の発言をしてきている。 アマゾンについても衛星写真を使って以前より不法伐採のモニタリングなどに協力している。ブラジルは厳しい環境規制をしており、日伯協力して環境保全も政策を進めていくベースはある。首脳会談でもボルソナーロよりは環境をめぐる取り組みにはしっかりやっていくという表明があった。食料生産の関連では、かつて日本はセラード開発で大きな協力をした。一部にそれがアマゾンの破壊に繋がったという議論もあるがもう少し正確に議論すべき。今後とブラジル政府の環境行政を 尊重しながら協力していく。


Q:年金改革は、従来の利益調整型とは違うボルソナーロ式のやり方で、最終的に実現できるのか?

A:(年金改革が行われず)このままではこの国は潰れるという強いコンセンサスはあると聞いている。ボルソナーロが実際どうしていくか不明な部分もあるが大義はありメディア(世論)を味方につけている。ただ、改革の実現について断定的なことは言えない。


Q:ブラジルはOECDへの加盟の動きがあるようだが、そもそもブラジルは先進国、途上国のどちらと見るべきか?

A:先進国、途上国と言う分け方で見ようとすると大変難しい。少し違う定義付けすると、ブラジルは新興国であり大国であることは確か。 中南米で見るとメキシコはOECDに加盟して25年経過、チリ、コロンビアは加盟済み。現在、コスタリカは審査中。
ブラジル、アルゼンチン、ペルーは加盟を希望しており日本政府は支持している。
メキシコはこの25年間でOECD内で切磋琢磨して規制・経済・社会・教育政策などについての政策の語り方について鍛えられた。結果、アメリカどうどうと通商交渉をしている。先進国と途上国との線引きが難しくなっているが、中南米諸国は先進国の政治経済のフィロソフィー(考え方)を取り込んでいる。日本とブラジルを先進国vs途上国と言う関係では語れない。


日 時 2019年7月22日(月)
15:00~16:30
(受付開始 14:30)
会 場 フォーリン・プレスセンター会見室

住所:千代田区内幸町2-2-1
日本プレスセンタービル6階

 参加費 個人会員1,000円, 法人会員 2,000円, 非会員 3,000円
※会費は当日会場にて申し受けます。領収書もご用意します。
定 員 45名
申込み 下記お申込みフォームにてお申込み下さい。
お問い合わせ 日本ブラジル中央協会 事務局 (E-mail : info@nipo-brasil.org)