演 題: 最近のブラジルについて~希望も期待も
講演者: 青木 智栄子 氏 (Blue Tree Hotel CEO)

 

青木 智栄子 氏(ブルーツリーホテル社長)

ブラジルの大手メディアによって「最も影響力のあるブラジル女性の一人」に何回も選ばれた青木智栄子氏は、日系社会の枠を超えて活躍中の著名なビジネスウーマンである。この度、ブラジル最新事情について日本語でフランクに語っていただいた。

 

先週、セーハ外務大臣が健康理由で辞任したが、最近のブラジル政治は、なんとも動きが激しい。経済関連のデータをいくつか垣間見ると、GDP成長率は二年連続マイナス(2015年▲3.8%、2016年▲3.5%)、工業生産もマイナス(2015年▲8.3%、2016年▲6.6%)、失業率は12%、といった悪い数字ばかりだが、インフレは4.3%に収まっており、輸出も好調(2月の輸出額154億ドルは前年同月比22%増、貿易黒字45億ドル)で、経済は再成長に向けて動き出している。

テメル政権は、改革パッケージを推進中だが、政府歳出上限設定(憲法改正案が国会で可決)に加え、財政改革の目玉である社会保障改革(老齢年金の受給年齢を男女一律65歳へ)にも果敢に取り組んでいる。

そうしたテメル改革の一角を占めているのが、民間活力を取り込もうと設置されたCDES(経済社会開発諮問委員会) である。私はその委員を拝命したので、月一回のMTGに参加しているが、この委員会は政府からの干渉が全くなく、自由な議論を交わせることが出来る。現在、ビジネス現場からの改革提言をまとめているところだが、主なところを列記すると、①税制改革(連邦税やら州税やら複雑極まりない税金の一本化)、②基礎教育の改革(大学教育よりも初等教育の改革、実践型授業への変革、学校におけるフリーWiFi導入など)、③アグリビジネス(農場労働者保険、持続可能な農業開発、市場拡大への提言、物流インフラへの投資など)、④生産性向上(イノベーションの奨励、ベンチャーキャピタル支援、デジタル化促進など)、⑤労使問題近代化(時代遅れの現行労働法の“近代化”、採用形態の変更)、⑥社会保障改革、などだ。いずれも“改善”ではなく“改革”が必要だとの提言だ。

 政府諮問委員になってから、改めて、ブラジル全般を考える機会が増えたが、「モラル・倫理を持っている人(公人)が少なくない」との思いを深めている。私が注目している、司法や行政の現場で活躍している三人について語っておきたい。

その1が、パラナ州の連邦地裁判事セルジオ・モロ氏だ。現在44歳だが、周知の如く、ブラジル史上最悪の疑獄事件である“ラバジャット”に迅速に対応しており、これまで政界財界問わず175名が逮捕されている。彼のまっすぐな司直精神は素晴らしい。

その2が、現在最高裁判所長官のカルメン・ルシア氏(62歳)。彼女とは直接会う機会があったが、その人柄には感服している。朝5時起床から終日ストイックに仕事に全力集中する仕事人だが、数ヶ国語に通じた教養が自然と感じられる人で、ユーモアのセンスも抜群。そんな彼女の口から、「自分の任期中(1年半)に司法改革を成し遂げたい」「女性はもっと活躍すべきだ」と聞いている。司法のトップとして毅然とした態度を取り続けている。

その3が、現サンパウロ市長のジョアン・ドリア氏(59歳)。父親が軍政時代政治亡命したため、少年時代から働くことになった元勤労青年の企業家・ジャーナリストだが、政治家的発想ではなく、マネジメントの視点からサンパウロの市政に取り組んでいる。いくつかの標語に彼の市政方針を読み取ることが出来るが、その1が、“Cidade Linda(美しい町)”。朝6時に起きて、自ら箒をもって町の掃除を展開中(落書きを白く塗りつぶしすぎて、街頭アートの否定だとのクレームもきたが)。
さらに、公共サービス(例えば公衆衛生)の迅速化だ。市施設の民営化によるムダ削減なども。私は、彼とは10年前に会ったことがあり、Embratur(ブラジル観光庁)総裁としても活躍したが、クリーンでとにかくよく働く人だ。今の勢いから、次期(2018年)大統領候補へとの声が高まっている。

それから、私も参加しているグループ”Mulheres do Brasil(ブラジルの女性たち)“について。2013年に創設された女性グループで、現在の加盟者数2,500名。中産階層の女性ばかりかファヴェーラ(スラム)からも代表が参加しており、「政党には属さない」、「ブラジル全体の視点を持つ」、「アンチ男性、ではない」といった共通視点から、様々な提言を行っているグループである。

いくつかの例をあげてみたが、以上、要するに、「(いろいろ問題は山積しているが、問題を真摯に解決している人材も少なくなく)ブラジルは間違いなくよくなっていく。」と確信している。

 

日  時 2017年3月3日(金)
12:00〜14:00
会  場 シーボニア・メンズクラブ

アクセスマップ

千代田区内幸町2-1-4 日比谷中日ビル1F
地下鉄「内幸町」駅下車2分、「霞ヶ関」駅下車2分

会  費 【会 員】3,000円
【非会員】4,000円
お問合せ 日本ブラジル中央協会 事務局 宮田・上条
E-mail:info@nipo-brasil.org