ブラジル經濟ビジネスフォーラム “ボルソナロ新政権の100日”
2019年5月22日
鈴木孝憲
1.新政権100日に対する評価
(1)世論調査ダタフォーリャでは支持率30%と歴代中最低。ただ、この不支持率70%の中には大統領選1次選でのルーラたち左派への固定的支持率が半数近くあることを注記しておきたい(ルーラ政権以降の生活費補助ボルサ・ファミリアの受給者と労組組合員)。
(2)ボルソナロが新風を吹き込んで経済を活性化してくれると国民は期待していた。しかし今のところ消費、投資、雇用等いずれも増加せず1~3月のGDPは対前年同期比 -0.1% と低調だ。ボルソナロの経験と能力不足や国会との交渉力の無さなど先行きを憂慮する見方も出ているが(こんなことでは年金改革は難航し10年で財政改善1兆レアルもとても無理)もう少し成り行きを見守りたい。
2.最高裁の元大統領ルーラ釈放への動き
(4月11日付レポート参照)
- 最高裁判事マルコ・アウレリオ・デ・メーロは単独で最高裁判例(犯罪者の逮捕拘留は2審の判決後に行うものとする)を最終審確定後に拘留するように改定し2審判決後に拘留されているルーラを単独署名の仮処分令(リミナール)で釈放しようとした。署名されたところで最高裁長官がこれをブロックして来年4月10日までに本件の可否につき最高裁全体会議で決定することとした。 これでひとまずルーラの釈放は阻止されたが、この仮処分が有効ならルーラのほか政治家や一般犯罪者までいれると15万人が釈放対象となっていたというから驚きだ。なお前記マルコ判事は元コロール大統領が最高裁判事に任命。現在長官を含む11人の判事のうち左のルーラ元大統領が3名、ジルマ元大統領が4名任命している。
(2)裏金のナンバー2アカウントは結局犯罪性の認定は一般の裁判所でなく選挙裁判所ということになった。政界の腐敗汚職捜査を強力に展開してきたラーバジャットの弱体化をもたらしそうだ。
3.財界の動き
新政権下の1~3月の工業界の成長率がマイナス2.2%となりこのままでは2019年の成長率が当初の期待値の2.5~3%から1%台に低迷しかねない危機的状況だとして財界も動き出した。財界を代表するサンパウロ州工業連盟(Fiesp)は“政府は年金改革などの中長期的施策は取り組んでいるが足元の景気を上向かせる短期の経済政策を緊急にとるべきだ、としてスカフ会長からボルソナロ大統領に要望書を提出した。ブラジル工業界としてはGDPに占めるシェアーがかつての30%から現在の11%まで低下してきておりこれ以上の低下は何としてでも食い止めたいところ。しかし投資をするためには景気が浮上し消費が増えることが不可欠だ。失御者1340万人と増えている中で消費を増やす政策は?テメール前政権の使った”凍結FGTS(退職金積み立て資金)の引き出し制限解除”など使える手段はいくつかあろう。政府は50超の経済改善策を検討中と見られるが有効な施策が早急にとられ新政権への国民の信頼が醸成されていくことを期待したい。
以 上
(すずき たかのり ビジネスアドバイザー、1961年東京外国語大学卒、 東京銀行入行、
66~67年ブラジル国立バイーア大学経済学部研修R・アルメイダ教授に師事、元ブラジル
東京銀行頭取、元デロイト・トウシュ・トーマツ最高顧問、元新東工業顧問、元サンパウロ州工業連盟Fiesp外資支援委員、スズキタカノリ経済ビジネスフォーラム創設者(サンパウロ、主宰者シゲアキ・ウエキ元大臣)、ブラジル経済に関する著書・日本経済新聞出版社刊他多数、ブラジル・サルバドール市名誉市民、ブラジル大統領より南十字勲章叙勲 )