2018年8月8日
鈴木 孝憲 氏

2018年大統領選短信

 

1 党大会の決定

8月5日期日の各党の党大会による他党との連携と正副大統領候補者の決定結果が発表された。今回の選挙では従来と異なり当選確実と見られる大物候補がおらず前年2017年10月に行われた世論調査では左の元大統領ルーラが30%、右の連邦下院議員で元軍人のボルソナーロが10%超の支持率でその他はどんぐりの背比べだった。

 

2 抜け出せるかアルキミン前サンパウロ州知事

アルキミンが総裁のPSDB(ブラジル社会民主党)は、PP(進歩党)DEM

(民主主義党)以下9つの党と大連合形成に成功し、副大統領候補にPPの上院議員アーナ・アメリア(女性・保守系)を選んだ。 この大連合はこれから選挙高裁による候補者登録終了後の8月後半に始まるテレビ放送時間の44%を占める見込み(フォーリャ・デ・サンパウロ紙の試算)で選挙キャンペーンでは圧倒的に有利な状況になりそうだ。

ただし一つだけ懸念材料がある。それはこれまでの汚職まみれの政界の古いタイプの政治家と選挙民にみなされないかという点だろう。現にPSDB前総裁のアエシオ・ネーベスは汚職の嫌疑でラーバジャット捜査の標的となった。

3 ルーラもPTから大統領選に立候補

驚いたことにPT(労働者党)は収賄の罪で獄中にある元大統領ルーラを大統領選に立候補させてきた。副大統領候補には元サンパウロ市長のフェルナンド・アダジを立てた(この4月ごろアダジ゙は元蔵相のデルフィン・ネットの所に立候補につき

アドバイスを求めに行っていた)。ルーラは2審でも有罪なので被選挙人無犯罪法に基き選挙裁判所が立候補の無効を判決するだろう。PTは上告し最後は選挙高裁の無効最終判決まで行くか、アダジをルーラに代え大統領候補にするか

(変更は9月17日まで可能)。

PTの狙いは何か?大統領選と同時に行われる州知事、上下院国会議員、州議会議員の各選挙へ出るPTの立候補者たちへのルーラの獄中からの応援のためか?

 

4 与党MDB(ブラジル民主運動)

大統領候補に元蔵相メイレーレスを指名、副には元リオ・グランデ・ド・スル州知事のゲルマノ・リゴットを選んだ。党大会では419票中357票(80%)を獲得しMDBの待望の自党出身候補として指名された。PTジルマ政権退陣後の暫定政権の蔵相として困難な財政再建等構造改革に挑戦していたのだから本来なら今回の大統領選では最有力候補となりえた筈だ。しかしテメル大統領率いる現政権(テメルはMDBの総裁)の評価は極めて低くそれが与党MDB候補の大きなマイナス要因となっているようだ。MDBは他党との連合も組まなかったようだ。メイレーレスは“ブラジルに信頼の精神を取り戻させることが自分の立候補の最大の目的”といっている。今のままでは2次選に残れまいとの見方が多いようだが副のリゴットは事前予測2%を覆して知事に当選した経験から選挙キャンペーンで予測を覆してみせると強気のようだ。

 

5 その他の候補中、注目すべき以下の3人

(1)シ-ロ・ゴーメス(PDT民主労働党) 元蔵相、左派 PT等と提携できず

(2)マリーナ・シルバ(PV緑の党)、元ルーラ政権環境相 大統領選出馬常連

(3)ボルソナーロ(PSC)右派、元軍人、退役将軍 早急な治安回復対策を主張。

 

6 まとめ

アルキミンの優勢は決定的。メイレーレスが少し挽回できればアルキミンとの2次選へ。メイレーレスが浮上しなければ(5)の3人のうち一人が2次選へ。各党

党大会で決定した13人の大統領立候補者のうち上記の6名以外は少党所属でほとんど注目されていないし得票数も単位以下と見られている。これからテレビの政見放送や討論会がはじまる。何が争点になるか注目したい。財政再建のための年金制度改革を提唱する候補者に国民はどう反応するか。

 

以上

 

鈴木 孝憲(すずき たかのり)
ビジネス・アドバイザー

元ブラジル東京銀行会長、元デロイト・トウシュ・トーマツ最高顧問、前新東工業顧問、元サンパウロ州工業連盟FIESP外資委員会委員、ブラジル・サルバドール市名誉市民、スズキタカノリ経済ビジネスフォーラム創設者、ブラジル経済に関する著書、日本経済新聞出版社刊等多数)