ブラジルの労働法について企業が知っておくべき点

マルシア・レジナ・アライ・タヴァレス・コシバ

ブラジルに進出する外国企業からブラジルの労働法は分かりにくいと言われることがある。まずは、ある国の法律はその国の文化を反映するものだと考える必要がある。法律を理解するには、その国の国民を理解しなければならない。

 その点を考えると、雇用主は従業員と良好な関係を保ち、対話を通してトラブルが裁判へと発展しないよう努力する必要がある。かつては雇用主と従業員の関係は単に「給料の支給」に基づくものだったが、今日ではこうした考え方は時代遅れになっている。現代の企業は社員の福利厚生に気を配り、仕事がはかどるよう社員一人ひとりが抱える問題に気をつけなければならない。

 ブラジルの労働法は、ヨーロッパの動向や、各国の労働者保護法整備のための取組み、そして国際労働機関加盟国としてブラジルが守るべき義務などの影響を強く受けている。こうした影響は、国の産業化や政府の労働政策といった国内要因とともに、ブラジルの労働法成立に欠かせない役割を担った。

 ブラジルの統合労働法は、既存の法律をまとめ制度的枠組みの構築に取り組んでいた法律家たちの努力の結果、1943年に施行された。900以上の条文から構成される統合労働法は、ブラジル国内の労働関係を定めた法律で以下の章から成る。

  • 職場の安全
  • 勤務時間、最低賃金、休暇
  • 労働者の健康
  • 労働保護
  • 自国民雇用義務
  • 女性と児童労働者の保護
  • 個別労働契約
  • 団体交渉および団結
  • 組合費

 

ブラジルの労働法は会社の発展の足かせとなると考えられているが、実際にはそのようなことはない。しかし労働法の不遵守は企業にとってマイナスとなる可能性が高いため、この点には特に注意すべきである。適切なコンサルティングを受けることで、労働法を遵守しつつ会社に過度の負担をかけずに事業を運営することができる。

 ブラジル労働法の特徴

  1.   勤続年数補償基金(FGTS) 

    1988105日以降、統合労働法ですべての労働者に認められるようになった権利で、積立額は職種に関わらず従業員に支払われる給与の8相当額と定められている。14歳から24歳の学生で最大勤務時間6時間の見習社員の場合は給与の2%となっている。積立金は企業が負担し、給与からの天引は認められない。労働者がFGTSを引き出せるのは、正当な理由なく解雇された場合、年金の受給を開始した場合、本人が死亡した場合(被扶養者が受給できる)、住宅を購入した場合など。正当な理由のない解雇の場合、企業はFGTSの積立残高の40%を従業員に支払う義務を負う。

  2. 短期労働
    生産量の増加などに伴う臨時業務に対応するための雇用契約。こうした形態の雇用契約の場合、労働者が企業に直接従属し常用雇用のような業務を行うようになると、短期労働者とは見なされず、損害賠償請求権や企業側に負担金の遡及支払い義務が発生することになるため注意する必要がある。
  3. 研修契約
    学生の研修生採用に用いられる契約。研修生は一般の従業員と位置付けられないため雇用契約ではない。一般的には、研修生に経験と将来的に採用のチャンスを与えるという名目で、人件費を抑えるために利用されている。研修契約期間は研修生の在学期間に応じて決まる。歪曲された場合には、研修生の間に雇用関係があると認められ会社にとって負担となる。

 

 

期間フレックスタイム制

企業が残業代を支払わなくてもすむように設けられた制度。期間は1年単位。期間フレックスタイム制(Banco de Horas)を採用するには労働組合の承認が必要となる。


雇用者が果たすべき主な義務とは

  • 勤務初日に必要事項を記入した労働手帳を発給
  • 入社時、退職時の健康診断
  • 毎月第5営業日までに給与支給
  • 労働時間は18時間、週44時間までで、それを超える場合は超過勤務手当を支払う
  • 週あたり1日の有給休暇(日曜が望ましい)
  • 賞与(13番目の給与)の支給。分割支給の場合1回目は1130日まで、2回目は1220日までに支払う
  • 30日の休暇と月額給与の3分の1相当額の手当支給
  • 120日間の出産休暇と出産後5ヶ月間までの雇用の保証
  • 連続5日間の配偶者出産休暇
  • 時間外労働に対する50%増しの割増賃金支給
  • 事故が発生した場合、12ヶ月間の雇用保証
  • 深夜労働(22時から5時)に対する20%増しの割増賃金支給
  • 結婚した場合3日までの休暇
  • 1回の献血休暇
  • 軍隊登録の場合2日までの休暇
  • 近親者死亡時に2日までの休暇
  • 労働裁判所に証人として出廷するための休暇(裁判当日)
  • 医師の診断書で証明された病気を理由とした病気休暇
  • 失業保険

 

従業員の解雇

 現在の規定では、労働関係に関し雇用者側の権利が保証されており、不当解雇の場合でも雇用者は従業員の解雇理由を正当化する義務に問われないが、不当解雇に伴う経済的影響(違約金やその他の労働者の権利に対する支払い)は大きい。

 

弁護士の個人的見解

従業員の人としての価値を認め、その成長に投資し、専門的な能力を持つ会社の戦力として育成することが大切だ。人事担当部署は労働法の執行状況を常に把握し、会社の法務部門の指示に従って法令遵守に努めるべきだ。

会社にとって従業員は生産や力強い企業活動に欠かせない労働力であり、社員にその職場で働く意欲を維持させることができない場合、裁判で従業員が抱える不満についての責任を問われるだけでなく、利益も得られず、損害を被るのは企業の方である。従業員の大規模な入れ替えは、生産性やサービスの向上につながらず、多くの訴訟を 起こされる恐れがあり、会社にとって有益ではない。  

マルシア・レジナ・アライ・タヴァレス・コシバ
サンパウロとパラナの弁護士会に属し、日本弁護士連合会にも外国法事務弁護士として登録されているブラジル人弁護士。事務所の共同経営者。