ブラジル経済ビジネスフォーラム“新政権に早くも逆風”
2019年4月11日
鈴木孝憲
1 ボルソナーロ政権の主な公約
- 汚職の無い規律ある政治、小さな政府
- 財政再建、年金精度改革、税制改革、民営化 (自由主義経済が基本。経済改善で投資を喚起、雇用増へ)
- 治安の改善
2 政権発足後3か月の状況
省庁統廃合で省の数を削減(29から22へ。大蔵、通産、企画を統合経済省に)。人員削減も行い、形は小さな政府になったが3月初めのカーニバルもあり本格的動きはこれから。法案作成などの仕事は精力的に行われてきているようだ。 なお元軍人8名が入閣している。
(1)政府の広報活動廃止
ボルソナーロ政権は大統領府から各省に至るまでTVや新聞等プレスに
対する広報活動を一切行っておらず大手マスコミとの関係は良くないようだ。米国のトランプ大統領と同様、ツイッターを使い、自分で話すのは苦手らしい。情報を流してマスコミのご機嫌をとろようなこどは考えてもいない。国会や世論対策にはプラスだろうがが政府支出も節減を優先させている結果だ。
- もう一つ。新政権作成の刑法(犯罪撲滅法)改正案のなかにある不法政治資金(所謂NO.2勘定・裏金)について連邦最高裁(STF)が罪ではないとの判断を下したことだ。これですでに服役中の政治家たちが騒ぎだしそうだ。腐敗汚職捜査のラバジャットの力が弱まろう。騒ぎは大きくなりそうだ。最高裁判事たちの良識を国民は疑うだろう。選挙資金の裏金は罪でなく刑法上疑義ある違法行為(Contravencao penal)だとする最高裁判事の良識に国民は首をひねるだろう。
さらに最高裁では一部の判事が判例の見直しをして服役中の元大統領ルーラを釈放しようと動いているという。労働者党PTに買収されたのか国を危うくしかねない事態だ。
- 国会の状況
2018年10月の総選挙で国会下院513名の議員のうち半数の250名が初当選の新人で国会審議のルール等解らず慣れるのに3か月を要した模様。
政府からはすでに①年金制度改革法案と②刑法改正法案(昨年まで腐敗汚職摘発のラバジャット特別捜査を指揮していたセルジオ・モーロ判事が新政権の司法大臣に就任しており彼がこの法案を作成した)が国会に提出されている。
本格的審議はまだこれからだがすでに下院議長ロドリーゴ・マイア(DEM民主運動、昨年10月選挙以前も議長)などのボルソナーロに対する非協力な言動がでている。
3 経済の状況
- 経済が上向き始めるには時間がかかりそうだ。 農産物が不作(大豆、ともろこし等の穀物類は対前年比15~30%減でアグロビジネスは不況)、ボルソナロが物事を決めないせいだとの見方もある(政府が広報をしないのでマスコミは報道のネタ少なく不満も)。もともと経済の事は不案内といっていたのだから専門家をつけているはずだ。スーパーミニスターのパウロ・ゲーデスに仕事が集中しすぎ手が回らない気配もある。
- 最初の100日でスタートさせたいと言っていた民営化も始まっていない。一部動き出したようだが、本格化はこれからだ。大手ゼネコンがラバジャットの結果、使えないのが痛い。
4 サンパウロ州の動き
各州とも財政再建と年金改革が焦眉の急だ。ほとんどの州で職員給与の遅配や手元現金は少額。ネット月収に占める人件費の比率はサンパウロ州では42%(ミナス州では67%と最悪)、人件費に占める退職者の年金支払い部分の比率は49%、同ミナス州45%、リオ43%。年金制度改革を含む財政再建は各州とも避けて通れない。 サンパウロ州ではジョアン・ドリア新知事が真正面から問題に取り組んでいる。州立の刑務所まで含む大々的民営化を準備中で州の財務長官には前テメール政権の蔵相エンリッケ・メイレーレスが就任している(メイレーレスは前政権時代国家財政支出増加20年間ゼロシーリングの憲法改正法制化の主役)。
5 当面の見通し
- 3月初めボルソナロは米国のトランプを訪問。会談では自由貿易推進と対ベネズエラ救済作戦での協力等が話題となった模様。ユダヤ・アラブがらみのトランプ外交路線には慎重な対応が望まれる。
(2)年金改正法案の審議状況がどうなるか。小党乱立の国会での動き要注目。9月ごろには成立との見方あるもやや楽観的か。これが成立すれば新政権への信頼が確立し経済も上向きに転じよう。
- しかし 新政権が懸命にブラジルの政治経済を本来の軌道に戻そうと努力している最中に思わぬ逆風が吹き始めたのは憂慮すべき事態だ。最高裁の件は判事たちの良識に頼るしか当面手はないだろうが、国会対策を早く具体化して政権支持基盤を構築することが望まれる。この逆風をなんとか全力で乗り切ってほしい。
以上
(すずき たかのり ビジネスアドバイザー、元ブラジル東京銀行頭取、 元デロイト・トウシュ・トーマツ最高顧問、元新東工業顧問、元サンパウロ州立工業連盟Fiesp外資支援委員、ブラジル・サルバドール市名誉市民)