会報『ブラジル特報』 2013年1月号掲載
新年のご挨拶

                       マルコス/ガウヴォン(駐日ブラジル大使)


 

『ブラジル特報』の読者の皆様に新年のご挨拶を申上げます。この折に、国際経済の枠組みの中における日本ブラジル関係の最近の一年間の進展と2013年に向けての展望について述べます。

 閉幕した年は、グローバル経済全体に多くの課題を突き付けました。年の前半からヨーロッパの負債危機が深刻化し、地域の多くの国々が公共赤字の削減または抑制を目指した政策を実施しました。幾つかの国の経済が呈した脆さは自信喪失状況をもたらし、世界の主要な金融市場を揺るがしました。発展途上国ついては、直面する課題が先進国とは若干異なり、さらには内需に助けられた利点があったとはいえ、これ等の国々の経済も輸出の鈍化に影響されて、民間投資のシナリオも芳しいものではありませんでした。


 直近においては経済情勢および金融情勢はやや厳しさが緩んだように見えますが、2013年に向けた世界経済は控えめな成長を見通しています。ユーロ圏の経済は緊縮財政と民間の不況に影響されています。米国は消費者と企業の双方の財布の紐の硬さに影響されて緩やかな経済成長が予想されます。一方、中国経済は徐々に回復する兆しを見せています。
 ブラジルではGDP(国内総生産)が、2012年に約1%成長するものと予想されます。内需はしぶとさを保っていますが、経済活動全体は諸外国と同様に輸出と投資の鈍化に影響されています。しかし、多くのアナリストが新年にはブラジル経済が力強く回復すると予想しています。国際経済の今後については多くの不確定要素が残るものの、ブラジルを含む発展途上国は先進諸国とは異なった成長パターンを示すものと考えられ、この差別化が国内の産業基盤に対する海外からの投資を呼び込む要因となります。

 ブラジル政府は経済を刺激し、競争力を強化し、投資を獲得するために幾つかの措置を実施しています。直近の事例としては消費者レベルでの金利の緩和、人件費に対する課税軽減の拡大、電力コストの削減、港湾・道路・鉄道・空港の新たな民間委託等々が挙げられます。
 ブラジルは物流、発電・送電、石油・天然ガス、通信網の各分野で整備事業を実施中であり、そのためには国内企業とのパートナーシップを通じて外国勢の参加を得ています。インフラ部門(電力、石油・天然ガス、物流、公衆衛生)は2015年までに5,239億ドルの投資を必要とします。日本は自らの資金力と技術力によって、これ等のビジネスチャンス最大限に活用する立場にあるといえましょう。
 日本とブラジル両国が築き上げた歴史的なパートナーシップは多くの実績を残しましたが、今後さらなる高みを目指すべきだと考えます。ブラジルにとって日本は第5位の貿易相手国であり、同じく第5位の輸出先でもあります。2012年の1~10月に両国間の通商規模は130億ドルで日本が4.32億ドルの黒字を計上しました。ブラジルは農産物および鉱物を主とする多くの産品を日本市場に輸出しています。ブラジルの課題は日本向け輸出の付加価値を増大することと、輸出品目を多様化することです。


 

 2011年に日本はブラジルに対する第4位の直接投資国でした。2012年の1~10月に日本のブラジル向けの直接投資額は12億ドルに達しました。累積投資額に関して、日本は米国、スペイン、ベルギー、英国、フランス、ドイツに次いで第7位です。ちなみに2012年は、ブラジルのBNDES(国立経済社会開発銀行)と日本のJBIC(国際協力銀行)の前身であるJEXIM(日本輸出入銀行)の間で1962年に調印した最初の借款契約の50周年にあたります。双方の主要な経済振興機関の間で築き上げられたこの様なパートナーシップを通じて、両国の企業がブラジルに於いて事業を展開するに際して活用できる資金調達手段を拡大することができました。両国の関係はビジネスチャンスを活かす単なる利害だけではなく、長年にわたる協力関係に基づく相互の信頼感に基づく物でありますが、両銀行のパートナーシップはこの様な友好関係に一層の厚みを与える重要な要素です。


 昨年は双方の企業経営者および政府当局が、経済関係の強化について意見交換する多くの機会が提供された点を強調したいと思います。11月7~8日に経団連とCNI(ブラジル全国工業連合会)が開催した第15回日本ブラジル経済合同委員会では、インフラ、電力、持続可能な経済活動に関連する技術、農業、金融等々を含めて両国の通商および投資が活発化し得る分野を浮き彫りにしました。フェルナンド・ピメンテウ開発商工大臣が来日して、合同委員会に花を添えました。同大臣の日本訪問は今年2回目で、その発言の中でブラジルが対日関係を重要視している旨を特に強調しました。

 11月9日に開催した第6回日伯貿易投資促進委員会では、日本の経産省とブラジルの開発商工省が次官級で両国の経済関係を分析し、今後協力できる新たな分野について意見交換しました。ソフトウェアおよび情報技術サービス、スマート都市技術、代替エネルギー、ブラジルの造船業振興等々が有望分野として挙げられました。同じく、「国境なき科学」計画に関連して日本ブラジル両国が重要な協力関係を推進しています。同計画の範疇で2013年にはブラジルから1300名の学部学生、大学院生、ポスドク研究生が来日する予定になっています。


 駐日大使として満2年を迎えるに当たり、両国間の関係に極めて明るい兆候を見出すものであり、この様なパートナーシップをさらに深化させるポテンシャルは引き続き有望だと考えます。ブラジルと日本が必然的なパートナーである事実はいくら強調してもし過ぎる事はありません。既に両国が成し遂げた実績に加えて、これから活かすべき多くの相互補完性があります。全ての国が厳しい経済状況に直面した状況の下で、2012年に両国は頻繁に対話し、活発な通商を営み、双方向に有意義な投資の流れを築きました。



 2013年には、両国間のこの様な良好なパートナーシップを一層強化するさらなるチャンスが訪れるものと期待します。ブラジルでは世界の注目を集める巨大スポーツ イベントの開催が間近です。産業基盤、とりわけ製造業とインフラを近代化する必要性が久しく叫ばれていますが、これに加えて国内市場の規模を考えると、ブラジルは海外からの投資先としての魅力が際立ちます。斯様な状況の下で今後数年間にビジネスチャンスは急激に拡大するものと思われます。ブラジルが国家発展の重要な段階を迎えるいま、両国間の絆を強化するために日夜努める我々全てが日本の果たす役割に期待する次第です。