財務諸表ではみえない巨額損「見える化」のすすめ

執筆者:山下日彬 氏(ヤコン・インターナショナル社)

 

財務諸表に未計上の損金が、突如発生し、本社重役会の想定外の巨額だと、新規投融資は許可されず、継続不能になるだろう。現地側から上げる情報で、本社側が、正しく判断ができるほどに、実態が数字で「見える」ようにする必要があるのではないか。前回、想定外の巨大損失例として、1)不動産価格と2)労裁負担金を挙げたが、さらに、3) 滞納税未納税:と想像以上に厳しい4)懲罰的罰則がある。

3) 滞納税未納税:税務監査などで、未納税が発見されると、過去のハイパー・インフレ時代の価値修正、罰金、延滞利子などで未納税が巨額になることが起きる。

(例)買収後の経営者が、税金の払い方を変更したら、過去の未納分が浮かび上がり、巨額の税金を払うことになった。また他の税の納税額が級数的に増え、価格競争力を失って、赤字に転落した。

<対策>

すべての税金の課金規則を調べて、何に何%課税されるのかを計算式に変換し、すべての税金を完納時の、末端価格までの価格建てを、例えばエキセルのような、自動計算フォームで準備する。この際、税金を何時払うかは重要でなく、合計何%払うか、原材料から最終価格まで、一目で見えるようにすることが重要。

 

買収前に、この会社は 自己事業に、どれくらい納税してきたかを調べ、買収後、納税思想を変更する場合は、売価がどう変化するか、このフォームで、何度もシミュレーションをする。重役会でも、「それを決行するとこうなりますが、良いですね」と数字で確認が可能となる。

50数種類も税金があり、販売比例税数と、税率世界一で、全部納税すると、他との競争力を失うので、必然的節税をしてきた業種も存在するだろう。また、全部納税していても、それぞれの税金に、常に改定される法令規則と、税務監督の自己判定もあるので、未納税が突然発見され、過去に遡って請求されることがある。税金の上にも税金がかかる課税システムは、一つの税の納税額を増やすと、他の複数の税の納税額が、級数効果の連鎖増になるので注意である。特に、新経営者が、今まで、払っていなかった納税を開始すると、当局によって、過去の不足分が脱税とされ、高インフレ時代の巨額の価値修正、滞納の罰金と、懲罰利子が発生することまで起きる。

先進国では販売税は、売値プラス税金で、増税があっても売値は変わらないが、ブラジルでは、売値に含まれる税金が多いので、増税分以上に値上げしないと赤字となる。

したがって、ブラジルの税金は、どのように課金するのか、確かめる必要がある。例えば卸値の場合で、流通税(ICMS)は卸値に含むが、工業商品税(IPI)は加算される。
社会基金(PISと Cofins)の税率は、1.65%と 7.6%で合計9.25%だが、最終値から課金されるので 10.19%の売上げ税とおなじだ。
法人所得税は、本来、利益に課税される税だが、多くの中小企業は、推定利益企業に登録しており、推定粗利32%に15%が課税される、すなわち4.8%の売上げ税と同じだ。

純益の社会基金(CSLL)も、同じく32%の9%で、2.88%の売上げ税とおなじだ。

日本では8%の消費税で大騒ぎになっているが、ブラジルには、この程度の販売税が複数に存在すると理解しておく必要がある。煩雑極まりない税制を改革するため、統一付加価値税(IVA)法案が、8月22日PSDB-PR党のLuiz Carlos Hauly下院議員より提出された。将来、多数の売値比例税が一本化されて、重税が見えるようになり、ブラジル国内企業から、減税の圧力がかかるようになれば、すばらしいことである。

 

4)契約当事者が、複数の会社に出資しているとき、そのうち一つでも、滞納連邦税や、労裁訴訟や不正摘発訴訟などがあると、個人の無債務証明がとれなくなり、定款変更や、不動産の売買契約はできなくなる。最近はすべて電子化で、連帯責任制になりつつある。

(例)突発的巨額損失の支払いができず、プロテストされ、Serasaの未払いリストに記録され、CGCや責任者のCPFの無債務証明書が出ず、経営続行不可となった。

 

<対策>

買収前に、何らかの理由で、定款に旧出資社員を残す場合は、定款に、新民法に準拠した2/3決議の項目を追加し、JUNTAにも登録済にしておく。社名で出資関係のある小会社などがあれば清算する。税金の高い事業は、外資には不向きと考えて、ぜんぶの税金納税で採算割れになる事業には手をつけない。これからの進出企業の経営者は、順法精神と、それなりの経営者責任を負う覚悟が必要な時代になると自覚する。前述1)2)3)が起きないように注意することである。出資側からみると、たいへん厳しいが、転ばぬ先の杖である。

 

脱税が多いため、懲罰的罰則が強化されたもので、経営者が出資企業を多数保有する場合、その一社でも、労裁訴訟や遅滞連邦税があると、企業名(CGC)や責任者(CPF)の無債務証明が取れず、不動産の売却契約不可、定款の変更登録不可、銀行口座の開設不可となる。これらはコンピュータで連動管理されて免れない。

 

また遅滞市税州税があると、ノッタ・フィスカル(電子販売伝票)の発行が不可となる。

また最近、政府汚職が多発したので、腐敗防止法(2014-1-29発令)があり、子会社、関連企業などとの連帯責任で、口座凍結などに、巻き込まれることがあるので注意である。敵対買収を行ったとき、Cia.Ltda.やLtda.(有限合資会社)の、例え1%の出資者でも、古い定款で、新民法(2003-1-11発令)に準拠していないと、異議申し立てで、定款変更署名を拒絶されると、その出資者の解任はできなくなる。