財務諸表ではみえない巨額損「見える化」のすすめ

執筆者:山下日彬氏
(ヤコン・インターナショナル)

財務諸表に未計上の損金が、突如発生し、それが本社重役会の、想定外の巨額だと、新規投融資は許可されず、継続不能になるだろう。現地側から送情報で、本社側が、正しく判断ができ、実態が「見える」ようにする必要があるのではないか。

前2回で、突発巨大損発生に、1)不動産価格、2)労裁負担金、3) 滞納税未納税、4)懲罰的罰則をあげたが、通常の決算書項目にも、非常にブラジル的な事情がある。これらは、M&Aのプロによって、厳重にチェック済み、想定済みと思うが、念のため、思いつくままに列記する。

借金経営の赤字会社を買収した場合、Cia.Ltda.やLtda.(有限合資会社)の財務諸表は、銀行対策上、赤字隠しは常識的、また業種によっては価格競争のため、必然的節税もありと理解しておく必要がある。

貸借対照表の項目で、

  • 現金: 額が不自然に多い場合は、実際には現金がないことがある。領収書のない、多額のウラ人件費やウラ経費などを、記帳していないことがある。また最近は電子決済が主になったが、小切手取り立てで、2回残高不足だとCCFやSCPC・SERASAに記録され、発行人は口座停止、信用取引停止になる規定があっても、1回目が未入の時、銀行は取立て小切手の自主交換を要求する。小切手の有効期間は6か月であるが、未入金の小切手や先付け小切手を保管していることがある。
  • 売掛金:売上伝票の写し(ドゥプリカッタ)に裏書をすることで、売掛手形の役割になるのだが、電子販売伝票義務付けで、電子化している。銀行は、通常取立てでは、客が払わねば単に返却する。このときプロテストも可能であるが、顧客維持のため、そのまま払うまで保存していることがある。日本の、厳しい不渡りシステムに較べるとルーズな面があり、金庫に紙クズが溜まっていることがある。
  • 在庫: 紛失や不良在庫処分にも、ノッタ・フィスカルを切って、納税義務がある。不良品の廃棄を認めると脱税販売をされる恐れがあるからで、不良在庫処分を一度もしたことがない場合もある。
  • 設備機械:不良設備処理や減価償却など、その必要性の思想の違いで、不完全な場合が多い
  • 他社の株式:公開株以外は、株価の価値がないことがある。グループ企業への出資だと、連帯責任訴訟に注意、資産ではなく逆に連帯責任負債につながることさえある。例えば、1%の持ち分でも、Cia.Ltda.やLtda.(有限合資会社)の場合、他の出資者が逃避した場合は、資本金全額まで100%の責任が発生する点が、株式保有とは条件が異なるので注意。出資先が、腐敗防止法で摘発されたときは連帯責任になる。出資先が労働訴訟になると、こちらの無債務証明書が出なくなり、不動産売買などの署名ができなくなることも起きる。したがって、子会社、関連会社などへの、社名による出資分があれば、全責任を負うのでなければ、買収前に、全部清算しておくのが望ましい。
  • 不動産:借金経営の赤字会社の場合は、なぜ今まで売却処分していないのか、疑ってかかるべき。何らかの理由で、簿価では換金できない可能性がある。
  • 外貨債務:帳簿上、発生時の安いレートで、換算記帳したままの場合がある。経理上、為替変動の修正義務はない。
  • 資本金:ファミリー企業の場合、名目のみで、払い込まれていない場合がある。

また、敵対買収で、前出資者を、何らかの理由で、定款に残した時、Cia.Ltda.やLtda.(有限合資会社)の、例え1%の出資者でも、2003年以前の定款で、新民法(2003-1-11発令)に準拠していないと、異議申し立てで、定款変更署名の拒否権があり、その出資者の解任もできなくなる。さらに、その出資者が死亡したときは、大家族(フォルタレーザでは子供15人もある)だと、多数の相続人が突如発生することになる。

損益計算書の項目は、M&Aでは経営者が交代するので、問題はないだろうが、過去の経費で、人件費は、ファミリー企業の場合、時間外はもちろん、全額登録していない場合があるとみるべきで、解雇し労働訴訟になったときの、留意点であろう。

税制改革の掛け声は、ルーラ政権の初期からあり、過去に統一ICMS税案もでたが、サンパウロ州の反対で成立しなかった経緯がある。全州の利害を調整するのは極めて難しい。商品流通サービス税ICMSは州税なので、各州が規則を制定し、優先業種の免税、誘致企業への特典などで、内容が変わるわけだが、脱税や、節税、州間輸送など、問題が発見されるたびに訂正規則追加となり、各州のICMS税法は電話帳の厚さがある。毎日のように改正があるので、バインダーにして、変更ページを有料で届ける専門業者があるほどである。

税制改革は、オリンピックやブラジリアの汚職政変で、一時下火になっていたが、ついに、統一付加価値税(IVA)法案が、8月22日PSDB-PR党のLuiz Carlos Hauly下院議員より提出された。現在下院で審議中で、Meirelles蔵相は早ければ10月、最悪でも年内に、票決に持ち込みたい考えだが、実現を期待するものである。

ブラジルの税金の煩雑さは、間違いなく世界一、税金の種類世界一、売値にかかる税率世界一だ。それも、税金の上に税金がかかる課金方式で、何度にも分けて払うので、誰も実体がつかめない。

野党案ではあるが、今回の法案は、ICMSのみでなくIPI、IOF、CSLL、PIS Paesp、Cofins、Salário-Famíliaも廃止するという画期的なものだ。

この法案が通過すると、最大の利点は、

a.どれくらい税金を払っているか見えるようになる。

b.多数の税金別の監督の応対と、毎日変わる膨大な税法をチェックする必要がなくなる。

c.税金の上に税金が課金される、憲法違反のようなことがなくなる。

d.ある税金の納税額が不足していたのが突然発見され、連動する複数の税金も納税額不足で罰せられるという理不尽なことがなくなる。

以上、M&Aに水を差すようなことばかり述べたが、せっかくの投資が無駄にならぬよう注意して、相手先を厳選して、思いきった投資がなされることを歓迎するものである。

 

ちなみに、現在の、外貨直接投資は、過去1年間で、約600億ドル入っているが、日本は15位(7月)、GDP世界3位の国からは、もっと投資があってもよいと思う。ブラジルは、世界のいかなる紛争地域より遠い自由市場で、日系人も多い、極めて安全な投資先であると強調したい。