執筆者:山下 日彬 氏
(ヤコン・インターナショナル)

 

「マラカナン・スタジアムが大イベント会場になっている」

 

平昌冬季オリンピックの華麗な開会式が報じられているが、リオ・オリンピックの開会と閉会式の会場となったリオのサッカーの聖地、マラカナン球技場が、オリンピック後、まだ、まともには使えない。2017年1月に、競技場内部が荒廃している様子が報道されたが、管理団体の引き受け手が定まらず、電気料金も払えず、必要な改修もできず、ひどい芝の状態で、周辺の施設やプールは汚水がたまったまま、この体たらく信じられますか。

(出所:Wikipedia)

マラカナン球技場は、2016年 3月末から10月末まで、スタジアム使用権を「リオ2016」に供与し、大会後は元の状態にして返却するという契約であったが、オリンピック後の状態があまりにひどく、運営団体のコンソーシアムのMaracanã S/A、が受取を拒絶した。施設状態以外にも、返却チケットの払い戻し債務や、花火による屋根の破損、温暖化使用権などでFIFAもからんで、簡単には解決できない訴訟問題もあるようだ。

その後放置され、2016年のブラジル選手権の最終戦では、フラメンゴとフルミネセンスは、Odebrecht社と、スタジアムでプロサッカー試合をするために必要な修理費用を支払うことを含めた運用契約を締結し、2クラブはOdebrecht社が払うべき修理費の57万レアイスを立替え払いした。Odebrecht社がマラカナン運営を委嘱されたと時、そこをショッピング・センター、博物館などの巨大なスポーツ複合施設に変えようとしたが、州政府は、陸上トラックやプールなどの構造物の解体に反対する社会運動を受けて、許可を与えず、サッカーのフィールド周囲の空間利用も制限した。Odebrecht社は10月から4か月間電気料金を払わず、リオの電力供給業者ライト社(Light)への未払額は1.35百万レアイスに達した。

2017年3月にOdebrecht社は仏のLagardère Groupとの間でマラカナン運営権を譲渡する覚書を締結したが、法的および契約上の確実性がないとして、5月には、Lagardèreは契約を断念した。最近数か月で、バスコ、フラメンゴ、フルミネンセなど、いくつかのゲームが行われたが、スタジアムを使用しているだけで、運営管理者不在、非公式の使用であった。

2018年は、サッカーのスタジアムというよりも、カーニバル期間中はVintage Curtureの「夢のカーニバル」ショーや、2月22日には 英国のROCK歌手Phil Collins など、ショーが次々と予定されており、大イベント会場になっている。

 

「進まないオリンピック・パークの再利用」

 

リオのオリンピック・パークの建造物は、大会後は市が学校などに使用すると、夢のある報道がなされていたが、今まで実現していない。通常、競技会用の各種競技場や建造物は、耐用年数を1年くらいしかみていないから、高温豪雨多湿のこの地区で2年も放置すると、電気、水道、塗装など使いものにならなくなる。それと、常に開催日までは突貫工事になるから、基礎工事は手抜きとなり、テニスセンターや自転車競技場の床の不均一性、水はけなどが最悪で、壁や床からの多数の浸潤もあり、そのままでは使い物にならない。選手村のアパートまで手抜き工事で、入居が遅れている。解体するにも解体費用は予算になく、誰もどうすることもできない。雨漏りがあっても盗難があってもそのままで、電気代、水道代も払えず放置されているのが実情のようだ。

 

「世界のオリンピック後の状況」

 

オリンピック後の悲哀は、アテネはEUを揺るがす経済危機になり、バルセロナでも、使っていない将来も使わないであろう巨大競技場が、市内観光ポイントになっていた。 大会後の施設活用を同時に計画したロンドン大会を除いては、どこもひどい状況のようだ。 平昌も、多くの施設は過剰投資になるであろう。現地政府の無能もあるだろうが、一体誰の責任だろうか。IOCも華やかに開催するだけでなく、大金をかけるのだから、新興国には、計画段階で、大会後の施設活用を指導し、もう少し後まで、具体的に面倒を見る必要があるのではないだろうか。

今後、ブラジルより後進の国では、今のIOCの要求どおりに開催すると、財政的に過負担になり、国民の同意は得られないと思う。時代はAI革命に向かっており、ここらで、5大陸に競技場の恒久施設をつくり、ネット映像やロボットを駆使し、運営企画持ち回りのような新システムを創造することはできないものだろうか。東京は、日本人が管理するから、大丈夫と思うが、施設の後処理の具体的な計画なしには、オリンピックへの過剰投資は止めたほうがよいと思う。

 

「リオの会場の現状」

 

開催までに完成しなかった工事は、すべて予算不足で中止になったので、セントロ地区のLRTなどもまだ開通していない場所があるが、各会場の大会後の状況は下記の通り。

 

「デオドロ・オリンピック・パーク会場」

 

デオドロ会場は、陸軍の施設利用だったので、いくつかの施設は軍管理に戻ったが、カヌー・スラローム競技会場と隣接の巨大人造湖は、市民の大レジャー・センターになる予定だった。 2016年大会後、12月に一般にオープンしたが、浄水装置が予算的に維持できず、巨大汚水湖になって3月始めに閉鎖されてしまった。 市は循環ポンプなどを整備して、2017年9月21日に再開した。 月75万レアイスの維持費がかかるとのこと。

(出所:TV画面)

 

「国が責任管理している会場」

 

  • バスケットボール会場 (Arena Carioca 1) はスポーツ省が責任管理。卓球と柔道などに使用中、本年はバレーボール国際大会実施の予定
  • 柔道/レスリング会場 (Arena Carioca 2) はスポーツ省が責任管理。高度トレーニングセンター設置予定だが、いままで契約なし

(出所:TV画面)

  • テニス会場 (Centro de Tenis – P.Olimpico) はスポーツ省が責任管理。テニス、ビ-チ・バレー大会、2019テニス・リオ・オ―プンを開催予定

(出所:筆者)

  • 室内自転車競技会場 (Velodromo do Rio – P.Olimpico) はスポーツ省が責任管理。屋根にバルーンが落ちて火災になった。 室内自転車競技練習場、大会会場に使用予定

 

(出所:筆者)

 

「陸軍が責任管理している会場」

 

  • バスケット/近代5種のフェンシングの会場 (Arena de Juventude – Deodoro) は陸軍柔道訓練センターに使用中
  • 近代5種の水泳会場 (Centro Aquatico de Deodoro) は陸軍訓練場に使用中
  • 馬術会場 (Centro de Hipismo – Deodoro) は陸軍馬術大会場に使用中
  • ホッケー会場 (Centro de Hoquei – Deodoro) は陸軍訓練センターに使用中
  • 射撃会場 (Centro de Tiro – Deodoro) は陸軍練習場/国内射撃会場に使用中
  • ラグビー/近代5種会場 (Estagio de Deodoro) は解体済

 

「市が責任管理している会場」

 

  • テコンドー/フェンシング会場 (Arena Carioca 3) はスポーツ学校設置予定だが予算不足で未手配
  • ハンドボール会議場 (Arena de Futuro) は市立校4校設立予定だが、予算不足でさらに1年実施先送り
  • BMX自転車競技会場 (Centro de BMX – Deodoro) は閉鎖していたが、2017年9月、練習場として再開
  • マウンテン・バイク会場 (Centro de Mountain Bike – Deodoro) は閉鎖していたが、2017年9月、練習場として再開
  • 水泳、水球会場 (Estadio Aquatico – P.Olimpico) は予算不足で閉鎖中
  • カヌー・スラローム競技場 (Estadio de Canoagem Slalom – Deodoro) は水質汚染で閉鎖していたが、2017年9月、練習場として再開

(出所:TV画面)

 

 

「その他の会場」

 

  • 床体操競技場 (Arena do Rio) はGL evento社が責任管理で見本市、オリンピック体操訓練センターに使用中
  • ゴルフ会場 (Campo de Golfe) は連盟が選択した社が責任管理。有料でゴルフできるが殺風景でほとんど使われていない。水球/高飛び込み/シンクロナイズ会場 (Parque Aquatico Maria Lenk) はCOBが責任管理。シンクロナイズや高飛び込みなど12種目の訓練センターに使用中
  • 開会、閉会、フットボール会場 (Maracana) はOdebreht と AEG(米)が責任管理だが業務拒絶中
  • バレーボール会場 (Maracanazinho) はOdebreht と AEG(米)が責任管理だが業務拒絶中
  • 選手村 (Vila OimpicaはCarvalho Hosken と Odebrechtが責任管理。12月に入居開始の予定

その他Engenhaoサッカー球技場は所有者のボタフォーゴ・クラブに、またサンボドロモはカーニバル会場に、リオセントロは見本市会場に戻された。 (完)