逆風のなかでの事業展開

富島 寛
(南米支配人兼ブラジル住商社長)

Cosan Biomassa 合弁契約調印式

ブラジルでの歩み
当社は1955 年にサンパウロに駐在員事務所を開設した。当社が、初めて海外拠点を設置したのが1950 年のムンバイ(当時の呼称はボンベイ)事務所なので、当社としてはかなり早い時期にブラジルに拠点を構えたことになる。以来、レシフェ、リオデジャネイロ、ポルトアレグレ、ディアデマ、ベロオリゾンテなどに拠点を構え、食料、化学品、金属、資源など幅広くビジネスを展開してきた。昨今は、交通手段や通信手段の飛躍的な発展により、広域での展開が容易になったことから、ビジネス規模は格段に増やしながらも、拠点としてはサンパウロとリオに集約し、ベロオリゾンテは鉄鉱石生産事業に特化したプロジェクト事務所を置くに留めている。
当社の事業会社では、1976 年に出資参画した農薬の製造・販売会社であるイハラブラス社や、2010 年に出資参画した鉄鉱石の生産・販売会社であるMUSA 社などがあるが、2013 年以降の伸びが目覚しい。2013 年に化粧品原料の卸売り会社であるCosmotec 社に出資して以降、現在までに5つの事業会社を次々と立ち上げている。
その起爆剤となったのは、ブラジルの大きな潜在力に注目して、本社が2013 年から2014 年までの中期経営計画
(BBBO2014)と、それに続く2015 年から2017 年までの中計(BBBO2017)において、ブラジルを「全社育成国」に指定したことにある。「全社育成国」に指定されると、新規事業開発に拘わる出張旅費、FS 費用などは全額全社負担となり、個別の部門には賦課されない。都合、5 年間もブラジルはその恩恵に与ることとなり、この間にブラジルを訪れた当社社員は役員も含めて数知れない。また、様々な産業分野で市場調査やFS を存分に実施することも出来、そうした蓄積も膨大なものになった。
こうした中で、2016 年には世界最大の砂糖・エタノール製造会社のCOSAN とのバイオマス燃料の製造会社、2017年には南米最大の製鉄メーカーであるGerdau との風力発電用の鋳造・鍛造品製造会社、世界有数のアセットマネジメント企業であるBrookfi eld 社と水コンセッション事業の設立
などに至るのだが、これに留まらず、この5 年間に仕込んだ案件がこれから次々と実現する見込みであり、実に楽しみである。

逆風の中での事業推進
「全社育成国」に指定されて、当社としてはブラジルに注力することは全社戦略として決定していたが、必ずしも常に順風が吹いていた訳ではない。特に、2014 年半ばの資源価格の急落に伴いブラジル経済が一気に悪化したのに加えて、政財界を巻き込む大汚職事件が勃発して経済も政治もガタガタになっていた時期、本社からは「ブラジルで事業を推進して本当に大丈夫なのか」という、ある意味、当然の声も強かった。これに対して、 「経済がいかに低迷しても、その影響を比較的受けにくい産業・分野に注力している」ことを粘り強く説明してきた。
たとえば、先述のCOSAN とのバイオマス燃料の製造事業は、ブラジルに膨大に存在するサトウキビの搾りかすや茎・葉を原料にしている。気候変動への対応策として、化石燃料に比べて多少割高であってもバイオ燃料の使用比率を増やすことが世界的な潮流、もしくは国によっては義務となる中で、森林資源をベースとした木質燃料では供給に限界があり、バイオ燃料市場は巨大な需給ギャップに直面する。この需給ギャップを埋めるのが我々の事業である。気候変動対策という人類の喫緊の重要課題への取り組みであり、経済の好調、不調に拘わらず、必ず取り組まれるべき事業である。こうしたことを、粘り強く説明することで、ブラジル経済が絶不調のときも、社内外の理解を得ることに成功してきたのである。
余談となるが、マスコミが「ブラジルは1930 年の世界大恐慌以来の2 年連続のマイナス成長」などと、わざわざ約90年も前の世界大恐慌を持ち出してブラジルの景気後退を強調するのにも随分と閉口させられた。
これに対して、「逆にいえばブラジルは世界大恐慌以降、一度も、二年連続のマイナス成長をしていない。二年連続のマイナス成長などは世界的に見れば珍しいことではなく、日本でさえ1990 年以降でも1998 年・1999 年、2008 年・2009 年の2回も二年連続のマイナス成長をしている。ブラジルの経済は循環型であり、長期で見れば一貫して右肩上がりになっている。」と冷静に説明してきた。マスコミのセンセーショナルな文言よりも、冷静な分析や説明が重要と考えている。

今後のブラジルでの方向性
当社は我々に様々な事業機会を与えてくれたブラジルに感謝し、愛着を持ちつつ、今後は更にブラジル社会に密着したビジネスを展開していく。たとえば、すでに水事業に参画していることは先述の通りだが、こうしたブラジルの皆さんの身近で、生活に必須なものについてより上質で便利なものを提供していくことで、Win-Win の関係を築いていきたい。