NTTグループのブラジルでのチャレンジ

矢澤吉史
(NTT ブラジル社長)

テレコムカンパニーからグローバルICT カンパニーへ
NTT のブラジルでの歴史は古く、日本電信電話公社(電電公社)時代の1974 年、ブラジリアの駐在員事務所開設にさかのぼる。当時はまだブラジルの電信電話事業も民営化されていない時代で、テレブラスと呼ばれる国営会社が電信電話事業を独占、テレブラスとの技術交流を目的として電電公社のブラジル事務所が設立された。
その後、1985 年の電電公社民営化により日本電信電話株式会社(NTT)が発足、1986 年に駐在員事務所をブラジリアからリオデジャネイロに移転、その翌年の1987 年に通信事業会社として新たなスタートを切った。
1998 年、ブラジルの電信電話事業が民営化されると同時期に、サンパウロにブラジル本社機能を移転。NTT が分割再編された同年以来、今年で満30 年を迎えるに至った。
電電公社時代は、南米最大の石油会社ペトロブラス社や、総合資源開発会社ヴァーレ社など、ブラジルの国営大企業に技術コンサルティングサービスを提供、通信事業会社発足後は、サンパウロに自前の通信設備(POP)を構築、主に日系進出企業向けの総合通信サービスの運用を開始した。
2010 年には南米の通信会社と戦略的提携をし、南米全域に法人向けの仮想専用線サービス(IP-VPN)が提供可能となり、更に2012 年には北米との間にグローバルIP バックボーンを敷設、ブラジル国内のインターネットサービスプロバイダーやコンテンツプロバイダーなどの事業者向けに、世界最高水準の安定したIP バックボーンを運用しサービスとして提供している。
2014 年にブラジルで開催されたFIFA ワールドカップにおいては、このグローバルIP バックボーン上で初めて日伯間の8K スーパーハイビジョンのライブ中継に成功、そして日本代表選手キャンプ地ではメディア向けにIP 伝送システムを構築、長らく衛星放送が主流の国際TV 中継において、インターネットによる低遅延の日伯間ライブ中継の成功例として、日本の新聞紙上のみならず世界のメディアに取り上げられた。
このブラジルFIFA ワールドカップでの成功により、2016 年のリオ五輪においては、日本向けにTV 中継用、大容量データ転送用に複数のグローバ

南米最大のIT 展示会Futurecom( サンパウロ)にて

ルIP 伝送回線が採用され、NTT コミュニケーションズの国際通信サービスにおける品質の高さが証明された。

動き出したNTT グループの南米戦略
各グループ会社が独自の海外戦略を展開する中で、2010年にはNTT(持株会社)がDimension Data 社(南アフリカ)を買収、NTT データも国際戦略を強化、2011 年にイタリアのValue Team 社を買収、同社がブラジルに拠点を有していたことから、ブラジル進出を果たす。更にその約3 年後の2014 年には、スペインのeveris 社(スペイン)を買収したことで、ブラジルを含む中南米6 カ国(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ、アルゼンチン)において新たに拠点を獲得、本格的に中南米市場への進出を果たした。
NTT ドコモも2013 年にブラジル再進出を果たし、IoTソリューションや法人向けモバイルソリューションを中心に事業をスタートしている。
everis がスペイン企業であることから、ブラジルでは、Telefonica/Vivo やSantander 等のスペイン企業向けのITコンサルティングサービスを軸に、通信及び金融業界の顧客向けサービスを拡大、これまでNTT コミュニケーションズ及びDimension Data が提供してきたネットワーク・インフ
ラサービスに加え、NTT ドコモのIoT、そしてNTT データがコンサルティング及びIT アウトソーシングサービスを提供することによって、NTT グループによるIT 業務プロセスの上流行程から下流行程の全てをEnd-to-End で提供することが可能となった。

ONE-NTT
everis のNTT グループ加入後、ブラジルに拠点を有する4 グループ会社間の連携が強化され、2015 年には、南米最大のIT 展示会であるFUTURECOM にNTT グループとして参加を実現した。各社がブラジルにて提供しているコアサービスをはじめ、IoT やセキュリティソリューションの展示、更にはブラジルの自動車教習所にて展開しているドライビングシミュレーターのデモを実施、NTT グループがブラジルにおいて本格的にICT 事業を展開し始めたと評され、大きな注目を浴びて大盛況となった。
中南米のIT 市場は近年急成長を遂げており、IoT、AI、そして情報セキュリティーや企業のデジタル化等も頻繁に話題になるようになり、IT サービスへのニーズは益々高くなっていくものと思われる。グループを結集し、数少ないEnd-to-End ソリューションを提供できるアドバンテージを駆使して顧客ニーズに応え、また新たな価値、安全で快適なイノベーションを創発し、ブラジルマーケットにおけるNTT グループのプレゼンスを高めていきたい。