執筆者:桜井 悌司 氏
(日本ブラジル中央協会常務理事)

-simpáticoと思われるための10のアドバイスー

 

ラテンの世界では、人を表する場合、simpático とかsimpáticaという言葉が頻繁に使われる。simpático は、名詞であるsimpatíaの形容詞である。simpatíaを辞書で引いてみると、好感、親愛の気持ち、魅力、共感、同情と言った言葉が出てくる。その形容詞であるsimpático(a)となると、感じのいい、好感の持てる、親切な、好意的な、愛想のよい、共鳴できる等の意味が出てくる。この7月に、眞子内親王が移住110周年でブラジルを訪問されたが、現地の日系社会で、simpáticaという印象を与えられた。この反意語は、antipático (a)で、嫌な、感じの悪い、反感を抱かせる、無愛想な人となる。ここからラテン圏でアミーゴをたくさん作るには、simpáticoでなければならないことになる。またラテンの世界でうまく仕事をしたり、快適に生活しようとすると、常にリズムを好循環にもっていくことが大切である。ひとたび悪循環に陥ると元に戻すのが大変である。それゆえに、simpáticoと思われる方がだんぜん有利である。企業がラテンアメリカに駐在員を派遣する場合、能力や実力本位で決定されることは当然であるが、同じ条件であれば、断然simpáticoな人材を選ぶべきである。人間には生まれつきの性格もあるので、急に変身できないが、少しの努力で、simpáticoと思われるようになる10の方法を考えてみよう。

まず第1の方法は、明るく振る舞うことであろう。陰気な人はどんな世界でも好まれないが、ラテン系の性格は、総じて明るく、かつ楽観的なことである。もちろん、ラテンの人でも陰気で悲観的な人もいるが、ほとんどが明るく、楽観的である。楽観的過ぎると眉唾ものになることもあるが、人を楽しく感じさせることが重要なのである。

第2の方法は、笑顔・スマイルを忘れないことである。筆者のささやかな経験であるが、駐在したスペイン、メキシコ、チリ、イタリア、ブラジルのどの国でも、通りを歩いていて、それなりの美人が何故か微笑んでくれたことが多々あった。その日は、1日中、良い気分が持続したことを覚えている。スマイルをされて怒り出す人はいない。好感をもたれること請け合いである。スマイルは、仲良くなりたい、少なくとも敵対はしないという意思表示である。
リオは治安が悪いことで有名だが、そこに長年住んでおられる友人の山下日彬氏に、強盗やひったくりに襲われない秘訣があるかを聞いたところ、1つあるという。それは、強盗やひったくりに対してスマイル・微笑むことであるという。ちょっと信じがたい話であるが、よく考えてみるとそうかも知れないと思ってしまう。なぜなら抵抗したり、難しい顔をして立ち向かえば、遠慮なく金品を強奪されることになるが、そこで微笑めば、強盗の意気込みが少しは弱まり、矛先が鈍るかもしれない。同氏は、この方法で難を逃れたこともあるという。男性にもスマイルの勧めを提唱したい。

第3の方法は、自分から積極的に挨拶することである。日本人の最も不得意とするところである。毎日、近所の人や出勤してエレベーターに乗る時などは、相手より先に挨拶する習慣をつけることをお勧めしたい。日頃から無口で、コミュニケーションが不得意の日本人にとっては、言うは易し、行うは難しと言えるが、実践してみると意外に効果が出てくるものである。率先して挨拶することは、友人になりたい、知り合いになりたいという意思表示でもある。握手の起源は、武器を持っていない、危害を加えない、敵ではないことを知らせる方法だと言われるが、よく似た発想である。

第4の方法は、大きな声でたくさん話すことである。ラテン世界では無口は歓迎されない。日本人は、ラテンはもちろんのこと、外国人と比べて無口と言えよう。大学の教師をしていた時には、学生には、留学や海外旅行先では、大きな声で、日本にいる時の3倍くらい話すようにとアドバイスをしたものだ。無口で何を考えているのかわからない人は、確実にantipáticoのグループ入りとなる。

第5の方法は、好奇心を発揮することである。総じて、適度の好奇心を持つ人は、好感が持たれるものである。例えば、ブラジルでもメキシコでもスペインでもイタリアでも、自分の国に関心を持ってくれる人には、好感を抱くことになっている。なぜなら、自分の国のことを一生懸命に理解しようとする外国人を好ましく感じるからである。それゆえ、あらゆる機会を捕まえて、相手国の文化、歴史、生活、習慣等について、「なぜ」、「なぜ」を頻繁に投げかけることが大切である。それによって、相手国に関する知識が増え、理解が進むことになるし、相手からはsimpáticoと思われるという一石二鳥のメリットが得られることになる。

第6の方法は、「イエス」と「ノー」をはっきりさせることである。日本人はイエスとノーをはっきり表明することにはためらいがあるが、ラテンの世界では、これをはっきりさせておかないと後で問題やトラブルの元になったり、人間関係に破綻が生じることになる。嫌なことに「ノー」、好ましいことに積極的に「イエス」と言わなければ、良い関係は長く続かず、後で後悔することになる。自分の考えをしっかり伝えるとともにクイック・レスポンスも心得なければならない。

第7の方法は、良好な人間関係の維持に最大限の努力を惜しまないことである。筆者の経験から言って、ラテンの人々と付き合うのはそれほど容易ではない、むしろ疲れることが多い。当方が遠慮がちに振る舞っても、相手は、どんどん当方の領域に侵入してくる。それによって自分の時間もどんどん奪われる。アミーゴという名目で、日本人からみると、公私混同的なことを遠慮なく、ダメ元で言ってくる。日本人がダメ元を理解するまでには、相当の時間がかかる。ダメ元に慣れ、こちらからもダメ元で言ってみるようにすることも必要である。アミーゴとは何かについて、筆者はずっと考えてきたが、「アミーゴのアミーゴに対しても、それなりに面倒をみる関係」を意味するというのが到達した結論である。したがって、良好な関係維持には、ある程度の忍耐が必要なのである。それでも相手側が、限度を超えることを依頼してきた場合は、先ほどの「ノー」が必要になる。

第8の方法は、ユーモアを忘れないことである。要は、相手に面白い人物だと思わせることである。そのためには、常識力や一般教養を身に着けることも必要だし、相手国をある程度理解することも重要だ。ブラジルのピアーダやスペイン語圏のチステやブローマ等笑い話や一口話も知っていれば、さらにうまくいく。

第9の方法は、相手をよく知ることである。自分を取り巻く人々の性格をすべて知ることはできないが、少なくとも自分にとって、付き合うに値するかどうかを見極めることが大切である。一旦見極めれば、誠実さと行動力で対応できるようすればよい。

第10の方法は、日本についてしっかり勉強し、相手の外国人にうまく説明できるように準備することである。相手は、自分が日本人であることがわかれば、日本のことにつきいろいろ質問してくることが予想される。その際、何も答えられないようでは、相手にされないし、軽くみられることになる。ましてや尊敬されることはあり得ない。相手から信頼と尊敬を勝ち得るように最大限の努力をしなければならない。

以上、10つのポイントを紹介したが、実のところ筆者も十分に実践していない。しかし過去の経験上、継続して努力すれば、読者もsimpáticoと呼ばれること請け合いである。実践してみようではないか。