商船三井ブラジル事業移民の歴史と共に

大胡俊武
(㈱商船三井南米総代表)

今年はブラジル日本移民110 周年の記念すべき年。当社とブラジルの関係もその移民の歴史とほぼ時を同じく始まった。周知の通り第一回移民船の笠戸丸がサントス港に入港したのが1908 年6 月18日。その4 年後の1912 年に当社の前身である大阪商船が海軍省から笠戸丸を購入して1916 年12 月に日本と南米東岸を結ぶ定期航路
を開設した。当初は3 隻による年間7 航海の移住者輸送から始まり、その後着々と船隊を強化し当時の造船技術の粋を集めた初代ぶらじる丸を投入するなど戦前の最盛期には年間24 航海を行い、1920 年にサントス、1935 年にサンパウロ、1941 年にはリオデジャネイロに駐在員事務所を開設したとの記録が残っている。その後戦火の高まりを受けて1941 年に航路を休止、船舶は戦時徴用されその殆どを失うという苦難の後、1952 年には新造船さんとす丸を投入し南米航路を再開。その後も二代目『ぶらじる丸』を始め当時の最先端の新造船を投入し続け、1973 年まで通算50 年余りに亘り約18 万人の方々の移民輸送に携わった。
定期航路の変遷
時代の流れと共に当社の南米定期航路の運航は移民船、貨客船、在来貨物船と姿を変え、1990 年代にコンテナ輸送に進展し、商船三井としてはアジア・南米東岸トレードを中心に業界最速のウィークリーサービスを展開し続けた。コンテナ輸送事業では世界的な競争激化の中を勝ち抜いていく為に商船三井・日本郵船・川崎汽船の邦船三社によりコンテナ船事業を統合し、新会社Ocean NetworkExpress(通称ONE)を立ち上げ本年4 月からサービスを開始し、新時代に突入した。新会社ではサービス網が更に拡充され、また商船三井ブラジルからも新会社に多くの人員が移籍、当社が長年培っ
た良きDNA が継承されつつ新会社がブラジルに於いても大きな成功を収めることが期待されている。
完成車輸送
現在活発な動きを見せているのが自動車専用船による完成車輸出分野である。ブラジルからの完成車輸出は2014 年を境に上昇に転じ、2017 年は過去最高の76.2 万台を記録、本年度も勢いは継続している。当社では、2016 年にブラジル及びアルゼンチンからマゼラン海峡を通ってチリ・ペルーを始めとする南米西岸・中米向けの輸出完成車を輸送する新サービスを開設した。安定したスケジュールときめ細かいサービスに好評を頂いている。今後も顧客ニーズを敏感にキャッチし、サービス頻度の拡大、寄港地の追加等を積極的に検討し、サービス品質の更なる向上に努める所存である。
ドライバルク輸送
ブラジル日本移民100 周年を記念した2008 年とほぼ時を合わせ、2007 年に三代目『BRASIL MARU』が竣工した。同船は日本船社として初めて進出した載貨重量323,000 トンの超大型鉄鉱石専用船である。商船三井は、30 万トン級の超大型船7 隻を含め、大型ドライバルク船を約90 隻運航しており、増大するブラジル積み鉄鉱石の輸送ニーズに素早く対応できる体制を整えている。それ以外のバルク貨物、即ち穀物、木材チップ等にはパナマックスからスモールハンディまで様々な船を用意。現在ブラジルに寄港する当社ドライバルク船は年間約100 航海、この数を更に拡大すべく活動中である。
海洋事業
今後当社がブラジルでの営業活動を強化する最重要領域の一つが海洋事業だ。商船三井としてはパートナーと共同でプレソルト含む有望な深海鉱区での石油採掘を行う浮体式石油ガス生産貯蔵積出設備(FPSO)に2010 年より参画、ペトロブラスへの長期用船契約の下で石油生産に携わっている。ブラジルにて当社の参画するFPSOは現在操業中のものが4船、本年新たに1 船が稼働開始予定、更に2 件の新規プロジェクトが現在進行中である。これ以外にも、同様にパートナーと共同でシャトルタンカー、海底設備の設置・保守等に従事するサブシー支援船への参画も開始。また、今後可能性が見込まれる浮体式LNG 貯蔵再ガス化設備FSRU の新規プロジェクトへの参加も推進している。
ロジスティクス事業
グループ会社である商船三井ロジスティクスはブラジルにて2008年より営業を開始。コンテナ船事業がONE の看板にて行われることになった後、商船三井として製品輸送サービスの選択肢を提供できる様、この分野を強化することが今後の目標である。
新時代へ
ブラジルを取り巻く国際環境も刻々と変化し、海運業者としてもより付加価値を付けたサービスを提供することが求められている。当社が長年のブラジルでの事業活動での経験から学んだものを生かしながらこれらの変化に機敏に対応し、より安全かつコスト競争力のあるサービスを提供することでブラジル経済の更なる発展の一助
となれるよう努力を続けていく。