執筆者:桜井 悌司 氏
(日本ブラジル中央協会常務理事)

 

Ⅱ ラテンアメリカの輸出振興・投資誘致機関の内外ネットワーク

Ⅰでは、ラテンアメリカの輸出振興・投資誘致の概略を紹介したが、Ⅱでは、様々な側面から見てみよう。

 

1 WAIPA(世界投資促進機構協会)への加入状況

スイスのジュネーブに本拠を置くWAIPAという組織がある。WORLD ASSOCIATION OF INVESTMENT PROMOTION AGENCIESの頭文字をとったもので世界投資促進機構協会とでも訳しておこう。1995年、UNCTAD(国連貿易開発会議)によって設立されたNGO団体である。現在130カ国170の官民投資誘致機関が参加している。筆者がブラジルに駐在していた2005年にUNCTAD総会が、サンパウロで開催され、同時にWAIPAの総会が併催された。幹部に取材したところ、なかなか雰囲気も良く、興味のある組織であることがわかった。これをきっかけに、ジェトロも会員組織になった。WAIPAは、世界中の投資を促進させることを目的とする組織で。毎年、総会、セミナー・シンポジウム、人材育成講座等様々なプログラムを展開している。各国の投資誘致関係者は、最新の世界の直接投資動向に関わる情報を入手できることになる。

 

下記表4が、ラテンアメリカ主要国の加盟状況である。ニカラグア、ボリビア、ハイチ、ホンジュラス、パラグアイ、ウルグアイは未加盟である。

加盟国の内、ブラジル、アルゼンチン、コロンビアは、州や都市の投資誘致機関を含め複数の組織が加盟している。ブラジルの場合、APEX-BRASILに加え、ミナスジェライス州、パラナ州、リオ州、マットグロッソ州、日本の経団連にあたるCNI〈全国産業連盟〉の6組織が加入している。アルゼンチンの場合は、AACICIの他に、サンフアン州、チャコ州、ブエノスアイレス市の投資誘致機関が加入している。コロンビアの場合、PROCOLOMBIAに加え、マニサーレス州とチヤコ州が加入している。アジアと比較すると、総じて国間競争、州間競争が緩やかなラテンアメリカにあっても、興味のある現象である。国の投資誘致機関には任せておけないと言うことかも知れない。多くの国の投資誘致機関も外国に目を向けるようになったことは喜ばしいことである。

 

表4 WAIPA(世界投資促進機構協会)加盟のラテンアメリカ諸国の投資誘致機関

国 名 組 織 名
アルゼンチン INVESTMENT & TRADE PROMOTION AGENCY OF BUENOS AIRES (INVESTBA)
INVEST IN SAN JUAN
MINISTRY OF FOREIGN RELATIONS AND INVESTMENT PROMOTION -CHACO PROVINCE
AAICI(ARGENTINA INVESTMENT AND TRADE AGENCY)
ブラジル」 INDI (MINAS GERAIS INVESTMENT AND TRADE PROMOTION AGENCY)
PARANA DEVELOPMENT AGENCY
RIO NEGOCIOS
APEX-BRASIL (BRAZILIAN TRADE AND INVESTMENT PROMOTION  AGENCY)
CNI (NATIONAL CONFEDERATION OF INDUSTRY)
MT FOMENTO MATO GROSSO
チリ INVESTCHILE
コロンビア PROCOLOMBIA
INVEST IN MANIZALES
PROBARRANQUILLA
コスタリカ CINDE (COSTA RICA INVESTMENT & DEVELOPMENT BOARD)
キューバ MINCEX (MINISTRY OF FOREIGN TRADE AND INVESTMENTS)
ドミニカ共 CEI-RD (EXPORT & INVESTMENT CENTER OF THE DOMINICAN REPUBLIC)
エクアドル PR OECUADOR
エルサルバドル PROESA (EXPORT AND INVESTMENT PROMOTION AGENCY OF EL SALVADOR)
グアテマラ INVEST IN GUATEMALA
メキシコ PROMEXICO
パナマ PROINVEX (PANAPA TRADE & INVESTMENT AGENCY)
ペルー PROINVERSION
ベネズエラ CONAPRI (CONSEJO NACIONAL DE PROMOCION DE INVERSIONES)
計 14カ国 計 24機関

出所:WAIPAホームページより筆者作成 http://www.waipa.org

 

2 海外事務所・国内事務所のネットワーク

次にラテンアメリカの主要輸出振興・投資誘致機関が保有する海外・国内のネットワークを紹介する。前述のODYSSAYでも内外の事務所を持つことによる効果や評価を克明に分析している。常識的に言うと、輸出振興・投資誘致機関が内外に事務所等ネットワークを持つことは、目的達成のうえで、大いに効力を発揮する。

まず、輸出振興機関の立場で説明しよう。組織の主たるクライアントである輸出志向の中小企業者にとって、国内の身近なところに相談窓口があり、いつでも相談やコンサルテイングに応じてもらえるとなると大いに助かり、活用意欲も沸いて来よう。また海外の事務所を保有しておれば、中小企業からの情報提供依頼に対し、迅速かつ的確な提供が可能となる。一方、外国の輸入業者からすれば、自国内に存在する輸出振興機関の事務所にコンタクトさえすれば、必要な情報の提供を受けることができる。

投資誘致機関のクライアントは、外国企業や多国籍企業である。投資誘致を図るには、それぞれの国の魅力、投資環境につき積極的にPR・プロモーションをする必要がある。海外事務所があれば、それも可能である。外国の潜在的投資企業へのアテンドもできるし、、自国の大臣や投資庁長官が海外でのプロモーションやセミナーを実施する場合でも比較的容易に組織できよう。また国内事務所があれば、第2のクライアントである州政府や州政府の投資誘致機関・企業とも意思疎通・コミュニケーションが容易になり、投資の受け入れ環境の情報が入手できる。

 

下記の表5から、ラテンアメリカの輸出振興・投資誘致の海外・国内事務所からいくつかの分類が可能でかつその特徴が理解できる。大まかに5つの分類ができる。

 

  • 独自の海外・国内ネットワークを持っているケース

PROMEXICO、PROCOLOMBIA、APEX〈ブラジル〉、PROCHILE、、INVESTCHILE、PRO ECUADOR、CINDE(コスタリカ)

  • 独自のネットワークと自国の外務省のネットワークを併存するケース

CEI-RD(ドミニカ共和国)

  • 外務省等のネットワークを活用するケース

REDIEX(パラグアイ)、PRMPERU、PROCOMER(コスタリカ)

  • 独自のネットワークを持たないケース

AAICI(アルゼンチン)

  • 独自のネットワークを持たないが、外国の機関と提携しているケース

PROINVERSION〈ペルー〉

 

いくつかの特徴を指摘する。

  • 海外ネットワークがしっかりしているのは、PROMEXICO、PROCOLOMBIA、、PROCHILE、PRO ECUADORである。
  • 外務省のネットワークを活用しているのは、REDIEX(パラグアイ)、PRMPERU〉、PROCOMER(コスタリカ)、CEI-RD(ドミニカ共和国)であるが、大使館の商務官は多様な仕事の1つとして、輸出振興や投資誘致を行うことになるので、ひとえに商務官の能力・やる気・セールスマンシップにかかっている。
  • ブラジルは、10の海外事務所を持っているが、世界第7位の経済大国としては、不十分といえる。また国内事務所数が極めて少ないのは、多くの州政府の投資誘致機関があるとはいうものの、目的達成上、不備と言えよう。
  • アルゼンチンは、EXPORTARの時代から、外務省との権限争いから海外事務所を持たないことになっていたが、現在のAAICIになっても海外事務所、国内事務所が無いという状況は、大国の割には、輸出振興・投資誘致に、積極的でないと言える。
  • ペルーのPROINVERSIONは海外事務所を持たない代わりに海外の投資誘致機関25と協力協定、国内の投資誘致機関43と枠組み協定を結んでいるが、提携関係を機能させることは、筆者の経験から言って容易ではない。

 

表5 内外事務所ネットワーク

組織名 海外ネットワーク 国内事務所 コ メ ン ト
PROMEXICO

MEXICO

輸出・投資

32カ国49カ所(アジア13、欧州14、南米7、北米15) 全国に30カ所 メキシコは、IMCE(メキシコ貿易庁)の時代から長い歴史がある。NAFTA締結以降、日本企業のメキシコ進出も盛んで、PROMEXICOはうまく機能している。
PROCOLOMBIA

Colombia

輸出・投資

海外26事務所(アジア6、欧州6、北米5、南米6、中米3) 全国に20カ所 コロンビアは、PROEXPORTの時代から、輸出振興活動には積極的であった。太平洋同盟において共同プロモーションを行う場合、PROEXPORTだとどこの国かわからないため名称を1992年に変更した。地方にも投資誘致機関があり,バランキージャ、ボゴタ、パシフィコ、カルタヘナ、メデジン、ウイーラ、マニサーレス、ぺレイラ、チョコに存在する。
APEX BRASIL

Brazil

輸出・投資

海外10カ所(ドバイ、ルアンダ、ハバナ、マイアミ、サンフランシスコ、ボゴタ、北京、ブラッセル、モスクワ) 全国に3カ所(ブラジリア、サンパウロ、レシフェ) APEXとは別に商工サービス省生産開発局内にRENAI(国家投資情報ネットワーク)があり、投資誘致関連の情報提供を行っている。加えて、マナウス・フリーゾーン監督庁(SUFRAMA)、主要州であるサンパウロ、ミナスジェライス、リオデジャネイロ、パラナ、サンタカタリーナ、バイーア、セアラ、パライーバ、ペルナンブコ、リオグランデドノルテ、リオグランデドスル州には独自の投資誘致機関
PROCHILE CHILE

輸出

42カ国、56事務所(アジア・オセアニア11、アフリカ2、中米・カリブ7、北米3、南米9、欧州12、中東1) 全国に15カ所 PROCHILEはラテンアメリカの輸出振興機関の中でベストの組織の1つと言える。外務省の1部局なので、外務省の海外ネットワークが自由に活用できるのが強みである。
INVESTCHILE

CHILE

投資

海外3カ所(東京、フランクフルト、サンフランシスコ) 現在のところサンテイアゴのみ 旧外資法(DL600号)の廃止に伴い、外国投資委員会(CIE)に代わり、2016年1月から活動を開始。今後、PROCHILEをいかに活用するかが課題。
AAICI (AGENCIA ARGENTINA DE INVERSIONES Y COMERCIO INTERNACIONA

輸出・投資

海外事務所無し 国内事務所はないが、26の州政府や州の輸出振興・投資誘致機関と連携。 マクリ政権になって発足したが、実際の成果につながっていない模様。前身のEXPORTARの設立は、1992年であるが、EXPORTARは海外事務所を持つことを禁止されていた。大使館との競合を避けるためと言う。輸出振興は、従来のEXPORTAR部門が行い。投資誘致は、 INVEST ARGENTINA部門が行う。
REDIEX

PARAGUAY

輸出・投資

海外事務所無し。海外5カ所に商務官 アスンシオンのみ 海外事務所は商務官が代行している。
PROINVERSION

PERU

投資

海外事務所無し(海外の投資誘致機関25と協定を締結している。 国内事務所は、リマのみ。(国内の州・県・市等と43の枠組み協定締結 経済財務省の外局。政府主導のインフラ整備事業や資源開発事業のコンセッション事業者の公募・入札、投資誘致活動。海外との投資協定では、韓国4機関、中国3機関、日本は、JOIと三菱UFJと提携している。
PROMPERU

PERU

輸出・観光

海外34カ所 PROMPERUは全国に4カ所。iPeru(観光事務所)は全国42か所 PROMPERUの場合、輸出振興と観光誘致は別々に行っている。観光関係の国内事務所は充実している。海外では商務官が輸出振興の役割を担っている。
PRO ECUADOR

ECUADOR

輸出・投資

26カ国31事務所(北米5、中南米9、欧州8、中近東3、アジア6) 本社とグアヤキルとキトを含めると7カ所 前身のCORPEI (CORPORACION DE PROMOCION DE EXPORTACIONES E INVERSIONES)が弱体化したので、政府が2011年にPRO ECUADORを設立した。
CEI-RD

La Republica Dominicana

輸出・投資

海外は、マイアミとニューヨークの2カ所。その他外務省のネットワークを活用している。 国内は、サントドミンゴとサンテイアゴ 1971年設立の輸出振興機関CEDOPEX(Centro Dominicano de Promocion de Exportacion)と1997年設立の投資誘致機関のOPI-RD(Oficina para la Promocion de Inversiones de la Republica Dominicana)が2003年に合併
CINDE

COSTA RICA

投資

海外1カ所(ニューヨーク) 国内は1カ所、サンホセ 半官半民的な組織であるが、フリーゾーンの使用料金からの収入等公的資金も入っている。業務は効率的でうまく機能している。外資導入のサクセスストーリーも多い。
PROCOMER

Costa Rica

輸出

海外20カ所(北米3、中南米8、欧州5、アジア2等 国内カ所 商務官が業務を代行している。

 

続く