沼田行雄(協会理事、前在トンガ大使)

 ミナス、リオ、バイーアの3州に接するエスピリトサント州の州都ヴィトリアは、リオの北東、約500 キロに位置し、リトル・リオとも称せられる、人口約35 万人の風光明媚で美しい港町である。対岸のヴィラ・ヴェーリャの丘にたつ白亜のペーニャ修道院は、さながらコルコバードのキリスト像であり、コパカバーナに準えられるのがカンブリの美しいビーチと言ったところ。また、2015 年、国連開発計画は、ヴィトリアをブラジル州都の中で二番目に『生活しやすい都市』に挙げた。
歴史は古く、1535 年、ポルトガル国王から派遣されたカピタニア領主、ヴァスコ・コウチーニョが到着、原住民との長い戦いの末、その名の通り勝利し、1551年9 月8 日に今のヴィトリアが誕生した。レシフェやサルバドールと同じくらい古い州都である。
ヴィトリアは、19 世紀以降、イタリア、ドイツ系移民の流入もあり、コーヒーの積出港として栄え、その後、1942 年にヴィトリア-ミナス鉄道が完成、イタビラ鉱山から鉄鉱石が運び出されるようになり、更に、1966 年にツバロン港が開港し、リオドセ(現ヴァーレ)社の国際的な輸出港として大きく発展を遂げた。筆者がエスピリトサント連邦大に留学していた1976 ~ 78 年頃は、多くの日伯ナショナルプロジェクトが形成された第一次ブラジルブームと言われた時期で、ヴィトリアでも、日伊伯共同プロジェクトであるツバロン製鉄所の建設黎明期で、製鉄用ペレット生産のNIBRASCO、州北部でユーカリ植林事業を展開するFLONIBRA
など日伯合弁事業が立ち上がり,活気に満ち溢れていた。当時は、日本人駐在員も少なく、日系社会も形成されていなかったなか、好奇心に富むカピシャーバ達が温かく受け入れてくれたことを、40 年たった今でも懐かしく思い出す。
カピシャーバと言えば、ブラジルの代表的な魚介類の土鍋料理としてムケカがあるが、ヴィトリアのムケカ・カピシャーバは、ココナツミルクとデンデ油を使うバイーア風のこってりではなく、コロラウという食紅
を使い、あっさりした日本人にも親しめる味なので、お勧めしたい。また、意外に知られていないが、ブラジルを代表するチョコレートメーカーGAROTO の本社工場もヴィトリア郊外にある。