2019年9月
執筆者:桜井 悌司 氏
(日本ブラジル中央協会 顧問)

 

「はじめに」

2017年9月頃、日本ブラジル中央協会のホームページに、「フェスチヴァル・ド・ジャポン(日本祭り)のこと」(https://nipo-brasil.org/archives/12768/)という原稿を執筆した。内容は、サンパウロで毎年開催される世界最大の日本祭りである「フェスチヷル・ド・ジャポン」の歴史、テーマの変遷、イベントの内容等につき紹介したものである。同時に、パラナ州のクリチバ市、ロンドリーナ市、マリンガ市の3都市の日本祭りと、リオ・グランデ・ド・スル州のポルトアレグレ市の日本祭りも紹介した。サンパウロの日本祭りについては、2017年まで紹介したので、本稿では、2018年と2019年の様子を中心に、現地のニッケイ新聞やサンパウロ新聞のウエブ版の報道等に基づきお伝えしたい。

サンパウロ人文科学研究所の調査によると、ブラジル全土で、日本祭りは88か所、盆踊りは、138か所で行っており、437の団体が所有する会館を拠点に日本文化の発信を行っている。サンパウロの日本祭りは、ブラジル日本都道府県連合会(県連)により、1998年に、ブラジルへの日系人移住80周年を記念して、初めて開催され、今年で22回目を迎える。会場は、当初イビラプエラ公園やサンパウロ州議会駐車場で行われていたが、2005年からイミグランテス展示場〈現サンパウロ・エクスポ展示場、サンパウロで最大の展示場〉に移された。2006年以降、毎年テーマを設定している。

 

「過去5年間の入場者数とテーマの推移」

2015年以降過去5年間の推移をみてみよう。

  • 入場者総数 県連の発表によると、
    第18回(2015年) 約15万人、この年までは万単位の数字を発表していた。
    第19回(2016年) 168,000人
    第20回(2017年) 182,000人
    第21回(2018年) 215,000人(日本人移住110周年に当たる)
    第22回(2019年) 192,000人
  • テーマの推移
    第18回(2015年) 日伯120年の絆
    第19回(2016年) スポーツと健康
    第20回(2017年) 20年の軌跡
    第21回(2018年) ブラジル日本移民110周年
    第22回(2019年) 情報ネットワーク

 

「第21回日本祭り(2018年)の概要」

第21回日本祭りは、2018年7月5日(金)から7日(日)まで、サンパウロ・エクスポ展示場で開催された。笠戸丸でブラジルに初めて移住した年である1908年から110周年記念に当たるため、テーマも「ブラジル日本移民110周年」であった。そのため、日本祭りの会場の面積も拡大され、来場者数も過去最大の215,000人(うち59%が非日系人)と目標の20万人を大幅に上回った。この日本祭りの注目すべき特徴を下記に紹介する。

 

  • 眞子内親王の「ブラジル日本移民110周年記念式典」ご臨席と「日本祭り」の見学

    日本移民110周年記念式典が日本祭りの会場内の式典会場(5,000人収容)で行われたため、眞子内親王は、式典で挨拶をされるとともに、式典後の音楽、太鼓、踊り等のパーフォーマンスをご覧になった。眞子内親王のご臨席で会場は大いに盛り上がった。

  • ギネス世界記録への挑戦

    県連では、510種類以上の日本食を提供する日本国外の祭りという記録を目指し、ギネス世界記録に挑戦した。日本食の定義等で審査が遅れたが、最終結果は498と500までに2食足りないとなり認定には至らなかった。それでも大きな話題を集めた。眞子内親王もギネス会場に立ち寄られた。

  • 「Beauty Fair」の会場内開催

    化粧品等で大成功をおさめている池崎商会が、通常、センター・ノルチ展示場で開催されている「Beauty Fair}を式典会場に隣接して、3,000平米の規模で同展を開催した。そのため女性訪問者が多数来場することになった。

  • 農林水産省主催のデモンストレーション

    農林水産省のブースでは、4人のシェフが「お弁当」をテーマにして、各種デモンストレションを行った。

  • ジェトロ主催による「地方特産物試食会」

    ジェトロは、日本祭りの会場のジェトロ・ブースで、14都道府県から集めたアルコール飲料、お茶、お菓子、調味料等26品目を展示・試食会を開催し、商談等を行った。ブラジル市場への参入を目指す日本の中小企業の販路開拓に貢献するのが、目的であった。会期中に、970人のビジネスマンの来場があった。

  • サンタクルス病院主催無料検査・測定会の実施

    日系コロニアの病院であるサンタクルス病院は、無料で各種測定を実施した。合計4,500人の健康増進に寄与した。受診者には、「健康増進6原則」というパンフレットがプレゼントされた。

  • 郷土食コーナー

    お祭り最大のアトラクションである「郷土食コーナー」には、46都道府県と8団体の合計54団体が参加した。高知県のかつおのたたき、和歌山県のお好み焼き、大分県の鳥めし、岩手県のわかめうどん、山梨県のイチゴ大福等が人気を集めた。

  • その他興味のあるイベント

    筑波大学サンパウロ事務所主催の「就活相談」日本に留学した後、どのような会社に就職できるかにつき、企業の協力を得て、就職相談を行った・

  • トヨタブラジルによるTPS(トヨタ生産方式)の研究会を開催

    希望のあった8県人会と1団体に対し、料理提供時間の短縮のための研究会を行った。受講した和歌山県では、従来15分かかっていた時間が8分に短縮された。

 

「第22回日本祭り(2019年)の概要」

今年のサンパウロ日本祭りは、7月5日(金)から7日(日)まで、「情報ネットワーク」というテーマのもとに、サンパウロ・エクスポ展示場で開催された。昨年は、日本移民110周年であったため、特別に力の入った日本祭りであったが、今年は目標の20万人に届かず192,000人であった。その理由として、昨年が特別であったとか、気候が寒かったとか、景気が悪いということがあげられている。

 

  • 会場の構成
    毎年マイナーな変化はあるが、第22回日本祭りに基づき、その内容を紹介する。
  1. 入り口を通ると最初に出展社コーナーがあり、トヨタ、ホンダ、日産等の進出企業の大型ブース、その奥には、サクラ醤油、アズマキリン、ヤクルト、サンリオ等の企業、さらには、援協やサンタクルス病院等が展示ブースを構える。
  2. バラエテイ広場 多くの中小出展者が並ぶ。
  3. 日本政府関連広場 サンパウロ総領事館、農林水産省、ジェトロ、JICA,筑波大学が出展した。
  4. 高齢者広場 体験、講演、紹介の3コーナーがあり、体験コーナーでは、ゲートボール、ラジオ体操、健康体操が行われる。講演コーナーでは、ポルトガル語による高年齢者及び介護者に役立つ講演が企画される。紹介コーナーでは、デイ・ケア・サービスやアルツハイマー対応などを行う団体による各種照会を行う。
  5. アキバ・スペース  東京の秋葉原を想定した若者向けのアニメ、マンガ、コスプレコーナー。、
  6. 赤のステージ 小型のステージで各種文化的なイベントが行われる。
  7. 食の広場 日本祭り最大のアトラクションがこの食の広場で、日本のほとんど全県の郷土食が賞味できる。今年の祭りでは、和洋スイーツで競争が繰り広げられた。シュークリームだけでも9県、イチゴ大福でも4県からのエントリーがあった。
  8. 緑のステージ 日本祭りの中央ステージで、プログラムを見ると、7月6日(土)には、午前9時から午後7時まで、5分~30分刻みで、プロ、セミプロ、アマのパフォーマーによる演目が組まれている。最後のプログラムとして、ミスニッケイ・コンテスト(2011年の第14回日本祭りから本格的に始まる)が行われた。7日(日)も同様の方法で、朝から夕方まで各種演目が行われ最後には、コスプレ・サミットが行われた。
  9. なお、日本祭りの入場料は、前売り22レアル、当日28レアルで、学生及び60歳から65歳までは14レアル。65歳以上は無料となっている。
  10. 山田康夫県連会長によれば、日本祭りには、1日あたり、約4,000人のボランテイアが活躍しており、その内の98%が無報酬である。

 

  • いくつかの話題
    1. 食の広場 今年は、座席のスペースが倍になったため、比較的ゆったり食事をとることができるようになったとの評価。また前述したトヨタ生産方式の学習が効を奏したせいか、料理の調理から提供までの時間が短縮し、待ち時間が短くなったということで好評だった。一方、来場者減によって、完売の県とそうでない県に明暗が分かれた。
    2. 政府機関の国際交流基金は、剣玉ワールドカップ第3位の秋元悟氏を招待した。ジェトロ・ブースでは、日本産のコメのPRを兼ねておにぎり作り体験と和牛の試食が行われた。、サンタクルス病院では、傘寿(80歳)の方々に、傘のプレゼントを行った。
    3. 日本祭りとほぼ同時期に、サンパウロで3番目に大きいセンター・ノルチ展示場でKPOPのイベントが開催された。このイベントは、ブラジル韓国文化センター主催で、2017年から開始されたもので、韓国のプロのKPOPグループの公演である。スペース的には、日本祭りの6分の1程度であった。今年の観客動員数は1万人くらいという。入場は無料。また、それとは別に、今年の5月には、韓国のアイドルグループのBTSがサンパウロのパルメイラス・スタジアムで2回の公演があり8万人を動員したという。
    4. 日本祭りのメインステージである緑のステージでは、数多くのプログラムが展開されたが、博覧会で使われる「持ち込み催事」的なもの、県人会や各種音楽・舞踊・太鼓集団によって行われるものが多い。言わば大部分がアマチュアとセミプロなのである。上記③との関係で、所謂インパクトの強いプロのパーフォーマンスに欠けるということになる。ニッケイ新聞の論調によると、日本政府は、ジャパンハウスには、毎年膨大な予算が投入されているにも拘らず、日本祭りへの支援は微々たるものであり、もう少し日本政府の支援を要望したいと伝えている。

 

「日本祭りの更なる発展に向けて」

以上、最近の日本祭りの動向について、触れてみたが、今後の発展のためにどうすればいいかにつき、筆者個人の意見を紹介する。

 

  • 非日系人の来場者を増加させる。

    県連の山田康夫会長によれば、前述のとおり、59%が非日系人ということである。
    この数字を徐々に上げていくことが望まれる。なぜなら、この祭りの重要性から言って、「日系人のための日本祭り」というより「ブラジル人のための日本祭り」になるに十分に値するからである。そうなれば、来場者数の増加を見込むことができるし、日本政府や企業もより多くの支援をせざるを得なくなるからである。

  • 売り物の郷土料理の味・調理方法に更なる創意工夫をこらす。

    今年の5月、ニッケイ新聞に中野晃治氏が「巨大商業化した日本祭りへの提言=来場者のための本当のカイゼンを」を発表された。小見出しに「カイゼンされない郷土食広場」とか「味覚を楽しめない郷土食」と結構厳しい意見が出されていた。これに対し、山田県連会長から反論が出された。郷土広場の料理の特徴は、「おふくろの味」だという。それはそれでいいのだが、「おふくろの味」も全く同じものではなく、年々改良を加え、より美味しいものにして欲しいというのは来場者の総意であろう。
    したがって、来年の日本祭りまでに、各県人会内で議論と実践を重ね、さらに魅力あるオリジナル・メニューを作ることが望まれる。「おふくろの味」も年々変わるものである。またトヨタ生産方式(TPS)の学ぶことによって、調理から提供までの時間が飛躍的に短くなったということだが、さらに効率的になるようにすることが望まれる。回転が速くなればなるほど収益に結び付く。今年の日本祭りの郷土食広場のスペースが大きくなって、快適に食べられるようになったことは素晴らしいことである。

  • ステージのショウの目玉をつくる。

    別に、上記の韓国の例から学ぶという訳ではないが、ステージショウで目玉となるようなショウが1つ以上できれば、より多くの来場者を呼び寄せることが可能となろう。具体的には、①日本政府、国際交流基金や都道府県政府に依頼し、プロのアーチストや有名人、グループを派遣してもらう。②日本からの著名なアーチストの訪伯を日本祭りに合わせてもらう。③ 県連が全国の都道府県人会のネットワークを活用し、時間をかけて、ボランテイア価格で出演してくれそうなアーチストを探す,等の方法がある。

  • ボランテイア・マニュアルを作り、より効率的にする。

    日本祭りは98%がボランテイアであり、無償で献身的に手伝っているという。このことは、素晴らしいことである。ただボランテイアの中には、毎年協力し、業務の遂行に熟知している人も多いであろう。しかし、おそらく大部分の人が意気に感じてボランテイアの応募してくるものと推察される。そのようなボランテイアは、初めて慣れない作業をすることになる。そこで、マニュアルの作成が重要になってくる。既に存在するかもしれないが、筆者の考えを紹介する。県連として、「日本祭り総合マニュアル」をポルトガル語と日本語で作成する。この中には、日本祭りに関わるあらゆる業務をとりあげ、項目ごとにチェックリストを添付する。この総合マニュアルに基づき、各県人会が自分たちの業務内容に従って、「日本祭り用〇X県人会マニュアル」を作成するのである。マニュアルによって、時間とお金の節約が可能となり、ボランテイアに対するトレーニングのため資料ともなり得る。

 

以上、筆者個人の意見を紹介したが、読者のご意見もお聞きしたい。