2019年11月
執筆者:金岡 正洋 氏
(日本ブラジル中央協会常務理事)

 

 

ジョアン モレイラ(ja.m.wikipedia.org CC BY-SA 3.0)

ルメール騎手とデムーロ騎手の目覚ましい活躍」

サッカー、プロ野球、相撲の世界に加え最近では陸上競技、ラグビーの世界にも国際化が進み、所謂外国人選手が続々と登場し活躍しておりますが(と言っても国籍も取得している帰化人、ハーフ、外国籍のままの人と色々なカテゴリーに分かれます)今日は競馬の世界における外国人騎手の活躍につき少し触れて見たいと思います。

 

日本の競馬(と言ってもここで挙げるのはJRA-日本中央競馬会を対象とします)で活躍する騎手は騎手免許試験に合格し、資格を取ることが義務付けられ、従来は、日本人騎手にのみその資格が与えられていました。 ところが国際化の時代の流れに乗り1994年より海外で実績のある騎手を対象に、日本で最大3ヶ月の短期免許が発給されるようになり、海外より有名騎手が日本でのレースで活躍するようになりました。中にはオリビエ・ペリエ、マイケル・ロバーツ、ケント・デザーモなどイギリス、フランス、アメリカなどで活躍する一流騎手も参入し、G1(日本ダービーなど国内最高格のレース)を制覇する騎手も出て来ました。 更に2015年より騎手免許試験を受験し、合格したものを対象に通年の騎乗が認められるようになり、ここにクリストフ・ルメール(フランス出身)、ミルコ・デムーロ(イタリア出身)という2名のJRA所属の外国人騎手が登場しました。

 

元々、海外でも活躍していた一流騎手ですが、その後の二人の日本での活躍振りは目覚ましく、例えば、昨年度のJRAリーデイングジョッキーは1位ルメール(215勝、勝率27.8%)、2位デムーロ(153勝、勝率23.9%)という成績を残しております。ルメールに至っては、これまで武豊騎手が持っていた年間国内最多勝記録(212勝)を破る驚異的なものでした。 日本のリーデイング上位に位置する騎手でもせいぜい勝率10%程度であることを考えれば、大変な成績だという事が言えましょう。 上手い騎手には有力な馬を乗せたいという馬主や調教師の騎乗依頼が殺到し、更に成績が上がるという良い循環になっている様です。

 

「何故海外の騎手が日本に来るのか」

 

何故、海外の有力騎手が其処までして日本に拠点を移し騎乗を希望するのか、諸説ありますが、1番に矢張り日本の競馬の水準(特にサラブレッド)が世界のトップクラスまで上がってきたこと、次に、競馬場、ジョッキー調整ルーム、トレーニングセンターなど諸施設が充実している事、そして何よりも賞金が高い(特にJRA)事が挙げられる様です。

 

ここにJRAで施行されている騎手免許試験とは一次(学力に関する筆記試験―英語も可)と二次(学力、騎乗技術など日本語による面接試験が主)に分かれ実績のある騎手には騎乗実技は免除されるものの、かなりハードルの高いものです。 ビッグレースを勝利したルメール騎手、デムーロ騎手がテレビの勝利騎手インタビューで、かなり達者な日本語で答えている様子を見れば、二人が相当日本語を勉強している事が伺えます。

 

「ブラジル人、ジョアン・モレイラ騎手の登場」

 

所がここに上記ルーメール、デムーロ上回る外国人騎手が日本の競馬界に登場するようになりました。 ブラジル出身のジョアン・モレイラ騎手です。パラナ州クリチバ出身の36歳。2001年に、ブラジルで見習い騎手としてデビュー、その後ブラジル、南アフリカで1,000勝以上を上げ活躍した後、シンガポールに拠点を移し活躍、2010-2013年の間その地でリーデイングジョッキーとなりました。2013年9月6日には全9レース中騎乗した8鞍全てで勝利を挙げ、Magic Moreiraと称えられました。

 

その後、更に拠点を香港に移し、2014-2017年の3シーズンの間、ここでも早速リーデイングジョッキーとなり、現地では雷神という愛称で呼ばれています。 そして2014年からは、前述の短期免許を取得し 日本でも機会を捉えJRAのレースに騎乗する様になりました。勿論、日本でも予想に違わず素晴らしい成績を上げ、2016年8月28日の札幌競馬場では、騎乗機会6鞍中全てで勝利しました。そして2018年11月11日、京

都競馬場第9レースでJRA通算100勝を達成しました。これは2014年の初騎乗より294戦目での史上最速のレコード達成でした。因みに勝率34.0%は、上記ルメール、デムーロ騎手の数字と比較しても更に飛びぬけた数字であり、いかにモレイラ騎手の騎乗が素晴らしいものか分かると思います。 モレイラ騎手の日本馬による主なビッグレース勝鞍(すべてG1級)としては、2016年香港でのチャンピオンズマイル(モーリス)、2017年ドバイでのドバイターフ(ヴィブロス、オーナーはあの大魔神こと佐々木主浩氏)、2018年JRA エリザベス女王杯(リスグラシュー)等が挙げられます。

 

「何故、モレイラ騎手は強いのか?」

 

何故モレイラ騎手がこれだけの成績を上げることが出来るのか、その騎乗技術の素晴らしさは「スタートが上手く、手足が長く肩の可動域が広いので馬を御す力が強い。早めに動いて好位に付けるスタイル、また、ばてた馬を最後まで持たせる能力がすごい」などと言う見方が有るようです。

 

このモレイラ騎手が2018年秋香港での騎手免許を返上して遂にJRAでの通年免許取得のため、受験しました。 家族も日本に呼び、受験のため日本語も勉強し準備を行ったようです。これまでの実績も有り合格を予想する向きも有りましたが、残念ながら結果は一次試験で不合格となりました。 かなりショックだった様で「好きな日本でプレー出来ず残念!」と涙を流していたとの報道も有りました。

 

何故不合格だったのか、試験の内容について詳しい説明は有りませんが、中には、「このまま外国で成功した有力な外国人騎手の参入を認めれば日本人騎手(現在JRAには136人の騎手が所属する)の生活が脅かされてくる。JRAはその辺も考慮し、試験のハードルを高くしたのではないかと」と言ったうがった見方も有ります。 私はその見方には組せず、更にモレイラも含め海外より有力な騎手が参入し、日本競馬のレベルが上がる事を期待します。モレイラ騎手(現在は香港に戻り騎乗中)の雄姿を再び日本の競馬場で見る日が来る事を願って筆を置きます。