金子隆義
(川崎汽船ブラジル会社 社長)

 

ブラジル現地法人の設立

当社のブラジル事業の歴史は、1976 年5 月にリオデジャネイロ駐在員事務所及び現地法人Kawasaki Kisen doBrasil Serviço Marítimo Ltda. の設立に始まる。ブラジルの経済伸長に伴い、世界の資源国のひとつである同国での情報収集が当初の目的だった。其の後、ブラジルはBRICS の一員として今後、経済の高度成長が期待される有望国と見做され、当社も事業強化す るために2007 年組織改編、コンテナ船及び自動車船の代理店を総括管理する目的で現地法人”K”Line Brasil Ltda. を新たに設立、サンパウロに本社、リオデジャネイロに支店を開設した。現在は、川崎汽船の事業全般の出先機関としての役割も担っている。日本人駐在は数名だが、初代から数えて今年で18 代目が勤務を開始している。事務所スタッフ数は傘下の子会社含め総勢で約30 名強とコンパクトな組織である。
当社のブラジルでの主な活動としては、コンテナ船部門が邦船3 社( 当社、日本郵船、商船三井) の事業統合会社に譲渡されたため、自動車船事業を中心としてドライバルク( ばら積船) 事業やエネルギー資源輸送関連事業への営業・運航支援業務となっている。

自動車船事業

自動車輸送は、1990 年代の自動車メーカーの水平分業化の進展に伴い、世界の自動車生産と物流の多元化が進む中で、世界の様々な海域を縦横に掛け巡る時代へと変化した。ブラジルに関して言えば、斯様な変化への対応の一環として、大西洋水域での三国間トレードの充実・強化を狙った当社は、欧米系メーカーの輸送需要に応える形で南米東岸サービス網の拡充を目指した。1993 年に地中海/ 南米東岸航路のシャトルサービスの開設を皮切りに、1996 年にはメルコスール域内のシャトルサービスを開設。イラン・イラク戦争後のイラクとの石油バーター取引きとして、ヨルダン南部のアカバ港向けにピックアップ・トラックや機械などブラジル製品の輸送にも従事した。2001 年、地中海/ 南米東岸航路は休止するも、新たに南北航路( 南米東岸/ メキシコ・米国東岸)を開始し、当社の自動車船サービス事業のグローバル・ネットワークの拡充に努めて来た。南米経済の浮き沈みは激しく、完成車輸送量も年によって大きく変化するため、適正な船腹量の維持・調整が中々難しい。変動激しい輸送需要量に見合う船型へのタイムリーな入替えや寄港スケジュール調整等を通じ、極力サービスの質を落とさず荷主殿のご要望にお応えする様、ローカル・パートナー関係者と一丸となって努力している。また、自動車物流も今後伸ばして行き度い分野で、海上輸送で培って来たダメージ・プリベンションなどの知見を其の前後の陸上での物流で活かす事が出来る。新興国での自動車販売増加で需要拡大も見込め、2017 年にローカル・パートナーと共同でヤード・マネジメント会社Nexus Gerenciamento de Patrios Ltda. を設立、海上輸送と組み合わせたサービスの提供も可能となった。

ドライバルク事業

ドライバルク事業は、日本の製鉄会社・商社を始め、アジア・欧米顧客向けの鉄鉱石・穀物輸送が中心。極東から見ればブラジルは地球の裏側で足の長い海上輸送となり、特に鉄鉱石輸送ではコスト低減のため船舶の大型化が求められる。通常のケープサイズ( 平均15 ~ 16 万トン船型) に加え、よりスケールメリットを得るべく30 万トン超クラスの船舶も建造し顧客のニーズに適った専用船として配船もしている。当社運航船のブラジル寄港数は、中小型船含め年平均150 隻前後で約2 ~3日に一度は何処かで当社船が荷役している勘定となる。市況環境が厳しい中でも生き抜いて行くため、安全運航確保は堅持しつつ運航効率の向上やコスト低減に向けて関係者の協力も得乍ら日々取り組んでいる。

エネルギー資源輸送関係事業

エネルギー資源輸送関連ビジネスでの当社のブラジルでの歴史は比較的新しい。近年、近海のプレソルト( 岩塩下層)で膨大な石油・天然ガスの埋蔵が確認され、海底油田に対する大型投資が増えて来た。当社は2009 年、ペトロブラス社がリオデジャネイロ沖で開発中の大水深海底油田向けドリルシップ( 洋上掘削船) 事業に共同出資する形で参画、また、2010 年より本格的に単独で開始したオフショア支援船事業では、沿岸域洋上に設置された石油生産プラットフォームや掘削リグなどへの物資輸送などでペトロブラス社向けにサービス提供もして来た。今後の事業展開としては、エネルギー・バリューチェーンで言う上流に位置付けられるドリルシップやFPSO( 浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備) 等への需要に、パートナーと協業する形で新規参画出来ればと思っている。