ペルナンブーコ州ガラニュンス市。州都レシーフェから西へ230㎞ほど入ったところに位置する内陸の中堅都市で、現在の人口は14 万人ほどだ。
海抜841m という高地に開かれた町なので、冬季に相当する6 月から8 月にかけては、最低気温が10℃前後となり、ガラニュンスの街中を歩く人たちは、長袖にセーターやカーディガンを羽織ったりしている。年がら年中T シャツ一枚だけで過ごせる熱帯のノルデスチ地方では”特異な”風景であり、「ペルナンブーコのスイス」と呼ばれるのも当然だろう。ここは、熱暑から逃れる、文字通りの避暑地であり、かつては結核患者の転地療養用のサナトリウムも設けられていた。
ガラニュンスは、Serra Branca(白い山脈)ブランドのミネラルウォーターの源泉地としても知られており、レシ-フェ住民であった筆者は、このブランド水を「ペルナンブーコのハクサン高原水」と勝手に命名して愛飲したものだ。
「ノルデスチの軽井沢(いや、清里か)」であったこの町の主な産業といえるのは、この地の気候条件を生かした、乳牛主体の牧畜と乳製品加工業と観光業である。1990 年代に入ると、毎年7 月に開催される「冬季音楽フェスティバル」に有名歌手も複数参加するようになって、彼らをみようと観光客が“殺到”して、観光ビジネスも急成長してきた。
そんなガラニュンスが、一層脚光を浴びるようになったのは、同地出身の元労働運動リーダーのルーラ(ルイス・イナシオ・ダ・シルバ)が2002 年の総選挙で大統領に選出されたからだ。「おらが町の大統領」の人気は絶大で、彼が大型収賄疑獄容疑で2018 年4 月に逮捕・収監されたあとも、「生けるアイコン」への崇拝は衰えていない。
さらに新しい観光名所が生まれそうである。街の中心部から10km ほど離れたところに、大規模ブドウ園が6 年前から開拓され、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベックといった選抜された苗が整然と植付けられている。併設されたワイナリーには、第一回収穫から抽出されたワイン原酒が既に樽に詰められて眠っており、来年2021 年早々には、一般販売を開始する由だ。清浄な空気とワインを楽しめる農園ホテルも敷地内に建設中なので、ガラニュンスはワイン・ツーリズムの町としても有名になりそうだ。
岸和田仁(『ブラジル特報』編集人)