TS( 元ブラジル駐在員 )
ポソス・デ・カルダスは、ミナスジェライス州南西部のサンパウロ州境に位置する人口 16 万人の小さな町である。サンパウロから北に 250㎞、ミネラルウォーターで有名なアグアス・ダ・プラタからつづら折りの街道を登った州境の先に、町が広がっている。
この町は死火山のカルデラの中に位置し、その中心部ではミネラル分を多く含んだ鉱泉が湧いている。19 世紀末に鉱泉を利用した温泉保養施設が開かれ、町は観光都市として発展した。1930 年代には当時のヴァルガス大統領が避暑の為夏の間この町に滞在、今も営業するホテルには大統領の執務室が残されている。町の北にある山の頂には、地元の人がリオに次いでブラジルで二番目に大きい(?)と自慢するキリスト像が立ち、ロープウェイでその足元まで登れる。現在もサンパウロから週末の遠出の先として多くの人が訪れている。
このミナスジェライスの小都市は、日本とは意外と深い繋がりがある。
1960 年に日本の民間企業の使節団がブラジルを訪問、その際政府高官より、日本の技術を生かせ、且つブラジルの将来に貢献する製造業への投資を求められた。これを受け訪問団は、ブラジルの農業振興に貢献可能な肥料製造に目を付け、国産リン鉱石を原料とし豊富な電力を活用するリン酸系特殊肥料の製造を検討開始した。1966 年に日本企業数社で JV を設立、リン鉱石と電力を安価に得られるミナスジェライス州と、当時ブラジルの農業生産の中心であったサンパウロ州の境に位置するポソス・デ・カルダスを工場立地として選んだ。工場稼働開始後、この町では長年に亘り、日本からの派遣技術者や日系人農業技術者ら、日本にルーツを持つ人たちが多く働いた。その後自前の技術者が育ち日本からの派遣技術者は帰国、2011 年には日本企業も出資を引き上げたが、現在でも地元企業による操業が続けてられている。
日本人が去って 10 年近くが経ち、町と日本の繋がりは薄れつつあるが、その名残りとなる場所がある。日本企業による運営時に市に寄贈した日本庭園が町はずれにあり、地元の名所となっている。鯉の泳ぐ池など日本人が設計した庭園で、かつては書院造の茶室も存在した。
ブラジルに駐在する日本人には殆ど知られていない地方都市だが、サンパウロから日帰りも可能なこの町に機会あれば訪れて頂きたい。