西田紘一郎(KIKKOMAN DO BRASIL取締役)
KIKKOMANの世界展開
2021年11月KIKKOMAN DO BRASILは「ブラジルの総ての食卓にKIKKOMANしょうゆを」という目標の下に、新たなスタートを切った。南米では初めてとなる自社工場でのKIKKOMANしょうゆの製造と出荷を開始した。私たちは「KIKKOMANしょうゆ」には世界に通用するおいしさがあると確信している。KIKKOMANがブラジルでの市場調査を開始したのが今から40年ほど前。以降、委託工場での生産の試み、輸入、ソース類の現地生産、このスタートラインに立つまでには様々な試行錯誤があった。
現地嗜好にあった商品の現地生産の必要性
KIKKOMANしょうゆは今や世界100か国以上でご愛用頂いている調味料である。清澄な赤橙色、本醸造由来のうまみと芳醇な香りのしょうゆは料理を選ばず、どのような素材にもなじむ。単に日本古来の伝統調味料ではなく、世界に通用する万能調味料である。それはこのブラジルに来ても、変わらないと確信している。しかし、このブラジル市場には、色が黒く、甘みを添加した「ブラジルShoyu」が広く浸透している。当社は「世界各国にある工場からバリエーション豊かな商品を輸入できる」という強みを生かし、輸入品を通じた販売を強化してきたが、輸送費や高率な間接税故に店頭価格は非常に高価なものになった。既に「Shoyu」のあるブラジル市場では競合との価格差が大きかった。その価格差故、お客様に手にとってもらえる機会創出には苦戦したものの、KIKKOMAN商品を手にとって頂いたお客様の反応に確かな手ごたえを感じた。そこで、2018年に現地の食文化や嗜好を強く意識し、第三者工場で輸入品より手に取りやすい価格のソース類の現地生産を開始した。従来の輸入品ではカバーしきれない、きめ細かい現地のニーズに対応し且つ「KIKKOMANらしさ」を織り交ぜた商品をよりお手ごろな価格でご提供することでKIKKOMANブランドと品質を認知してもらい、KIKKOMANしょうゆへの足掛かりを作ることを模索した。これらの商品はお客様からも好評を頂き、徐々に販路を広げていった。
AZUMA KIRINの買収
2020年、キッコーマン株式会社はキリンホールディングス株式会社から、ブラジルで清酒、調味料を製造販売しているAZUMA KIRINの全株式の譲渡を受けた。これに伴い、上記のブラジルで製造したソース事業をAZUMA KIRINに統合しKIKKOMA DO BRASILとして新たなスタートを切った。AZUMA KIRINの前身であるカンピーナス農産加工社は、ブラジルに入植された日本人移民の方々のために清酒を製造・販売することを目的に1934年に設立され、その後、日本の調味料の製造・販売までを手掛けるようになった。特に清酒は、ブラジルで製造された本格的な清酒として、日系のお客さまだけでなく現地のお客さまにも広く浸透し、ブラジル市場でNo.1の地位を築き上げた。1975年にはキリンビール株式会社が資本参加し、2016年には同社の主力清酒ブランド「東麒麟」から社名を取り「AZUMA KIRIN」と社名を変更した。同社は、広い流通網を擁しておりKIKKOMANソースをこの流通網に乗せることで、全国規模の量販店や遠方のレストランまで広く商品をお届けできるようになった。また「一緒に食べる肴によって様々な風味の違いを楽しめる」当社の東麒麟との相性を訴求することで、相乗効果を生み出している。
南米大陸初めての自社工場の誕生と、本醸造しょうゆの出荷・販売
統合後、店頭でのKIKKOMANソースの露出も増え、ブランドの認知度は高まっていった。しかし、私たちの目標は「ブラジルの総ての食卓にKIKKOMANしょうゆを」である。私たちは統合直後よりカンピーナス工場でのKIKKOMAN本醸造しょうゆの現地生産の可能性を探っていた。日本より技術者を招聘し、試作、改良を重ね、2021年11月本醸造しょうゆの出荷、発売をすることが出来た。KIKKOMANしょうゆの工場としては南米大陸では初の自社工場、世界で11番目の製造拠点となり、私たちの目指す目標のスタートラインに立つことが出来た。
ブラジルの総ての食卓にKIKKOMANしょうゆを
まだまだ我々の挑戦は始まったばかり。2億人の人口と世界5位の広大な国土を擁するブラジルの総ての食卓にキッコーマンしょうゆをお届けするのは簡単なことではない。しかし、KIKKOMANは世界中で現地の食文化と融合を図りながらしょうゆを普及させてきた。ここブラジルは世界有数の食材の多様性をもっており、それらがKIKKOMANしょうゆと融合することで「新しいおいしさ」に出会える可能性を大いに感じる。ライフスタイルや食文化に真摯に向き合い、ブラジル・南米料理との融合を図りながら、しょうゆの持つ様々な魅力や可能性をお伝えしていき、ブラジルの食卓に彩りとおいしさをお届けすべく、一つ一つ歩みを進めていきたい。