執筆者:藤沢 圭子 氏(HN: Shiomin)
と…、このような↑タイトルでは、「何のことやら」ですよね…。
実は私、日本生まれのブラジル育ちで、ここ四半世紀ほどは、主にアフリカ葡語圏向けODA (政府開発援助)絡みの翻訳・通訳業に従事してきており、そのおかげで、子供の頃から話しているブラジルのポルトガル語の他にアフリカのポルトガル語(こちらはポルトガル本国のポルトガル語に若干のクセがあるもの)も多少話せるようになりました。
ブラジルのポルトガル語(伯葡語)と、それ以外のポルトガル語(欧州葡語)では、数多くの単語、その綴りや発音、はたまた文法に至るまで違いがあり、その違いこそがポルトガル語が国連の公用語として認められない理由だとして、せめて表記の統一を目指すべく「新正書法」なるものを導入してみたものの、そこで制定されたルールに則った結果、逆に表記が異なってしまったケースがあったり文の解読が困難になったとのクレームが出たりと、何かと笑えない話も生じており、苦笑いするしかないトラブルを抱えるポルトガル語圏なのですが、今回の「『モット』と『モッタ』」はというと、実はブラジルに住んでいた若かりし頃覚えた「日系人の笑い話」について書こうと思ったところ、「伯葡語の『モット』は、欧州葡語では『モッタ』だったな」と思い出してしまい、それについても書かなくてはと、下手に長い前置きが付いてしまったものです。
即ち、とり上げたかった話は後半部分のジョークなのに、タイトルは前置きの「『モット』と『モッタ』」…と矛盾しているのですが、「『モット』と『モッタ』」という組み合わせが面白いと感じてしまったもので、何卒ご容赦下さい。
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さて、それでは「『モット』と『モッタ』」とはなんぞやという話をしましょう。
ブラジルではオートバイのことを「motocicleta【モトスィクレッタ】」といい、これを略して「moto【モット】」とも言います。一方、欧州葡語では「motorizada【モトリザーダ】」といい、これを略して「mota【モッタ】」とも言います。
「motocicleta」と「motorizada」、どちらも女性名詞なので、「私のバイク」という場合は、女性形の所有格である「minha【ミニャ】」を付けて、
ブラジルでは:
「minha motocicleta(【ミニャ・モトスィクレッタ】」
または
「minha moto【ミニャ・モット】」と、
ブラジル以外のポルトガル語圏では:
「minha motorizada【ミニャ・モトリザーダ】」
または
「minha mota【ミニャ・モッタ】」
といいます。
見てのとおり略称はたったの一字違いですし、どちらも女性名詞なのですが、伯葡語では「moto」と単語の語尾が一見男性形だと思われがちな「o」なので、欧州葡語話者は違和感を覚えがちです。
一方、ブラジル人がポルトガルへ行った場合は、「ここでは motaというのか」と受け入れるものの、ポルトガル以外の葡語圏へ出向いた場合は、「ここの人達は『moto』では男性名詞のようだから、敢えて『mota』と略しているんだろうと思い込んだまま過ごしてしまうこともあるようです。
ちなみに「伯葡語」と「欧州葡語」にはこのような些細な違いが数えきれないほどあり、例えば上に「国連の公用語」云々と書きましたが、この「国連」の略称、つまり英語でいうところの「UN」などを見ても、両葡語とも「ONU」(“Organização das Nações Unidas”)というのですが、発音はというと、ブラジルでは「オーヌ」、その他ポルトガル語圏では「オヌー」で、しかもブラジル人が「オヌー」と聞くと、「裸ん坊」( “o nu” = 英:“the nude”)に聞こえてしまうというオマケ付きです…。(笑)
いやはや、「ブラジル人とポルトガル人はウマが合わない」とはよく言われることなのですが、こんな塩梅なので、お互いさぞかし誤解が多いのだろうナと推察できますね…。
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さて、ここでようやく「本命」のブラジルの日系人ジョークを紹介しましょう。
それはなぞなぞ形式になっているもので、次のようなものです。
「日系人の青年がバイクを路上駐車させておいたら、
トラックがやってきてバイクを轢いてしまいました。
その青年の名前は?」
ポ語: “Um japonesinho estacionou sua moto na rua. Aí, veio um caminhão e este passou por cima da moto. Como se chamava o japonesinho?”
という質問に対しての答えが…ナント!
「マサル・ミヤモト」
だというのです!
その心はというと、「マサル・ミヤモト」とは、ブラジル人の耳にはラフな口語で話した場合の「俺のバイク、潰しやがった」という意味のように聞こえるからなのです。
「俺のバイク、潰しやがった」に相当する伯葡語文は、「Amassaram minha moto.」で、これはきちんとした読み方をすると、「アマサーラン・ア・ミニャ・モットゥ」といった読み方になるのですが、これがやや「べらんめぇ口調」になると、「マサール・ミアモットゥ」のようになり、これはまさしくブラジル人が「Masaru Miyamoto」を読んだときと同様なのです。
全国のミヤモト・マサル様、ごめんなさい。
ちなみに「Amassaram」は、「潰す、こねる、くしゃくしゃにする」といった意味の「amassar」動詞の3人称複数形が完全過去形になったものです。
3人称複数といえば、英語では「They」ですよね。不特定の主語を表すのに英語でも「They」が用いられますね。それと全く同じです。ただ、ポルトガル語には主語を必ずしも明記しなくても良いというルールがあるため、このケースのように動詞がいきなり出てくる文になり得るというわけです。
そんなこんなで、ジョーク一つ紹介するにしても、「これはポルトガル語圏に普遍的に通じるかしら?」と考えてしまう私は、「note(https://note.com/)」というプラットフォームでポルトガル語やポルトガル語圏について日々発信しておりますので、よろしくお願い申し上げます。