2024年3月19日
執筆者:桜井 悌司 氏
(ラテンアメリカ協会常務理事)
昨今、チャットGptなど生成AI技術で文章の作成や翻訳までもやってくれるということで大きな話題となっている。筆者自身、チャットGptを活用していないが、翻訳アプリのdeeple翻訳を大いに活用している。数年前と比較し、翻訳アプリの精度は急速に高くなっていることを実感する。本稿では、翻訳アプリとくにdeeple翻訳を活用する上でどのような点について留意すべきかについて触れてみたい。
「日本語から英語に、スペイン語に、ポルトガル語に」
筆者は、NPO法人イスパニカ文化経済交流協会で「東京をスペイン語で案内する」というプログラムを6年ほど前から行っている。その際に、日本語で行先を紹介する日本語ガイドをまず作成し、それをスペイン語に翻訳し、参加者に提供している。現在までに、浅草、上野、両国、お台場、深川、お茶の水・湯島、原宿・明治神宮、渋谷駅界隈の8つのスポットについて、ラテンアメリカ協会のホームページに日本語・スペイン語・ポルトガル語で紹介している。(https://latin-america.jp/archives/category/helpsを参照のこと)
「具体的に説明すると」
Deeple翻訳は、https://www.deepl.com/ja/translator にセットすると、すぐに、翻訳可能なページが出てくる。左には「言語を自動検出」という表示があり、日本語を含め30ほどの言語が現れる。右側にも「翻訳可能言語」として主要な30ほどの言語が出てくる。左側に翻訳したい日本語等を書き込み(ペーストし)と右側に翻訳したい言語を選択すれば瞬時にして翻訳文が出てくることになる。
もう少し具体例で説明すると、
「浅草寺は大変古く歴史のある寺院です。その起こりは西暦628年(推古天皇の時代)に浜成と竹成という兄弟の漁師が隅田川で小さな仏像(聖観世音菩薩像)を見つけ、村長の土師中知に報告し、祀ったことに始まります。」
という文章をDeeple翻訳で英語、スペイン語、ポルトガル語に転換すると、下記のような英語訳、スペイン語訳、ポルトガル語訳が出てくる。
「英語訳」
Senso-ji Temple is a very old and historic temple. Its origin dates back to 628 A.D. (during the reign of Emperor Suiko) when two fishermen, brothers Hamanari and Takenari, found a small Buddha image (a statue of the holy Kannon) in the Sumida River, reported it to the village chief Doji Nakachi, and enshrined it.
「スペイン語訳」
El templo Senso-ji es muy antiguo e histórico. Se remonta al año 628 d.C. (reinado del emperador Suiko), cuando dos pescadores, los hermanos Hamanari y Takenari, encontraron una pequeña estatua de Buda (el sagrado Kannon Bosatsu) en el río Sumida, informaron de ello al jefe de la aldea, Doji Nakachichi, y la consagraron.
「ポルトガル語訳」
O Templo Senso-ji é um templo muito antigo e histórico. Ele data de 628 d.C. (reinado do imperador Suiko), quando dois pescadores, os irmãos Hamanari e Takenari, encontraram uma pequena estátua de Buda (o sagrado Kannon Bosatsu) no rio Sumida, relataram o fato ao chefe do vilarejo, Doji Nakachichi, e a consagraram.
ここで注意しなければならない点がいくつかある。例えば、推古天皇は女性なのでEmperorやEmperadorではなくEmpressとかEmperatrizとかImperatrizになることである。この文章だけで推古天皇が男性か女性かがAIには判別できないからである。さらに、浜成と竹成はしっかり読んでくれたが、村長の名前の土師中知の読み方が間違っていることである。正確には土師中知(はじのなかとも)と読むが、AIでは勝手に判断し間違った名前を出してくるのである。したがって、わかりにくい名前は初めから、ひらがな表記にしておくことで間違いを回避することができる。
さらに菩薩は、サンスクリット語起源のBodhisattvaが英語でもスペイン語でも使用される。厳密には、菩薩は仏尊の最上位のランクは如来で、その次に菩薩が来る。菩薩は他の人々を助けて悟りの境地に導いてしまうまで仏となることを留め置かれている状態の仏予備軍であるが、外国人に詳細すぎる説明をしても話を混乱させることになる。
そこで、最終的に下記のスペイン語訳にしてみた。必ずしも文学的な表現ではないかもしれないが、意味は通じるものと思われる。
El Templo Senso-ji es muy antiguo e histórico. Data del año 628 d.C. (reinado de la Emperatriz Suiko), cuando dos pescadores, los hermanos Hamanari y Takenari, encontraron una pequeña estatua del dios Bodhisattva de la misercordia (Sho Kanzeon Bosatsu) en el río Sumida. Inmediatamente se lo avisaron a Hajino Nakatomo, jefe de la aldea y decidieron consagrarla.
それをさらにスペイン語からポルトガル語にすると下記のようになる。
O Templo Senso-ji é muito antigo e histórico. Ele data de 628 d.C. (reinado da Imperatriz Suiko), quando dois pescadores, os irmãos Hamanari e Takenari, encontraram uma pequena estátua do Bodhisattva deus da misericórdia (Sho Kanzeon Bosatsu) no rio Sumida. Eles imediatamente relataram o fato a Hajino Nakatomo, o chefe do vilarejo, e decidiram consagrá-la.
「いくつかの留意事項」
次に、日本語から多言語に翻訳する場合における翻訳アプリの活用方法につき、いくつかの注意事項を説明しよう。
- 通訳でも翻訳でも同様であるが、外国人にわかりやすい文章にすることである。日本語独特な言い回し、日本人しかわからないような表現などは極力避けるようにすることが大切である。
- 最大限10行程度に収め、長い場合は10行程度ずつ何回かに分けて行う。長すぎると短くするようにとの表示が出る。
- 1つの外国語、例えば、英語、スペイン語等西洋言語にしっかりした翻訳を完成するようにすることを心掛けたほうが良い。日本語から直接に、例えばスペイン語やポルトガル語に訳すより、英語からスペイン語、ポルトガル語に翻訳したほうがより精度の高い翻訳になるように思える。
- 英語でもスペイン語でも西洋語の文章があれば、ポルトガル語でもイタリア語でも、フランス語、ドイツ語でも簡単に翻訳できる。
- 語学の先生や文法等にうるさい人にとっては、翻訳アプリの存在は不愉快なものと思われるが、スペイン語、ポルトガル語等に見られるアクセントなどは正確に表現される。また出来上がった翻訳文をネーテイブに見てもらうとそれほどの修正がない。
「外国語から日本語に翻訳する場合」
次に外国語から日本語に訳する場合、左側に英語なりスペイン語にし、右側に日本語をセットする。筆者の場合、ラテンアメリカ協会用の原稿で各種ランキングのレポートを執筆している。その際、レポートのExecutive Summaryなどを一気に日本語訳にし、その中から重要なポイントを選び、要約することにしている。また協会の半年ごとの英文活動報告もdeeple翻訳アプリを活用させていただいている。
「まとめ」
翻訳アプリの活用のメリットを以下に列挙する。
- 無料であること。従来翻訳には時間とお金がかかったが、このアプリを利用すると無料になる。今後ますます利用者が増えるとともに翻訳の精度が高まることが考えられる。それゆえ、今後翻訳料金の値下げや翻訳者の失業に繋がることが予想される。
- 時間の大幅な節約につながる。翻訳文が瞬時に表示されることは驚きである。これにより、A4の5ページくらいの文章も20分から30分で終了することが可能となった。印象的には、従来翻訳に使用していたエネルギーを画期的に節約することに繋がる。
- 筆者は、周りの人に翻訳アプリのことを説明するが、意外に活用されていないような印象である。一度でも活用するとその便利さに驚かされること請け合いである。
- それでも、AIを100%信用してはならない。表示された翻訳文を見て、名前の間違い、意味が十分に通じるかどうか、表現が正しいかどうか等のチェックする必要がある。 以 上