執筆者:森田 剛 氏
株式会社MPJ代表取締役
2024年5月24日
昨今、日本においてはバイオ燃料の原料として廃食油(UCO=Used-Cooking-Oil)が話題となっています。しかし、世界的には穀物油、動物油脂も重要な地位を占めており、特に大豆はもっとも重要といえます。従って世界最大の大豆の生産国であるブラジルの状況を正しく理解することはバイオ燃料マーケットの展望をみる上で大切なポイントです。
ブラジルの大豆について述べる前に、食と燃料の共存について意見を述べたいと思います。食料になるものを燃料にすることは、貧困国の飢餓を助長し、良いことではないと言う人もいます。極端なことをしては問題ですが、バランスの取れた運用は必要と筆者は考えています。
歴史的に見れば1980年代の砂糖産業は、大変な苦しみを味わいました。従来、砂糖は唯一の安価な甘味でしたが、コーンシロップなどの普及により、販売が頭打ちとなり、世界中で大量の在庫を抱え、相場は暴落し、フィリピンの砂糖の島と言われたネグロス島は飢餓の島と呼ばれました。タイなども製糖会社の経営問題が発生しました。
ブラジルも同様でしたが、当時化石燃料に多額の外貨を使っていたこととあわせて、燃料エタノールの政策を開始、その後のブラジルの発展の基礎となりました。インドネシアに対してはパーム農園の拡大は熱帯雨林の伐採からきており、地球温暖化をもたらすとのEUからの批判も、ありますが、インドネシアからすると、かつて原油が暴騰した時代に、外国は何の助けも出してくれず、自国で守るしかない考えが根本にある様です。
食と燃料には、そのバランスを上手く保つ冷静な合理的判断が必要であると考えており、これを前提に本件を記載したいと思います。
また、日本は公約として2030年には170万KLのSAF(Sustainable-Aviation-Fuel)を打ち出していますが、合成燃料などの開発がなければ、バイオ燃料の原料が圧倒的に乏しい国と、ブラジルの様に世界最大の供給国との結びつきは十分に考慮すべきものと思います。
- ブラジルの150は発表時に非常に低めでありその後154と言われている。
- 世界の伸びの中心は南半球で、ブラジルである。
- 2022-23はアルゼンチンでの大干ばつがあった。
- 世界の生産は大幅に増加の予想で、中心はブラジル。
- 但し今後天候によっては2022-23のアルゼンチンのようなこともあり得る。
D 大豆、大豆油の消費国(中国の動き)
- 大豆としての最大の輸入国は中国で105-110である。
中国は大豆を輸入して自国で圧搾し約20%を大豆油として食料に使い、約80%は大豆ミールとして豚用などの高蛋白飼料として利用している。
豚コレラが発生した際は大豆ミールの需要が減り、必要な油はパーム油にシフトされた歴史がある。 - インドの場合は大豆油としてブラジルやアルゼンチンから輸入しており、輸入国の国内産業事情が異なっている。
- ブラジルも輸出用も含めた国内の畜産業が進むと国内用の大豆ミールが必要となってくる。
(下記E参照)
中国の場合は大豆ミールは、国内の養豚産業にとって欠かせないものである一方で米国との政治的な問題もあり、同国がブラジルに向かうのは自国の食の維持からしても当然と思われる動きである。
E ブラジルの大豆、大豆油の需給について
大豆油の主要輸出国はインドである。
大豆ミールは高蛋白飼料として輸出、国内用に向かうので、ブラジルの国内畜産業の発展も見逃せない。
F 穀物油の価格動向
USD per MT FOB 主要港
- これまではパーム油が一番経済的な食用油と言われてきたがFOBベースでは大豆油と拮抗している。
- 中国産UCOの米国への大量流入が提起されており、大統領選挙をにらんで、課税の噂があり、そうなると米国産の大豆油は国内用の燃料に向かう可能性がある。
そうなると、ブラジル産の重要性が増してくる。
G 最後に
ブラジルの大豆、大豆油、およびそれらを利用する国内産業の状況の把握は世界の食糧事情、バイオ燃料事情を知るうえで極めて重要です。今回はブラジルという国単位の数値で見てきましたが、本来は広大なブラジルという国でもあり、地域ごとに理解していく必要の状況を地域ごとに理解してゆく必要があろうかと考えます。
その観点からも日本ブラジル中央協会の持つ人脈やネットワークを通して得られる情報から見えてくるものもあり、有益かつ貴重なものであることを申し添えます。