会報『ブラジル特報』 2012年1月号掲載
エッセイ

                                         田中 裕一(在パラグアイ日本商工会議所副会頭)



 最初に一般的なブラジルの人は南米についてどのように考えているのか想像します。南米の豊かな主要部分は自国領で、残りはアンデスなど山地が多く余り豊かでは無い部分であり、そこにはスペイン語を話す小さな国が乱立している、その中でアルゼンチン、コロンビア、チリ等は自国の大きな州程度、パラグアイなど残りの国は小さな州程度の規模と考えていることでしょう。パラグアイに関しては「盗難された自動車が行く国」「密貿易と海賊版が横行する国」「マットグロッソの向こうに在る未開の国」など要するに余りまともな土地ではないと思っていることでしょう。
 一方、パラグアイの人は、自国について南米の中央で燦然と輝く太陽のような存在で、ブラジル等の他の南米諸国がそれを取り巻いている、古くはラプラタ地域の中心であり、アルゼンチンはパラグアイを分割して出来、ブエノスアイレスはアスンシオンから行って再興した。このように地理的、歴史的に見ればパラグアイこそが南米南部の中心的な存在であると考えているのだと思います。

 さて、パラグアイでブラジルに関して報道される内容を見ていますと、メルコスールそして両国国境に在るイタイプダムに関し、ブラジル政府に対して強い不満の論調が目立ちます。何事も自己中心で自国の利益ばかり追求し、自国の経済圏を広げて自国の商品を売ることばかり考えているのはけしからんという訳です。
 パラグアイ人にとってのブラジルとは隣接するパラナ州、海水浴に出掛けるサンタカタリーナ州、そしてサンパウロ市にほぼ限定されると思います。自動車をはじめ多くの工業製品はブラジルから入って来るので大国であることはよく理解しており、経済的な結び付きは強いものがあり、特に富裕層は、夏のバカンスはサンタカタリーナの海岸で過ごす人が多く、親近感があります。
 また、多くのブラジル人がパラグアイで生活しており、特にブラジルに近い東部ではその傾向が強いように見えます。パラグアイ第二の都市でブラジル、フォス・ド・イグアス市の向かいに在るエステ市の中心部は「南米の秋葉原」というような状況で、電化製品やコンピュータ機器が大量に販売されていますが、土地はパラグアイですが、店主、売り子、買物客すべてがブラジル人、ほとんどブラジルの通貨レアルで取り引きされています。ブラジルではエステ市については、密貿易や海賊版等が販売されるということでパラグアイを批判する意見もありますが、ブラジル人が売り、ブラジル人が買っている、パラグアイは土地を提供しているだけというのが実情です。

ブラジル人買い物客で賑わうエステ市 (筆者撮影)


 また国境に近い地域では、ブラジル人が土地を購入し大規模な農場を経営するケースが増えており、日常的にポルトガル語が使われる地区も多く存在します。ナショナリズムの観点からこれに反対する意見もありますが、生産量が上がり国の発展に寄与していると評価する人も多く居ます。ブラジルに対して悪い感情があるのかというと必ずしもそうでは無く、例えばワールドカップの際などは、ブラジルの試合の時には皆さんブラジルを応援し、アルゼンチンの試合の時には相手を応援するのとは対照的です。

 ほとんどの南米の国がブラジルと国境を接している中で、パラグアイはブラジル主要部に最も近い位置にあります。その割には余り知られていない、よく理解されていないという想いが強くあると思います。個人的にも独自の歴史と文化を有するパラグアイについて、ブラジルの皆さん、そしてブラジルファンの日本の皆さんにももっと知って欲しいと願っています。相互理解がより進めばパートナーとして両国がさらに発展して行くことでしょう。