会報『ブラジル特報』 2012年1月号掲載
日系企業シリーズ 第16回

                                         表 孝至(マキタブラジル社長)



マキタブラジル社は1981年にサンパウロ州ジアデマ市に工場を開設。当初は30人の従業員で小規模な生産販売を行ってきました。輸入が制限される中、輸出義務を負う代わりに輸入枠を獲得できる BEFIEX制度を利用し、混乱の80年代を乗り切ってきました。1990年にはサンベルナルド市に工場を新設しました。竣工式を実施する1週間前にご存知のコーロルプラン(インフレ撲滅のショック政策で預金封鎖が柱)が発表され、竣工式の計画を急遽変更せざるをえなくなりました。まさしくブラジルの混乱の中で生まれた工場ともいえます。

ポンンタグロッサ新工場(パラナ州)

 マキタは電動工具を製造販売しています。日本では、主に大工さんが使用される電気マルノコ、電気カンナのイメージが強いですが、ブラジルでは、大理石、御影石、コンクリートを切断する電動カッタ—が代表的な商品です。このカッターは、軽量、コンパクトで使いやすいことが評判で、ブラジルでカミソリのことをGilleteと総称するように、カッターのことをマキタと呼ばれるようになりました。競合メーカーにボッシュがいますが、ボッシュのカッタ—も市場ではボッシュのマキタと呼ばれ、ボッシュはいつも文句をいっています。
 
 インフレのため厳しい時代が続きましたが、電動工具は自動車と同じで壊れたら修理して長年使用します。またブラジルでは修理手間賃も安いこともあって、欧米より修理して使い続ける傾向が強いです。そのため、インフレで市場が拡大しなくても、設立以来、アフターサービスには注力し、現在では、ブラジル全土に600の契約修理店、6つの直営サービス店によるサービス網を構築しています。マーケティング用語で使われますが、ドリルを売るには穴を売れ、つまり客にとっては穴を壁に開けることが価値です。そのため、当社の営業マンは、販売店のみではなく、ユーザーの現場までいき、機械をデモし、ユーザーの価値(穴)を提供するといった現場密着営業を進めています。

 また、ブラジルではいまだ手作業が多いのが現状です。しかし、洗濯板を使用していたお手伝いさんが洗濯機を一度使用したら、二度と洗濯板を使用したくないのと同じで、作業者が一度楽な当社の電動ハンマーを知ったら、手ハンマーは使用したくなくなります。また最近は購買力もあがり、政府のマイホーム政策もあり、手工具作業から電動工具作業にシフトする職人が増加中で、電動工具のマーケットは拡大基調にあります。
 2009年は、販売上昇にともなう生産キャパシティ拡大のため、サンベルナルドの工場をクローズし、パラナ州ポンタグロッサ市に新たな工場を新設、稼動させました。サンベルナルドの工場閉鎖の苦労は非常に大変で、同様の経験があるブラジル日本商工会議所の平田事務局長にはいろいろアドバイスを受け、非常に助かりました。
 新工場では、カッター等の電動工具だけではなく、エンジン製品の生産も開始し、ブラジルのコーヒー豆収穫用のポータブル機械を投入するなど、市場にマッチした製品を開発、生産、販売しています。

ブラジルカラーの新製品

最後に、ブラジルで2014年ブラジルサッカーワールドカップもあることから-代表チームのブラジルカラーである緑、黄色を使った製品を発売し、現在大ヒットしています。現場に密着してその地域にあったものを素早く市場に投入、そして販売店との信頼関係を強め、アフターサービス、デリバリー、販促、在庫サポ—ト等の細かなサポートを徹底してやっています。この徹底こそが当社の強みであり、これをますます成長をつづけるブラジル全土に拡大、浸透させたいと思っています。