サルバドール風景大西洋に面した港町サルヴァドールは、300年にわたって続いた奴隷制度による黒人たちのブラジルへの到着港でもあった。
そのためアフロ文化色の強い街として知られている。アフリカの各地で信仰された様々な神様が、サルヴァドールでひとつの宗教として形成され、カンドンブレという宗教ができた。儀式で演奏されるパーカッションのリズムは、一見単調だが、実は奥深く、現代のブラジル音楽に多大な影響を与えている。

街角で女性が、お豆をすりつぶして揚げたアカラジェというスナック菓子を売っている風景を目にする。これは、もともとはカンドンブレの数々の神様のうちのイァンサンと呼ばれる神様に捧げる神聖なるお供
え物でもある。サルヴァドールで行われる大きなお祭りに、ボンフィン祭りとイエマンジャ祭りがあるが、これもカンドンブレの神様をまつるためのお祭りで、カンドンブレ自体が、この街の一つの文化遺産としてみなされている。庶民地区には、カンドンブレ祈祷所がいくつも存在する。私の知人にもカンドンブレの信者がいるので、儀式の見学に行く事もある。パーカッションが演奏され始めると、祭司や助祭たちが輪になって時計とは反対周りで延々と踊り始める。
サルバドール そのうち神様がそれぞれの女性達の体内にやどり、彼女達はトランス状態に陥る。友人でお酒もタバコも大嫌いな女性がいるが、彼女にカボクロという神様がやどると、ビール瓶をかかげてゴクゴク飲みほし、葉巻をプカプカと吸い出す。科学や理論では説明できない出来事が目の前で起こると、信仰儀式というより、スピリチュアル的なものを感じさせてくれる。ブラジルの中でも特殊な文化要素のある街サルヴァドールは、実に奥が深いミステリアスな街なのである。

北村欧介
(写真家、サルヴァドール在住 23 年)