城間クリスチーナさゆりさんは、在日ブラジル人三世で、ブラジル国籍を持つ。しかし、日本で育ち、日本の学校に行ったため、ポルトガル語があまりできなかった。そこで、ポルトガル語の研修のために、「ブラジル日本交流協会」(通称ブラニチ)の研修生に応募し、アルモニア学園(サンパウロ州サンベルナルド市、当協会が応援している「日伯教育機構」の加盟校)で一年間研修を行った。ここに紹介するのは、城間クリスチーナさゆりさんの研修レポートの一部である。「日本化したブラジル人」の率直なブラジル観が綴られている。

 

〔日本とブラジルの教育、生活の違いについて〕

同じ6歳児でも、一人でトイレに行けない、靴紐も結べない、文字が読めない。大人が必要以上に手を差し伸べてしまう姿を見て、日本の子供たちの自立がいかに早いかを知る。アルモニアの子供たちは中流階級以上の生活をしている分、身の回りには物が溢れていて、その扱いが粗雑なのが目についた。

例えば…トイレの手拭きペーパーを必要以上に取って、少し拭いて捨てる。水の出しっぱなし。食べ残し。好きなものだけを食べる。筆記用具の扱い方…。一方で学校にも通えず、食事も満足にとれない子供たちがどれほどいるか。

 

〔ファッションの多様性〕

ブラジル人女性のファッションの豊かさ、太っていても短パンを堂々と穿いている潔さが日本人にはなくて羨ましい。日本だったら隠していた太ももをブラジルにいれば気にせずに晒せる。タンクトップに短パンで当たり前のように歩けるこの国が好きだ。私は私のままでいいのだと、思わせてくれる。

 

〔Sacoma(サコマン)駅でひったくりを見る〕

ここでは、誰も信用してはいけない。自分の身は自分で守らなければならない。誰も助けてくれないのだから。ブラジル人は明るく陽気で優しい。けれど、そういった危険な一面も潜んでいることを忘れてはいけないと思った。

 

〔『常識』とか『フツウ』ということ〕

日本人の『常識』とか『フツウ』は、ブラジル人の『フツウ』ではない。

ブラジルに住んでいる日本人は口を揃えて「ブラジルがいい」という。

「自分がどう生きていきたいか」。その目的のためにはどの国が私にとって生きやすいのか。日本ではありえないことばかり起こる、それがこの国の醍醐味なのか…?

 

〔弓場農場〕

ブラジルにいながら日本の生活をし、日本語を話すことで文化を継承する。弓場の子どもは、ブラジル文化も日本文化も併せ持つ。しかしながら、弓場は弓場独自の文化を築いているという印象。もはや一つの村だ。日本語の言葉遣いがストレートだ。根本はブラジル人だから、日本語に直すと、かなり言葉がきつい。

最近女の子を産んで産休に入っている方が「でも今度は男の子だよね」と一言。そうやってどんどん世代交代をしていくのだろう。弓場の中だけで生きていける囲われた場所だと思った。

 

〔リオ・デ・ジャネイロ〕

リオ全体が陽気な雰囲気。芸術がたくさんあり、テアトロもある。おしゃれな街で、とても居心地が良い。サンパウロと全く雰囲気が違うので、同じ国なのに面白い。

サンパウロのパウリスタと比べると、全体的にゆっくりとしている。女性のファッションがとてもカラフル。リオには日系人が〝激レア〟らしく、街ゆく人に不思議そうな顔で見られたり、声をかけられたりした。

 

〔アニメフェスティバル〕

友達が「みんなあなたたちの文化が好きで日本語を勉強したりしているのよ」と言ってくれて、胸がいっぱいになった。アニメでブラジル人と繋がれることは私の幸せだ。キャラクターの名前で呼び合うのもアニメイベントならではで面白かった。

 

〔ブラジル人は本当によくしゃべる〕

ブラジル人は一人が喋っていても、気にせずに自分一人で喋り通す。しまいには、お互いが好きなことを言い合って結局お互い聞いていない。

 

〔高校での演劇披露〕

本番直前までバタバタとしていて本当に大丈夫だろうかと心配だったが、舞台袖で「Boa sorte(頑張って)」と言い合い、肩を抱き合う素敵な瞬間があり、本番!さすがブラジル人、決めてくれる。大きなミスもなく、みんな堂々やりきって本当に素晴らしかった。あの空間、あの雰囲気は日本では作れないだろう。

周りを見る余裕、アドリブを繰り出す余裕、ブラジル人のポテンシャルの高さをまざまざと感じた。一つの作品をみんなで作る、この一体感こそが演劇の醍醐味である。

最初は高校生の中に馴染めるかどうかを気にしがちだったが、みんな優しく、頼もしかった。本当に素晴らしい経験が出来て、本当に、本当に、良かった。

終わった後、FaceBookにみんなへメッセージを書くと、それぞれから私へのメッセージが送られてきて、その優しさに色々な感情が押し寄せてきて、しばらく泣いた。こんな温かかくて、優しくて、愛に溢れている人たちを私は他に知らない。たくさんの発見があった舞台だった。

 

〔感想とまとめ〕

いろんな国にルーツがある人々が集まる国、ブラジル。見た目が違うことなんて当たり前。誰も気にしない。ファッションも生き方も、それぞれ自分が選んで、楽しんで生きている。私が私のままでいいのだと、思わせてくれる暖かさ。

全部をひっくるめて愛に溢れている。子どもたちを見ていても、本当に様々な子がいる。

頭が良い、悪い、足が遅い、速い、背が高い、低い…。それでもそれぞれがお互いを受け入れて生きている。

日本で育ち、生きていた自分には、この自由さがとても居心地が良い。どうして日本はこうも生きづらいのだろう?他人の目を気にして、気を遣って、疲れてしまう。ずっと持っていた違和感。うまく生きられない自分は社会不適合者なのだろうか、とも考えた。ブラジルの懐は深い。だから私には生きやすい。

日本に帰ってから、ブラジルで感じたこと、学んだことをどれだけ守れるか。私は私のままでいい、そのままで生きていく。みんな違って、みんないい。

それは日本では難しいことだ。けれど貫きたい。人生を生きること、の根本をブラジルに来て知った。それは間違いなく、周りの人のお蔭。沢山の愛情や喜びに包まれて、気づくことはたくさんあった。本当に感謝しても、しきれない。

ブラジルの多様性、それはこの一年で言葉にすることはとてもむずかしい。なぜなら、ブラジルは広いから。まだまだ知らないブラジルの顔がきっとたくさんあるのだろう。これからの人生でそれをじっくりと知っていきたい。

城間クリスチーナさゆり
(1992年3月30日生まれ、2012年短大卒、2013年俳協ボイスアクターズスタジオ卒)