10月28日付け「ヴァロール・エコノミコ」紙は、ペトロブラス凋落の経緯と現況について報じているところ、概要以下のとおり。

 

1.昨今のペトロブラス汚職疑惑捜査によって、ルーラ政権時(注:2003年~2010年の8年間)、同社の重要な決定は全てルーラ大統領自身が行い、政府は同社を利用して、政党に資金が入るような仕組みを構築していたことが明らかになった。

 

2.その過程で、国内にはドリルシップや製油所を建造する技術や人員が不足していたにも関わらず、政府はペトロブラスを特別に優遇した。その方法は、国産化比率の設定、成長加速計画(PAC)の利用の他、個人が、通常であれば住宅購入時ないしは退職時しか受け取ることの出来ない勤続年限保障基金(FGTS。*注1)を使ってペトロブラスの株式を購入出来る制度を設けたこと等であった。

*注1:FGTS-1966年に設立された退職金積立制度。雇用主が被雇用者の給料(残業代等も含む)の8%を支払う。被雇用者の支払いはなし。

 

3.その結果、ペトロブラス株は一時、時価総額が3,000億ドル近くに達し、石油企業の中で世界第4位、全企業の中で世界第8位となるに至った。

 

4.政府はドリルシップを国内で建造する為、大手ゼネコンに声をかけて5カ所の造船所を建設することを決めた。また、プレサル油田開発に必要なドリルシップの建造発注を受ける為、セッチ・ブラジル社が設立され、ペトロブラスから受注したドリルシップの建造を各造船所に振り分けた。

 

5.ドリルシップの建造コストは、外国に発注されていれば、1隻当たり約5億ドルのところ、国内では、最大で8億2,000万ドル(融資の金利を入れれば、10億ドル)もかかった。

 

6.しかし、それでも政府がドリルシップの国内建造にこだわった理由は、直接・間接合わせて計80万件の雇用が生まれると予測されたからであった。その為、ペトロブラスは多大なコストを払うことになった。

 

7.ペトロブラス汚職疑惑捜査で更に明らかになったことは、同社のガバナンスが全く機能していなかったことであった。政党から派遣された役員は腐敗しており、それ以外の役員は怠慢であった。主な決定事項は全て政府に決められており、役員はゼネコンと契約を結ぶ度に賄賂を受け取っていた為、契約金額は増加の一途を辿った。そして、役員が受け取る賄賂は給料を凌ぐようになり、コスト削減をしたり、プロジェクトを適切な規模とするようなインセンティブが生まれる余地はなかった。

 

8.また、役員会で決定されたことは、大した議論も行われず、経営審議会で承認された。

 

9.ペトロブラスの投資額は2013年まで大幅な伸びを見せたものの、生産中の油井の整備を軽視したこと等から、生産量はさして増加しなかった。

 

10.消息筋によると、投資リターンを求める姿勢が欠如していたことが、汚職がこれほどの規模に膨れ上がった原因である。

 

11.2020年における国内原油・天然ガス液生産量見通しは、マリア・フォステル総裁時(2012年2月~2015年2月)の日量420万バレルより、現在は280万バレルにまで落ちている。

 

12.なお、ペトロブラスは2カ所の大規模製油所を建設する計画であったが、両方とも、工費が予算を大幅に上回ったあげく、第2フェーズの建設は現在停止されている。

 

13.ペトロブラスは現在1,340億ドルの総債務額を抱えると言われる。原油価格も、プレサル油田の採算ラインの1バレル当たり45ドル近くに下落している。また、レアル安が進み、現在1ドルが4レアル近い。

 

14.以上の結果、ペトロブラスの株は、ニューヨーク証券取引所では、1株5ドル以下の「ペニーストック(ペニー株)」と呼ばれるまでに下落し、同社の時価総額は、現在、全盛期の約十分の一の300億ドルに過ぎない。