講 師: ペドロ・エルベル(エルバー)コーネル大学准教授
演 題:「ブラジル」を教えること

1.コテンポラリーの出現
ペドロ・エルベル(コーネル大学准教授)

ペドロ・エルベル(コーネル大学准教授)

まず初めに、今年7月から8月にかけてリオ・オリンピック期間中開催された展示会

「コンテンポラリーの出現 日本の前衛美術1950-1970」についてお話したい。私がキューレーターを務めたが、事前の準備期間は2年以上もかけた、自分にとっては“渾身の展示会”であったからだ。ブラジル側の財政補助が得られなかったものの、国際協力基金の全面援助があって行うことができた。ちなみに観客動員数は3万6千人だった。

このなかで観客に伝えたかったことは、1964年の東京オリンピックに対して当時の作家やアーティストが、賛成なり反対なりのパーフォーマンス(当時はこんな言い方はなかったので、アクション、というべきか)をどう展開したか、これを当時のコンテクストにおいてどんな意味があったか、を、リオ・オリンピックを迎えたブラジル人観客に提示したかった。さらには、現代ブラジルのアーティストたちに東京の経験を伝えることも自分の使命と思ったからだ。

私が特に注目したのが、赤瀬川原平率いる「ハイレッド・センター」が展開したパロディ・パーフォーマンスだったが、これをリオに移し替えて、リオのアーティストによる“新作”をやったのが、この展示会の“目玉”だった。

 

2.遊戯の政治

私が大学学部(リオ連邦大学)からドイツ留学をへて修士課程(PUCカトリック大学)で専攻したのは、ドイツ哲学とりわけハイデッガーであったが、彼の哲学における政治と真理の相関性を研究する過程で日本の京都学派(西田幾多郎、田辺元ら)に出会い、ここから日本をはじめとするアジア文化・思想研究も行うようになり、酒井直樹先生(コーネル大学教授、哲学史学者)の指導下で博士論文を書いた。ハイデッガーにとっても政治と真理をつなぐファンクションを有したのがアートであったので、現代アート研究にも注力するようになった。

大学では、英語、スペイン語、ポルトガル語をつかってラテンアメリカ思想史、文学、美術史などを教えているが、ブラジルの作家をサンプルにいくつかみておきたい。

まず、ブラジル最大の文豪マシャード・デ・アシスが1892年(奴隷制廃止の4年後)に書いたクロニカ(日替わりエッセイ)から。奴隷だった者が主人の邸宅へ向かう時に感じる義務感への反発から、文芸批評家アントニオ・カンディードが社会学的に解明した「マランドロ(悪党的に要領のいい男)」概念につながってくる、と読んでいく。

マリオ・デ・アンドラーデの名作『マクナイーマ』の書き出し、「アーイ、なんてめんどくさいんだ」の意味。6歳になって突然話し出した主人公が最初に発したコトバが、これだった。面倒な仕事をしたくない、ブラジル性を代表するキャラだが、数多くのブラジル文学作品のなかで奴隷を直截的に描いた作品が何故少ないか、の説明につながってくる。

日本では文部省が人文科学不要論を持ち出し、大いに議論されているが、実は米国の大学(コーネルも)でも不要論がいわれており、この人文科学の危機(不要論)は、日本でも米国でもブラジルでも同様であり、私はこれへの反論のためにもブラジル思想史研究が有用だとも考えている。

rec20161221_02 グローバリゼーションによって経済的所得の格差が拡大している、というが、実は、多人種多民族国家で、一国に世界の矛盾が集約されているようなブラジルが一国で、それを象徴的に具現している、従って、“Globalization is then Brazilianization”となる、と考える学者(例えば、社会学者トーマス・ラルソン)が増えてきている。

技術革新によってIT=機械が人の仕事を奪い、flexibilization of work という労働の非正規化が起きているが、これは18世紀末のドイツ詩人シラーが予言していたと私は考えている。

こんな私のブラジル関連授業を受講する学生(学部)の数は、ブラジル経済が調子よかった数年前は50~60人だったが、政治も経済も低迷する最近は、20名ほどに減ってきている、これも現実である。

日  時
2016年12月21日(水)
14:00-15:30 (13:30受付開始)
会  場 IDB米州開発銀行アジア事務所会議室(内幸町富国生命ビル16階)

アクセスマップ
都営地下鉄三田線「内幸町」駅 A6出口・・直結
JR山手線・京浜東北線・東海道本線「新橋」駅 日比谷口・・徒歩6分
東京メトロ千代田線・日比谷線「霞ヶ関」駅 C4出口・・徒歩3分
東京メトロ丸ノ内線「霞ヶ関」駅 B2出口・・徒歩5分

使用言語 日本語
会  費 【会 員】1,000円
【非会員】一般 1,500円、 学生 500円
お問合せ 日本ブラジル中央協会 事務局 宮田・上条
E-mail:info@nipo-brasil.org