演題:「駐日大使としての5年を振り返る(最近のブラジル情勢など)」
講師:アンドレ・コヘア・ド・ラーゴ駐日ブラジル大使

 

アンドレ・コヘア・ド・ラーゴ氏(駐日ブラジル大使)

はじめに、昨日(11月1日)天皇皇后両陛下に離任の挨拶に伺ったところからお話したい。私は、在伯の日本人・日系人がブラジル社会に貢献してきたように、在日のブラジル人も日本社会に貢献するべきだろうと考えているが、陛下より、「日本移民の人たちをブラジル社会が温かく受け入れてくれたことに心から感謝しています」とのお言葉を頂戴し感服した次第だ。

 

ブラジルの外交、日伯関係

ブラジル外交は、「平和を追求する」のが基本方針である。ブラジルは10か国と隣接しているが、どの国とも国境問題はない。これが平和外交の何よりも証左といえる。

外交には「国家としての政策」、「政府の政策」のほかに、新しい自主的外交もある、と考えるが、日本―ブラジル両国関係に関しては、既に友好関係が構築されており、この良好な関係をさらに強化することが私の任務だと思っていた。今年21回を迎えた日伯経済合同委員会、あるいは賢人会議が継続して開催されたこと、2014年の安倍首相訪伯によってグローバル・パートナーシップ関係が深まったこと、ルセフ元大統領は二回も訪日をキャンセルしたが、テメル大統領は2016年訪日したこと、などを指摘しておきたい。

また、平和外交の“武器”は、核兵器を持たない、ソフトパワーであることを改めて強調したい。

 

ここ数年のブラジル政経事情

2013年以降、大規模な反政府運動が広範化し政治が不安定化し、経済も低迷が続き、さらにはラヴァジャットに象徴される巨額の汚職の蔓延、と、三つの危機、すなわち、政治的危機、経済的危機、モラルの危機がブラジルを覆い尽くした。

そんな状況下でも、二つのビッグイベント、サッカーW杯(2014年)とオリンピック・パラリンピック(2016年)が無事開催され、ブラジルの対応能力が再確認されたことは、ポジティブに評価できる。また、汚職の摘発には検察当局が活躍し、数多くの政治家・企業家ら容疑者が有罪となっており、ブラジルの司法はきちんと機能している。

すなわち、三権(行政、立法、司法)の諸機関はいずれも正常に機能している、と強調しておきたい。

 

クールなブラジル文化の普及

ブラジルを訪問した外国人の多くが、一番気に入ったものといえば、ホテルで供される朝食(ポルトガル語で「朝のコーヒー」)だ。というわけで、大使館でも何回か朝食会を開いたが、帝国ホテルでは常時ブラジル式朝食が供されている。皆さんご存知の、パン・デ・ケイジョや多様なフルーツ類もあってお薦めです。

あるいは、CCBJ(在日ブラジル商工会議所)の財政的サポートのおかげで大使館地下のパブリックスペースが大幅に拡がり、ここで文化イベント、展示会、写真展、映画上映会、ライブ音楽会などを開催してきたが、こうしたブラジル文化の多様な素顔を日本の多くの方々に知っていただく試みは今後も続けたい。

 

10月の大統領選挙について

今回当選したボルソナーロ氏は、弱小政党所属だったため、TV政見放送時間も僅か、企業からの政治献金もなし、という、これまでの選挙常識からすれば、全く不利な条件にも拘わらず勝利した。これは既存政治へ有権者が“ノー”を突き付けたのであり、イデオロギーの立場が左か右か、という議論では理解できない現象だ。PT(労働者党)政治への“ノー”という点では、ミナス州から上院選に出馬したルセフ元大統領が最下位で落選したことからも明らかだ。

何故このような結果になったのか、正直私にも理解しかねるところであるが、まず、背景に三つのクライシス(危機)があることを改めて指摘しておきたい。①政治の危機、②経済危機、③倫理(モラル)危機、の三つだ。こうした危機から脱する可能性に有権者がかけたというところだろう。

新政権がどうなるか、予想は難しいが、現時点で閣僚入りが確定している二人のスーパー大臣については、客観的に評価できるとみている。財務省+企画省+商工省の三省を統合して新たに成立する経済省のトップにはゲディス教授というベテラン経済学者がなるが、彼は経済のプロだ。また、法務大臣には、ラヴァジャット作戦を主導したモロ判事が就任することが確定した。先に述べた三つの危機への対応人事としては適材適所といえる。お二人とも客観的なポテンシャリティを有する人材である。

3年連続でマイナス成長だった経済もテメル政権によって回復基調になってきており、この傾向は新政権になっても維持されるだろう。この点に関しては私は楽観主義者だ。

但し、私自身も深く関与してきた環境問題は、新政権にとっては優先事項とはなっておらず、この点は懸念される。

日 時 2018年11月2日(金) 10:30-12:30(10:00受付開始)
会 場 国際協力銀行 9階講堂

〒100-8144 東京都千代田区大手町1-4-1 アクセスマップ

  • 竹橋駅から・・・東京メトロ東西線 竹橋駅下車(大手町寄り) 3b出口直結
  • 大手町駅から・・・東京メトロ・都営地下鉄 大手町駅(千代田線、半蔵門線、丸の内線、都営三田線) C2b出口を出て、皇居方面へ。内堀通りを右折。気象庁前交差点左手前方。(徒歩5分)
  • 神保町駅から・・・東京メトロ・東京都営地下鉄神保町駅 A7もしくはA9出口を出て、白山通りを皇居方面へ。平川門の交差点を左折(丸紅本社ビル隣)。(徒歩5分)

参加費 無料
定 員 160名
(定員となり次第、締め切りますので、お早めにお申し込み下さい。)
使用言語 ポルトガル語 (日本語への逐次通訳付き)
主 催 日本ブラジル中央協会
ブラジル大使館、在日ブラジル商工会議所、海外投融資情報財団