講 師: Eduardo Paes Saboia 駐日ブラジル特命全権大使
演 題: ブラジル経済見通しとその投資機会

 

エドゥアルド・サボイア駐日ブラジル大使

1.マクロ経済地理

人口2億1千万は世界第5位、国土面積の広さも世界5位、経済(GDP)規模は世界8位(註:9位)であり、特に農業大国(USA、EUに次いで世界3位)と再生可能エネルギー大国(風力・水力・太陽光など再生可能エネルギーが全発電量の82%を占めており、世界平均24%を大きく上回る)を強調したい。

 

2.現代ブラジル政治経済の基本点
  1. 民主主義の定着
    1985年の民政復帰、1988年憲法によって民主主義のベースが確立され、名実ともに法治国家となり、この民主化は制度的にも確固たるものに進歩した。
  2. マクロ経済の安定
    1994年のレアルプランによる通貨安定、超インフレ体制克服。財政責任法や政府歳出キャップ(上限)法(2017年から20年間歳出上限を設定)などによってマクロ経済の安定が確立。
  3. 社会政策は急務
    社会的不平等は社会政策によって是正されてきた。現在のブラジルの中産階層人口はドイツの人口と同じである。経済的に貧しい層に対しては更なる社会政策が必要だ。
  4. 包括的なマクロ経済改革
    経済活性化による所得拡大、雇用増大を目的とする経済改革に取り組んでいる。

 

3.(成立した)重要法案・案件
  1. 経済的自由法
    企業設立手続きの簡易化、中小企業の場合は事前ライセンス不要に
  2. 年金改革法
    10月国会で承認された。
    従来の年金システムから持続可能な新システムへ。受給年齢の引き上げ(男性65歳から、女性62歳から)などの年金改革により10年間で22兆円程度の節減効果、現在GDP比で79%にもなっている公的債務が削減される。
  3. 民営化、コンセッション
    公営企業の民営化を迅速化(10月までに962件、金額にして2.5兆円を調達)、港湾や空港などインフラ関連や石油関連のコンセッション(入札)は積極的に実行されてきた。とはいえまだ公営会社は637社もある。

 

4.マクロ経済指標
  1. カントリーリスク指数
    117ポイントと1年前と比べ40%も下がった
  2. インフレ過去12か月で2.89%
  3. 基準政策金利
    SELICは現在5%、2016年時点の14.25%を思えば、正常化した
  4. GDP成長率
    今年の予想はプラス0.9%
  5. 失業率
    11.8%だが、低下中
  6. 経常収支
    経常収支赤字はGDPの2%以内
  7. 外資の直接投資
    過去12ヶ月で720億ドル
  8. 外貨準備高
    3600億ドル

 

5.今後のアジェンダ

11月5日、大統領は「行政改革と財政改革を含む憲法補完法案(PEC)」を国会に提出した。この三本柱は、①連邦政府機構改革(公共財政の健全化を推進)、②財政緊急事態対応(財政緊急事態の場合、公務員の労働時間と給与の25%をカット)、③公的ファンド関連であり、一貫性のある経済政策を継続している。
ポイントは、行政改革(能力主義に切替え、国民への公的サービスの質的向上を進める)と税制改革(複雑な税制を簡素化、いくつもの税を一つの連邦付加価値税にまとめる案)

 

6.市場開放

現政権は、貿易の拡大(GDPに占める貿易のシェア21%を30%へ)を目指し、手を打ってきている。まずはメルコスルとEU間のFTA妥結。引き続き、韓国、カナダ、シンガポールとのFTA交渉中。またブラジルのOECD加盟にあたっては日本のサポートがあった。

 

7.日伯関係

ブラジルの開放経済に日本がもっと参加してほしい。ブラジルへの直接投資額では日本は6番目だが、世界最大級の投資国である日本なのだから、もっと投資してほしい。ブラジル農業は日本の農業を脅かすことはないのだから、更に農産品を輸入していただきたい。この関係はウィン・ウィンなのだ。また既存の進出企業によるネットワークを生かせるし、二重課税を回避する協定もあり、ブラジルへの投資機会は広がるはずだ。

経済面ばかりかヒューマンな関係も極めて重要だ。ブラジルには200万人もの日系社会が、そして日本には20万人ものブラジル人社会が存在している、こうした人間の絆は一層深まっている。日本におけるブラジル人社会は来年30周年を迎えるので、大使館としても何か行動を起こしたいと考えている。

 

8.環境問題・アマゾン火災

確かに森林火災はあったが、軍隊を派遣して対応しており、全体的に見て環境政策に大きな変更はない。

 

講演要旨担当のメモ:

昨年11月の前コヘア大使最終講演の要旨は、①政治の危機、②経済危機、③倫理(モラル)危機、の三つが現在のブラジルの抱える問題で、こうした危機から脱する可能性に有権者がかけてボルソナーロ大統領が選出された、3年連続でマイナス成長だった経済もテメル政権によって回復基調になってきており、この傾向は新政権になっても維持されるだろう、この点に関しては私は楽観主義者だ、但し、私自身も深く関与してきた環境問題は、新政権にとっては優先事項とはなっておらず、この点は懸念される、というものであった。この前大使と現大使の見解の違いを再認識しておきたい。

 

 

日 時 2019年11月7日(木)
16:00~17:30
(受付開始 15:30)
会 場 Crosscoop (新橋/内幸町)

住所:東京都港区新橋1-1-13 アーバンネット内幸町ビル3F
https://crosscoop.com/office/shimbashi/access

※当協会事務所の向かい側に建てられた新築ビルであるアーバンネット内幸町ビルの3階です

 参加費 個人会員1,000円, 法人会員 2,000円, 非会員 3,000円
※会費は当日会場にて申し受けます。領収書もご用意します。