講師: 星野芳隆 前リオデジャネイロ総領事 (現JETRO理事)
演題: リオデジャネイロから見たブラジル
ブラジルに赴任した頃を振り返って
本年9月末に2年4カ月の任務を終えてリオから帰国。それ以前、2014年9月の大統領選挙戦の真最中にブラジリアに赴任し2年8ヵ月勤務。その大統領選で再選されたルセフ大統領はその後、弾劾で失脚。一方、2018年の大統領選では、決戦まで行っても当選はまずないという見方が大半だったボルソナーロが当選した。このように、ブラジルは、アマチュア向きではない、何が起こるか分からない国。
ブラジルを表す言葉(ブラジル自身がつくった)
- Belindia
一部の豊かなベルギーと大部分の貧しいインド(1974年に造語) - Ingana
英国レベルの徴税とガーナの公共サービス(軍政時代に造語) - Rusmaia
- エリート層のロシア・レベルの腐敗とグアテマラの都市治安
格差について
- ジニ係数: 日本 0.339 リオ 0.6391 ブラジル全体 0.6086
リオとブラジル全体とで大差はないが、この数字からリオの実態はあまり伺えない
ブラジルの予算
年金の支払いと公務員の給料がブラジルの予算の68.9%を占める(年金支払46.1%、公務員給与 22.8%)→年金改革の必要性があった。
リオの予算構造
- 税収60%、プレソルト油田のロイヤリティ12%。恵まれた歳入構造になっている
- 支出は連邦政府よりも硬直的。70.4%が人件費と社会保障費、27.6%が債務・金利の支払い
→政策経費が全くない。
経済緊急措置
連邦政府による財政再建計画 ←2016年に破綻宣言、2018年に連邦政府とようやく方向性が妥結
- 連邦政府に対する債務支払い猶予(2020年までの3年間)
- リオ州上下水道公(CEDAE)民営化
- 企業に対する税制優遇措置の見直
リオ州の汚職
「リオと言えば汚職、汚職と言えばリオ」
- 現知事の前に選挙で選ばれた4知事はすべて汚職で逮捕。一部は刑務所から出て自宅軟禁となっているが、カブラル元知事は130年の実刑判決を受け刑務所にて収監されている。その他、リオ州議会議長、リオ州会計検査院の理事長、副理事長ら5名も汚職にて逮捕されている。
- システムとして汚職が蔓延しているのが実態だが、一方で、昔は、高官の汚職は摘発されなかったが、現在は摘発され逮捕もされるようになった。この点を肯定的にとらえる向きも
リオ州の犯罪
- スマホは簡単に換金できるので2018年の携帯電話強盗は2014年に比べ3倍以上に増加。 リオでスマホを見ていたり時計を身につけているのは外国人だけ
- 殺人事件(人口10万人当たりの発生率)は日本の31.9倍、強盗は日本の1333倍。
- 在任中には日本人の重傷被害はなかった。軽傷被害はあったが、ほとんどが観光客。
- 殺人事件の9割はファベーラで起きる。
ファベーラ
- ファヴェーラは、美しいビーチなど観光スポットのすぐ隣に存在。公共サービスは全くない。
- 麻薬組織と警察との銃撃戦は日常的に起こっているが、子供が流れ弾の犠牲者になった場合はTV報道されるが大人の場合はされない。
- 200万人がファベーラに居住
- ファベーラによる”侵食”が至るところで起きている
- ファベーラは公権力がほとんど及ばない
- 以前は麻薬組織が支配者であったが今は「民兵」が支配者。元々民兵は麻薬組織に対する自警組織だったが、今は直接、麻薬に関与し地元の警察ともつながっている麻薬組織になっている。従い、警察など公権力は入れない。
リオの麻薬組織
- コマンド・ベルメーリョ、アミーゴ・ドス・アミーゴス、テルセイロ・コマンド・プロの三大組織のが領域拡大をめぐって抗争。加えて、ミリシア(民兵組織)も支配領域を拡大。
- サンパウロ州ではブラジル最大の麻薬カルテルの首都第一コマンド(PCC)が全土を掌握しているので麻薬抗争はない。
リオ州の経済
- リオ州のGDPは全国第2位。ブラジル全体GDPの10%。
- 南東部に経済が集中。
GDP成長率
- 2015年2016年はマイナス 、2017年からは回復も、力強さには欠ける。
失業率
- リオはブラジル全体と比較して高い。
リオのGDP内訳
- リオ州GDPの内最も大きな割合を占めるのはサービス。
- 鉱工業においてはペトロブラスの石油。ガス掘削が中心、日本企業も同分野に集中。
プレソルト油田の分布
- プレソルト油田はリオ州およびサンパウロ州沖に集中。
- 利権を他の州には渡さないようにしている。
リオ州における中国の進出
- 最近になって顕著になってきた。
- リオの中国人は3万人
- ブラジルでは200以上の中国企業が進出
- 中国の貿易額は日本の10倍
- ブラジルの全輸出の3分の1が中国向け
- 中国によるブラジル投資
2010年まで:資源分野に投資
2013年まで:産業分野にも投資
2015年まで:金融分野にも投資
2015年以降:伝統的な投資家として振る舞うようになった。 - 中国の投資が全て成功するわけでもない(自動車は失敗)
- 中国のブラジルにおけるプレゼンスが低下するのはあり得ない。それを前提にしたビジネス展開が必要。
観光
- ロック・イン・リオ - 1日10万人
- 年明けカウントダウン - 70万人
- カーニバル 150万人
- 国際図書展(隔年、奇数年) 60万人
観光客、ホテル客室稼働率
- 観光客数はオリンピック後も大きく落ち込んでいない。
- ホテルを建て過ぎたのでホテル稼働率は落ちている。
- 高級ホテルが立ち並ぶ地域も夜はほとんど真っ暗
オリンピック
- 日本人は世界で一番オリンピックが好きな国民
- ブラジル現地ではあまり盛り上がってなかった(リオの行事)
- ブラジル女子柔道が金メダルを取り、男子バレーボールも金、サッカーもワールドカップの雪辱を果たしてオリンピックは盛り上がった。
オリンピックの残滓
- 誰も思い出さない、口に出さない
- 自転車競技場はたまに柔道のイベントが行われるだけ。維持費が1億円かかる…
- カヌー競技場は、これまで3回払い下げを実施しようとしたが誰も買わなかった。月に200万円の維持費かかっている。ブラジル全土でカヌー人口は50人。現在は近隣のファベーラの子供達に無料開放。
リオを代表する人物
- ボルソナーロ大統領
- ブラビオ・ボルソナーロ上院議員:大統領の前々妻の長男。穏健。
- カルロス市議会議員:大統領の次男。性格がきつく問題発言が多い。あだ名はピットブル
- ロドリゴ・マイア下院議長 :中道右派。年金改革法案を見事にまとめあげた政治手腕の持ち主。
グローボグループ
- 伝統的メディアで一番力を持っている
- リオはメディア発信の中心地
- 経済はサンパウロ、リオは文化や芸術の中心地
(Q&A)
- LAVA JATO一連の騒動の後、ペトロブラスの暴落したはずの株を誰が買ったのか?
- 株主がどこかの国に変わっていない。現在は、ペトロブラスの評価も上がりはサンパウロの株式市場の15%を占める。
- オリンピックでプラスになったことは何か?
- オリンピック期間中に2万人の軍隊をリオに入れた結果、暴力事件は起こらなかった。実態はともかく、困難な行事を成功させたんだという自負をリオの人が得た。競技会場は作りすぎ、民営化もうまくいっていないのでマイナスも大きい
- 9月にリオに行ったらオリンピックより治安が悪化している気がした。実際治安が上がったのは一時的か?
- たしかにオリンピックの頃よりは悪くなった。2010年代のはじめ頃よりは回復した。
- (中国人の刺殺事件を受けて)刃物による殺人事件は増えているのか?
- 一番多いのは流れ弾で運を落とすことが多い。麻薬を打っている人間は刃物ですぐに刺す傾向がある可能性がある。麻薬常習者やホームレスの生存区域が少しずつ拡大している
- ファンタスティコという番組は続いているか?
- 続いている
- リオの日本人学校は続いているか?
- かつてイシブラス全盛期は最大で400人の生徒がいたが、昨年は11名しか生徒がいない、そこに日本から派遣の先生がは6人いる。まだ存続しているが、風当たりは強い。
- 石油産出は今かなり深いところから掘っているが、コスト増が見込まれる中で増産を続ける必要があるのか?
- 石油産出のコストはもはや問題はない(問題は解消された) 海底1600-2000mから1バレル30ドルいかないくらいのコストで掘れる
日 時 | 2019年11月12日(火) 15:00~16:30 (受付開始 14:30) |
会 場 | 田中田村町ビル5階 5C会議室
住所:港区新橋2-12-15 |
参加費 | 個人会員1,000円, 法人会員 2,000円, 非会員 3,000円 ※会費は当日会場にて申し受けます。領収書もご用意します。 |
定 員 | 50名 |