演 題:カノア保育園の20年~北東伯の漁村における子供たちとの共生から学んだこと
講演者:鈴木真由美 ブラジル・カノア保育園園長

日  時 2020年12月2日(水)
15:00~16:30
開催方式 オンライン、Zoomウエビナーを使用して実施。
(お申し込み頂いた方に講演会の前日、又は前々日にアクセス可能なURLを連絡します。)
参加費 無料
定 員 100名

 

なぜブラジルに行ったか?
  • 小学5年生のころ年の離れた弟が生まれ、色々、世話をした。そのころから、将来は保育園の先生なろうと思っていた。その夢に向かって保育科に進み、保育園や幼稚園で実習を重ねた。そこで驚いたのはどの保育園でも「気になる子」がいたこと。自分が持っていた子どものイメージは「元気な子」だったが、すごく疲れていて眠たそうな子がいた。これは、日本だけなのか?日本以外、世界のどの国でも同じなのかを知りたくなり外国に行こうと思い立った。行先は、欧米ではなく普通では行けない国が良いなと思っていたところに、たまたまた、サンパウロの大学院に留学していた友人と出会い、実習ができる保育園を紹介してもらった。
  • 1997年、全く下調べなしでポルトガル語も分らないまま、サンパウロ入りしてドイツ人の教育学者のウテ・クレーマーさんが中心となって生活改善活動を行っているモンチ・アズールというファヴェーラで3週間、保育園実習をした。保育園に着いたら子供たちが自分のところに寄ってきてはハグしてくれた。子どもたちの言っていることは分らなかったが、子供らしいエネルギーを感じた。この子供たちが持っていて日本の子どもたちに無いものは何だろうかと思った。
  • 3週間の実習を終え、日本に帰国することになったが、また必ずサンパウロに戻って来たい
    と思った。ただ、そのためには、ポルトガル語を習得すること及び保育士として2年間の経
    験を積むことの2つの条件を満たす必要があった。
サンパウロに戻り、セアラ州 カノア・ケブラーダのエステーヴァン村へ移る。
  • 帰国後、ポルトガル語を日本ブラジル中央協会の教室で学び、保育士としての実績も積み、1997年にサンパウロの保育園に戻って1年間働いた。しかしながら、当時、東洋人のボランティアはおらず、東洋の文化を紹介するための日本祭りの準備などに時間がとられ、このままでは子供たちに何も触れあうことができないまま終わってしまうと悩んだ。
  • そんな時、ウテ・クレーマーさんに相談したところ『あなたを必要としている場所がある』とて、セアラ州のカノア・ケブラーダのエステーヴァン村を紹介された。その村は、サンパウロの保育園で働く前に1か月だけ滞在したことがあった。フォルタレーザ空港から168㎞(クルマで2時間。バスで4時間以上)のロケーション。そこには、モンチ・アズールで保育士をしていたエヴァさんが移住していて、彼女の家にホームステイさせてもらった(のちに彼女と一緒に保育園を作ることになる)。
  • 当時、エヴァさんの家は、午後になるとコーヒーを飲みながらの「子育てサロン」として子供たちを連れてお母さんが集まっていた。そこは気軽の立ち寄れて色んなことを相談できる場所であり、それが後の保育園設立に繋がっていった。
リゾート開発と村の変容
  • エステーヴァン村は人口300人の陸の孤島。もともとヨーロッパのバックパッカーが集まっていたが。80年代から観光開発が始まり、85年に不動産会社によるリゾート開発計画が打ち出され、住民を別の場所に移動させ開発を進めようとしたが、住民はこれに反対。反対運動も大きくなり、結果、セアラ州政府によりエステーヴァン村は特別環境保護地区
    として指定され、土地の管理は住民協会に委ねられることとなった。
  • その後96年に映画の撮影がきっかけとなり、村のインフラ整備が行われた。ただ、インフラが整備されても住民には水道光熱費を現金で支払えなかった。ずっと以前から行われていた物々交換経済から、リゾート開発で、貨幣経済に移行していったが、元々、識字率も低く、急激な貨幣経済に、住民は慣れず順応できなかった。
  • レストラン、バー、お土産屋、ホテルなどが建てられたが、オーナーは殆どがヨーロッパ人。現在、カノア・ケブラーダの住民の6割が観光業に従事している。
  • 伝統的な帆船でロブスターを獲っていたが現在は大型漁船が底網漁を行っているので、村人はかつてのような漁はできなくなっている。
  • 10代の子どもが麻薬、売春に手を染めようとしている。小さな子供たちが生きられるようにしてあげたい。そのために自分とエヴァさんに求められているものは何かを考えるようになった。
保育園設立(2000年)
  • お父さんは漁に出て、お母さんはホテルなどで働くので両親は家におらず、昼間は子供が放っておかれた。当時、子供たちには夢とか希望はなかった。男の子は漁師以外何になるのか?と選択肢も無かった。子供たちに売春や麻薬の売買に手を染めるようになって欲しくない。子供たちが最低 限の読み書きと計算ができて生きていけるよう保育園が必要となってきた→2000年、カノア保育園が設立された。
学童教室の設立
  • 保育園はスタートしたが、実は、3年経って保育園の卒園児が出たら日本に帰国しようと考えていたが、3年経ったころ小学校への不登校児童が増えた。お母さん達からは『保育園を作った際、小学校へ通えるように準備をします。読み書き、計算ができるように一緒に頑張りましょうと言うことだったが、保育園を作ったことが小学校への不登校の原因になってしまった』とのクレームが殺到した。家庭訪問して事情を聴いたら、「保育園は守られた場所で、先生はひとりひとりのことを見てくれる。 一方、小学校では先生は黒板の前に立ったままで冷たい。一方、児童はずっと座っていなければならず辛い。もう小学校には戻りたくない」と子供たちは泣きながら訴えた。子供たちを幸せにしようとして保育園を作ったのに逆に苦しませてしまった。なんとか助けなければと言うことで、エヴァさんが考えたのが学童教室の設立だった。小学校には午前中に行って、午後は、学童教室で小学校では、できない音楽、美術、体育などの補習を行った。結果、子供たちは小学校に通えるようになった。
教え子の成長、進学
  • 現在では、学童教室を出て高校、大学へ通っている子もたくさんいる。ただ卒園児は皆が進学していくわけではない。いろんな子どもがいる。手塩にかけていろんなサポートしてきた子でも麻薬の売買に手を染めたり、拳銃を持ってギャングのように危険と隣り合わせで暮らしている子をいる。また、売春に手を染める子もいる。そんな状況を目の当たりにした時、保育園を閉めて日本に帰ろうと思ったこともあったが、エヴァさんの言葉が自分を留まらせた。『あなたは神様ではない。例えば20人の子がいるとして、すべての子がうまく行くわけではない。夢を持って希望を描いて頑張っている子が2、3人でも出てくれたらそれだけで良いではないか。そんな子供たちが毎年出てくるかも知れない。その方が大切!』。
  • そのうちの一人がヴィヴィアニ(25歳)。彼女は大家族の中で育ち、お母さんとお姉さんは売春をしているという環境に育った。彼女は頭が良く、小、中、高校に進み、大学は州立大学に進学。更に、奨学試験に受かり、現在、ドイツの大学で心理学を勉強している。この子は、『自分はやって良いんだと言うことを教えてくれたのが保育園だ』と言ってくれた。こういう子がいるから止めてはいけない。
地域あっての活動
  • 保育園をこれまでやって来れたのは、地域の人達が一緒にやって行こうとついて来てくれたから。現地の住民の人達が活動を支えて運営できるようにならなければならない。ということで当初から住民の人達の育成に力を入れてきた。現在の保育園の先生は全て村の人達。現地の人達が自分たちで考えて自分たちで動く。我々の役目は彼らを支えてサポートしていくこと。
NPO法人「光の子どもたちの会」
  • 2005年12月Associação Crianças de LUZを設立。2015年8月 NPO法人「光の子どもたちの会」 を設立(代表 鈴木 真由美)。
  • 活動のひとつとして地域子育てネットワークがある。家庭内暴力、売春問題、望まれて生まれて来なかった子供たちの問題などがあるが、子供、青少年の教育、育成、見守の責任は誰にあるのか?家族?学校?政府?いや違う!全員でやる。この皆で見守っていくという仕組みが地域子育てネットワーク。実際、2013年から2018年までJICAの草の根技術協力事業が実施され、今でも継続的な活動が行われている。
  • 地域の中で課題を見つけ解決していく。現地のコミュニティーのリーダーを中心に公的機関に所属する専門家、心理士、看護師、医師、社会福祉士などと連携し、課題を見つけ、解決していくというシステムを作り上げている。実際、アラカチ市内の8地域で実施されている。学童教室でやってきた「生きていくための力をつける」ということは公立の学校ででも取り上げられている。これらの活動はアラカチ市とユニセフのセアラ事務所から高い評価を受けている。
  • 「光の子どもたちの会」 についてはHP 光の子どもたちの会 (criancasdeluz.org) に頂きたいが、年会費は5,000円。ブラジル料理教室のほか伝統工芸品の販売などのイベントも開催している。

 

 

ピックアップ書籍
天使が舞い降りる村のカノア保育園
著者 鈴木 真由美

ブラジル北東部、世界的観光地のカノア・ケブラーダに隣接する貧しい漁村エステーヴァン村。
麻薬と売春の渦巻く環境の中で暮らす子どもたち。親たちから託された願い。
それは“村に保育園を作る”ことだった。
「子どもたちに、これからの社会で生きていけるだけの力を」

2020年8月
 頒布価格 1870円
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