講 師:在サンパウロ 古杉征己弁護士
演 題:「訴訟案件への対応から危機管理へ ~リーガル・リスク・マネジメントの観点より~」

 

在サンパウロ 古杉征己弁護士

古杉征己弁護士略歴

1974年 広島県生まれ
2000年 北海道大学法学部卒→同年8月ブラジルに渡航。邦字新聞記者などを経てサンパウロ人文研で研究活動、「ブラジル日本移民百年史第三巻」「(生活と文化編)の執筆。
2009年 サンパウロMackenzie大学専門職課程(労働法・労働訴訟法)を終了。
2016年 OAB(ブラジル弁護士協会)統一試験に合格。
2017年 サンパウロ州弁護士協会に登録。
現在、サンパウロ人文研理事、サンパウロ日本総領事館職員。

訴訟大国ブラジル

  • 結論から最初に言うと(後述の訴訟件数からみても)、ブラジルは訴訟大国であり、訴訟となれば費用も時間もかかる。普段から訴訟を避けるためのリスク管理をしっかりとやっておくことが最重要。
  • 和解、調停など裁判外紛争解決手段に対する理解不足が多く、2016年発効の新民事訴訟法にて法定和解が明記された。

数字でみる司法

2004年に設立されたConselho Nacional de Justiça(司法機関を管理する国家組織)が2005年以降、報告書を作成。

  • 新規訴訟案件の推移:
    2015年に初めて判決数が新規訴訟案件を上回る(28.6百万件>27.8百万件)。2018年の判決数と新規訴訟案件数は、それぞれ32.4百万件、28.1百万件。判決数の増加は、2011年以降導入されたProcesso Eletrónico(システム上での裁判)の成果によるものと思われる。
  • 係争中案件:
    2018年は、78.7百万件で、2017年の80.1百万件から減少。これは2017年11月に発効した労働法改正によるものと思われる。
  • 州の裁判所:
    2018年 新規案件 19.6百万件(2014年より横這い)。2018年 係争中案件 63百万件(2014年より緩やかに増加)。
  • 労働裁判:
    2017年11月の労働法改正の発効により新規案件は2018年で3.5百万件、2017年の4.3百万件に比べ約20%減少。今後、どのように推移していくか興味深い。
  • 訴訟にかかる年月:
第一審判決 第一審判決 裁判上の執行
州裁判所 2年4カ月 9カ月 6年1カ月
労働裁判所 9カ月 5カ月 2年9カ月

裁判所の規模による地域差あり→リオ、サンパウロ、リオ・グランデ・ド・スル州は比較的短く、北東部は長い。また、税金関係の執行手続きは7年以上かかる(相手が州、国の場合は時間がかかる)。

リーガル・リスク・マネジメント(Direito Preventivo)

  • 起きてしまった出来事に対する処理は裁判となるが、将来的な法的問題を予防するための措置、対応を念頭に置いて仕事をする人が増えている。

・リーガル・リスク・マネジメント(Direito Preventivo)に取り組む利点:

→リーガル・リスクを評価・分析することでリスクを最小限に抑え訴訟を回避。
→不必要な支出の縮小。
→損害発生時に迅速な対応が可能。
→問題の再発防止。
→企業のイメージアップ。
→融資が受けやすくなる。

以上、最終的に企業の利益の向上につながる。

コンプライアンス意識の向上

  • ペトロブラスの汚職事件(Lava Jato)、Lula元大統領の収監などにより汚職反対の国民意識が高まった。
  • 汚職防止法発効(2013年):コンプライアンスが実施されている企業に対する厳罰処置。
  • 企業による法令順守について対外的発信(Código de ética/Código de condutaの作成、透明性の対外発信)

リーガル・リスクが発生する場面(例)

契約書の締結、物品購入、融資、労働関係、委託業務、税金問題、消費者との関係
→まず疑問を持ったら専門家(複数がベター)に相談する。

リーガル・リスクが発生する具体的な事例

信用ベースでの取引 →契約書の不存在
杜撰な文書管理 →証拠書類の紛失・散逸
後任者への引き継ぎ →原因究明が困難に
Jeitinho Brasileiro(ブラジル式解決法) →その場しのぎの対策

リーガル・リスク・マネジメントの在り方

  • ISO31000(リスクマネジメント規格) →3つの要素:原則、プロセス、枠組み
  • Institute of Internal Auditors (IIA)の3つのモデル
    → 第一防衛ライン(現場での実践)、第二防衛ライン(監督機能、リスクコントロール、コンプライアンス)、第三防衛ライン(内部監査)
  • 企業コンプラインスの確立
  • 新しい法律やテクノロジーへの適応

 

日 時 2019年9月10日(火)
12:00~14:00
会 場 シーボニア・メンズクラブ

千代田区内幸町2-1-4 日比谷中日ビル1F Googleマップ
<アクセス> 地下鉄「内幸町」駅下車2分、「霞ヶ関」駅下車2分

 参加費 会員 2,500円、 非会員 3,500円 
(当日、会場にて領収書と引き換えに、参加費を申し受けます)