執筆者 : 桜井 悌司 氏
(日本ブラジル中央協会常務理事)

「提言」ではどうすれば、県人会の活性化をはかることができるか?

 

数年のサンパウロ駐在のみで、かつアウトサイダーである私がこのようなテーマに口をはさむことは、極めておこがましいことであるが、短期的、中期的、長期的ないくつかの提案をしたい。

 

「県人会のあり方のビジョンをつくること」

現在、県人会はそれぞれの考え方にしたがって、予算、マンパワー等を考慮しながら、活動している。一度、ここで原点に戻り、県連が中心となって、コロニアの各世代にまたがる人材、外部人材等の協力を得て、県人会の意義、重要性、あり方等につき、十分な意見交換を行い、ビジョン的なものを作成し、日本政府、地方庁、コロニアの組織、ブラジル当局等に県人会に対する理解を深めてもらうようにしてはどうであろうか。おそらく、このビジョンの策定に関しての最大の問題は、1世と2世の間にある考え方の相違、県連及び県人会の企画力、実行力が必ずしも十分なものとは言えないことがあげられる。県連の組織と機能が格段に強化されることを望みたい。

 

「世代交代を進めること」

1世、2世の高年齢化とともに、県人会の会員数が減少し、活動が少しずつ停滞化するのは、ある意味で自然な流れである。しかし、1世、2世が、県人会の重要なポストにとどまっている限り、更なる発展は難しいと考えたほうが良い。もちろん、自分たちの過去の偉大なる貢献について1世、2世が持っている意識は尊重すべきではあるが、3世、4世に運営や活動を任せ、自分たちは、県人会の中に、「高年齢クラブ」や「シニア・クラブ」を作り、引き続き活動をすればいいのである。おそらく、若い世代の人々がいろいろなイベントを積極的に組織しようとすればするほど1世の役員との軋轢が生じることが考えられる。1世は、過去の栄光を忘れる努力が必要である。今、日系人の日本語の普及が大きな問題となっている。世代が進むにつれ、継承言語としての日本語の普及が難しくなっている。3世以降の世代にとって、日本や日本語も遠ざかっている現状である。国や日本語についての関心も薄れている状況にあって、県に対する思い入れは、さらに薄れるものと考えたほうがいい。会員数の減少については、県や日本のアミーゴになりうるブラジル人たちにも、入会を勧めることも考慮に入れたほうが良い。ただし、日本や県に関心があり、会費も支払ってくれるのが条件である。県連のホームページをみていると、宮崎県人会では、運営を青年部に移行したとのことである。この行動は勇気を与えるものである。またブラジル熊本県文化交流協会(熊本県人会)の場合、この5年以内に約40人の若者が参入、全員2~30歳代で、運動会、ふりかけ祭り、芸能祭などで大活躍中とのことである。日本人幹部は2人だけで、毎月の理事会もポルトガル語になっている。このような傾向が続くことを期待したい。

 

 

「ホームページを立ち上げること・充実させること」

前述のようにホームページを保有している県人会は、全体の3分の1である。何をやったのか何をやろうとしているのかを知らせる努力をしないと会の活性化は望めないし、ホームページの作成は、会員増を図る上でも重要である。ただホームページを作成するとなれば、若手の助力が必須である。ただ若手だと当然ながらポルトガル語になろう。と言って、母県の県民にも活動ぶりを知ってもらうことも必要である。そこで、ポルトガル語版をブラジルで作成し、日本語版を母県で作成し、合体させるというのはいかがであろうか?県にはポルトガル語のできる職員がいなければ、英語を媒介とすることも可能である。もちろん独自で両国語のホームページを作成できる県人会は従来通りのやり方をすれば良い。

予算とマンパワーの問題はいつも存在するが、各県人会と県連、県連と一般財団法人自治体国際化協会(クレア)、県連と海外日系人協会との連携が望まれる。また県人会の総元締めの県連の事務局を強化することや2か国語の堪能なスタッフを揃えることも必須であろう。

最大の問題は言葉の壁であるが、上記の方法に加え、出稼ぎの帰国子女の活用も大いに検討すべきである。帰国子女で素晴らしい能力を持ち、ボランテイア精神にあふれた人材が多数いるはずである。彼らをうまく活用する創意工夫を期待したい。

 

「フェスチヴァウ・ド・ジャポンにより大きなエネルギーを投入すること」

前述のようにフェスチヴァウ・ド・ジャポンの規模、動員力は圧倒的である。そこで各県もこのイベントに最大のエネルギーを費やし、できれば、相当程度の収益が出るメカニズムをつくるというのはどうであろうか?1県人会のイベントであれば、動員力もそれほどでなく、収益もそれほど出ないと思われるが、フェスチヴァウだと可能である。県人会の結束を図ることができるし、若者のボランテイア活動も期待でき、次代の指導者の育成にも繋がる。またフェスチヴァウを媒介として、非日系で、日本に大きな関心を持つブラジル人を多数、ボランティアとして協力してもらい一気に親日ブラジル人のネットワークを構築するというのはどうであろうか。従来よりもっと母県の協力もお願いし、県や国の広報活動の展開も期待したいところである。日本政府や地方庁は、現在、VISIT JAPANキャンペーンやインバウンド旅行やクールジャパンの振興に積極的であるので、良い機会と言えよう。県側もフェスチヴァウをもっと有効に活用するような、種々のアイデアを出すことが望まれる。

 

「ジャパンハウスとの連携を」

ジャパンハウスは、2017年5月に開所式を行い、ブラジル人ビジターの間で大好評である。ジャパンハウスについては、筆者も連載エッセイ67の「サンパウロ・ジャパンハウスのチャレンジ」で詳細に紹介した。ジャパンハウスがブラジル人に高く評価されているのは、目指すコンセプトが明確で、新しい日本、普遍的価値を持つ日本文化を紹介・発信したからである。

ジャパンハウスを活用するには、県連や県人会が様々な知恵を出すことが大切である。例えば、県の物産展のような発想だとジャパンハウスは、受け入れないであろう。それは、文協やスーパーマーケットで開催すればいいのである。

ジャパンハウスは、日本から作品が送付され、展示を行う企画展が年3回、独自の企画が数回あるが、その間の期間を利用しての展示会等イベントが考えられる。展示品が雑多な物産展ではなく、1つの展示品、それも1県ではなく数県にまたがるような発想が必要とされよう。例えば、「日本陶磁器展」、「日本漆器展」、「日本木工芸品展」、「全国コケシ展」、「日本竹細工展」、「日本ガラス工芸展」、「金属工芸品展」、「着物展」等々明確なコンセプトを持つプログラムを年間計画で、組織するという案である。全国から優秀作品を集めることが重要となってくる。これらは、県連や県人会だけでは無理なので、外務省、ジェトロ、JICA,国際交流基金、国際観光振興会、地方の国際友好団体、企業等の協力を得ることが必須である。県側は、従来の自県のみという発想から地域・道州単位、さらにオールニッポンという発想への転換が必要となって来る。県側からは、作品やサンプルをできれば、無償で提供するというような協力を望みたいものである。

 

「1県人会ではなく合同や道州単位、地方単位でプログラムを推進すること」

5県共同の「屋台祭り」や九州8県等による「8県対抗文化祭」について前述したが、1県人会でイベントを組織するより、数県単位、道州単位、地方単位でイベントを組織したほうが、コストやマンパワーの面で節約になるし、収益も増えることが考えられる。例えば、ラーメンで有名な県が協力し、「全国味自慢ラーメン祭り」とかブラジル人の大好きな「全国名物焼きそば祭り」など知恵を絞ればアイデアが出てくるだろう。また、「フェイジョア―ダ大会」を開催し、各県人会風のフェイジョア―ダを開発・提供すれば、ブラジル人は大いに喜ぶことであろう。例えば、東北地方が集まって「郷土料理展」や「雪まつり展」等々多くのアイデアが出てくるであろう。日系コロニアの人々は、「サケピリーニャ」を開発するほど、創意工夫の精神に満ちあふれている。

 

「少なくとも5年毎に母県からミッションを派遣してもらうこと」

県人会はいつまでも母県との繋がりを大切にしなければならないことは当然である。そのため毎年でも県知事等幹部の来泊を要望したいところである。しかしながら、県の財政事情もあるので、せめて県人会創設時からみて5年毎の節目の際には、県からの来泊を強く進言し、実行に移してもらうべきであろう。そのためには相互交流という観点から県人会からも訪日団を派遣することが望まれる。県側のミッション派遣のための予算要求もあるので、節目の年の2年前くらいに県人会の訪日団を派遣し、県に重要な周年時に来伯してもらうようにする。

 

「姉妹都市間交流をフルに活用すること」

日本とブラジルの都道府県市町村間の姉妹都市提携件数は、57件で米国、中国、韓国、オーストラリア、カナダに次ぐ堂々第6位に位置する。残念なのは、2000年以降の締結案件が無いことであるが、交流関係の活性化は、県人会の活性化に繋がると考えるべきである。ブラジルとの姉妹都市交流を持っている都道府県は、下記表にある22県である。県人会と姉妹都市は必ずしも直接の関係はないかも知れないが、考慮に入れておくべきである。

ブラジルとの姉妹都市交流は、日本ブラジル中央協会の連載エッセイ「ブラジルを理解するために」の連載93を参照のこと。

 

「留学生・研修生交流を強化すること」

日本の若者の留学意欲が減少しつつあると言われているが、次代を担う若者の交流は極めて大切なことである。前述のように県費による留学生・研修生の交流は、今後とも継続、できれば強化して欲しいものである。日本や母県を訪問し、様々な体験をした若者は、必ずや県人会の将来のリーダーとして活動に参画してくれよう。日本の150の大学のホームページをチェックしたところ、ブラジルの大学と留学交流協定を持つ大学数は、57大学で、相手のブラジル大学数は、43大学、合計案件数は、116件である。どこまで活発に交流が行われているかはわからないが、これらの大学交流も県人会の活性化に繋げていけば、素晴らしいことである。下記にブラジルの大学と交流関係を持つ大学の所在県を記す。日本とブラジルとの大学間留学交流の詳細は、日本ブラジル中央協会の連載エッセイ「ブラジルを理解するために」の連載99を参照のこと。

 

表5 姉妹都市交流と大学間留学交流のある県

姉妹都市交流のある都道府県 大学間留学交流のある都道府県
北海道、青森県、宮城県、山形県、群馬県

千葉県、東京都、新潟県、富山県、石川県

山梨県、長野県、岐阜県、三重県、滋賀県

京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、広島県

山口県、徳島県

北海道、宮城県、茨城県、東京都、群馬県

埼玉県、千葉県、神奈川県、長野県、愛知県、石川県、岐阜県、富山県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、広島県、香川県、徳島県、愛媛県、福岡県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

22都道府県 26都道府県

 

「日本や母県との繋がりで物事を考えること」「過去ではなく、今とリンクしたプログラムを考えること」

県人会活動とは直接結びつかないが、筆者も「大阪サンパウロ」姉妹都市協会」に関係している。同協会では、毎年「ポルトガル語スピーチコンテスト」を開催し、優勝者をサンパウロに派遣している。またサンパウロで開催される日本語スピーチコンテストの優秀者を日本に招聘している。協会は財政基盤が弱体なので、大阪市やエミレーツ航空の支援・協力を受けている。秋田県人会は、3年前から「本荘追分大会」を開催している。毎回80名くらいの参加者の中から選ばれた優勝者が、日本の「本荘追分大会」に参加する。2018年は、日系人ではないカリオカ娘が優勝し、8月の秋田での大会に参加するという。日本文化の広がりを感じさせる。沖縄県人会は、最強の県人会であるが、ウチナンチュウの世界的ネットワークを駆使して、「過去」ではなく、現在進行形の「今」プログラムを展開している。演歌でもなく民謡でもない人気バンドの「ビギン」のコンサートは、大成功であったと伝えられている。

 

「県の駐在員を置くこと」

県人会を母県の出先機関と位置付けることを提案しておられるコロニアの方もおられる。このアイデアは、コストもそれほどかからず現実的で実現可能である。なぜなら、①ブラジルには県などの補助金を得て県人会館を設置している県が30県以上あり、賃貸の事務所はどの県も所有している。そのため借館料は不要で、人件費のみである。②やるべき仕事は多数ある。県の観光振興、県産品の輸出、県人会の活性化等々である。③さらに駐在員の派遣の場合は、県の国際化のための人材育成につながる。④駐在員は県から派遣してもいいし、日本語とポルトガル語の堪能なコロニアの人材を活用することも可能である。このように2つの方法が考えられるが、県から人材を派遣する場合は、航空賃、人件費、アシスタント雇用費、住宅費、活動費等がかかるのでかなりの出費を余儀なくされよう。しかし、コロニアの人材を駐在員として活用すれば、住宅手当も不要であり、1人で活動できるので、コストも大幅に削減できよう。このアイデアを実践する都道府県が出てくることを期待したい。

 

「日本県人会ビルデイングを建設すること」

大規模な日本人会館を建設するという提案をされる方もおられる。 一見荒唐無稽なことと思われる方が多いに違いないが、必ずしもそうではなく、多大なる困難が伴うが実現可能であると思われる。発想の転換という意味で考えていただきたい。筆者のサンパウロ駐在時代にも大型の日本会館のような建設計画があったが、立ち消えになった。サンパウロには、ユダヤ人のコミュニティが作った「エブライカ・サンパウロ」というスポーツ施設もある54,000平米の施設がある。また全世界に散らばる「シリア・レバノン会館」もある。日本の場合、県意識が強すぎることもあり、すべて県単位で何でもやろうとする傾向にある。県の会館も老朽化していることもあり、それらを売却し、資金を集め、日本政府、県、進出企業等の支援も受けて、大きな施設を建設する。県連や各県人会等もそこに事務所を構え、会議室、セミナールーム、展示場を備えた若者も訪れたい施設にするというアイデアである。ジャパンハウスと競合するという方もおられるに違いないが、それぞれのコンセプトや目指すところが異なるので、一部は重複するとしても、それほどでもないと思われる。従来、コロニアでは、この種のプロジェクトが出てきた場合、可能な限り日本政府や県の支援をあてにしようとする傾向にあった。このアイデアでは、老朽化した会館を売却し、建設資金の一部を自分たちの資金を捻出するところに新しい発想がある。資金、時間、進め方、県ファーストの考え方等で大きな反対、抵抗が予想されるが、検討に値するものと考える。筆者のメキシコ駐在時代(1970年代半ば)に筆者も関わった日墨学院の建設計画があり、政府(100万ドル=3億円)、日系コロニア(50万ドル=1億5,000万円)、進出企業(150万ドル=4億5,000万円)をそれぞれ拠出し、実現に至ったことを思い出す。その昔のセラード開発計画でような「オールニッポン・プロジェクト」のような大事業の再来を期待したい。

 

筆者の考えをすべて紹介させていただいたが、日本人移住110周年記念を迎えて、2018年を新しい発想の年、更なる創意工夫の年、行動の年となれば、望外の喜びである。また、今後数多くの意見が出されることを期待したい。

 

「参考資料」

*県連及びホームページのある県人会のホームページから作成した2015年時点での「ブラジルにおける県人会の概要」表(5ページ)も参照のこと。入手希望者は、桜井まで(teisakurai@gmail.com

*過去に筆者が執筆した連載エッセイ・レポート「ブラジルを理解するために」(日本ブラジル中央協会のホームページ)を参照のこと。

連載11 「ブラジル文化福祉」協会(文協)での人材育成セミナー」

連載67 「サンパウロ・ジャパンハウスのチャレンジ」

連載80 「フェスチヴァウ・ド・ジャポンのこと」

連載93 「日伯姉妹都市関係について」

連載99 「日本の大学とブラジルの大学との留学交流」