小林大祐(『ブラジル特報』編集委員)

 Mossoró で過ごした日々を思い出していたら、汗が出てきた。道路で目玉焼きができるといわれている町だ。Rio Grande do Norte(RN)州第2 の都市。砂漠の周辺に分布する半乾燥地帯に位置する。雨季でも降らないときは降らない。Acari という町にある
Gargalheira という巨大ダムが干上がったのをみたこともある。半乾燥地帯の環境の過酷さをみせつけられた。
Mossoró にはそんな半乾燥地帯の「首都」の称号が与えられている。連邦議会に法案を出したのはSandra Rosado。彼女はMossoró の名門一族だ。RN 州の歴代知事など過去の有力政治家の名前を見ると、名前の一部にRosado、あるいはMaia が含まれていることに気づかされる。
彼らの元をたどると、Jerônimo Rosado に行きつく。彼は最初の妻MariaRosado Maia との間に3 人、そして後妻Isaura Maia との間に18 人の子供を設けたが、11 人目以降、12 人目の子供を除いては、全員がフランス語の数字をモチーフにした名前がつけられている。
Dix-Sept Rosado という市がMossoró の近くにある。元州知事だった17 番目のRosadoが由来の地名だが、Chat GPT に入力したら、「Dix-Sept Rosado はフランス・プロヴァンス地方のロゼワイン」と珍回答が出てきた。
Mossoró で大変お世話になったのはメロン栽培で大成功されている大谷正敏さん。部屋を借りるときも不動産屋に同行してくれた。業者は家主に電話して、「メロンの日本人の紹介だ」。何度も「メロン」と連呼していた。メロンこそ信用手形なのだ。すぐに承諾してくれた家主はブラジル最大手の製塩会社Cimsal の息子だった。
メロン、塩と来て、忘れてはならないのは石油だ。Mossoró は国内最大の陸上石油の産地である。石油を掘っていたら出てきたという温泉を利用してできた20ha のリゾート(Thermas Hotel Mossoró)がある。
こちらも国内の温泉施設では最大規模とされる。
いわゆる「棚田式温度差温泉」で、温度が異なるさまざまな温水プ―ルを楽しむことができる。最も水温が高いところは55 度近くに達し、周囲は柵で囲まれているが、ふんどし姿で入浴した日本人がいて、その勇姿に地元民はひれ伏したという話を聞いた。
子供たちがまだ小さかったので、暇さえあればそこに通っていた。Mossoró での生活は1年ほどだったが、振り返れば、バラ色の日々だった。