酒井 勲
(戸田インベストメント・ブラジル社長)

 

はじめに
戸田建設と聞くと、本誌を読まれている方の多くはConstrutora Toda do Brasil(ブラジル戸田建設、以下TBC)を思い浮かべるだろう。この寄稿にて、TODA Investimentos do Brasil(以下、TIB)という会社を知ってもらい、その子会社がリオグランデ・ド・ノルテ(以下、RN)州で風力発電所を所有し、グリーン電力の売電ならびにグリーン電力証書を発行しているということを周知する機会になれば大変有り難い。

渡伯に至る経緯
今から遡ること6 年余、東京五輪を2020 年に控え、文字通りオリンピック景気の如く日本の建設市場は案件に溢れていたのが、つい先日のことのように思い起こされる。
当時、首都圏の支店にて民間営業をしていた自分にとって(いや、業界関係の皆が感じていたと思うが)、それはアフターオリンピックに業界が直面する現実を半ば分かっているなかにおいては、不気味な好景気に感じた。そんな思いを日々感じていた折、2016 年末、「自己発働型社員」という、各支店長から推薦された若手・中堅社員が一同に介し、中長期の自社の在り方について考え、自身で今から何をすべきかを経営層に提起する、というセッションに参加する機会が与えられた。
上述のような思いを抱いていたこともあり、五輪後の国内建設市況の縮小と受注競争が激化するなか、持続的な成長をしていくためには、「本業以外の事業」・「海外」に目を向けざるを得ない。そのための基盤を整えるのは、向こう3 年の好景気を控えている今だけだ、と生意気ながらにプレゼンをしたのを覚えている。
何となく想像していたことではあったが、プレゼンのほとぼりが冷めぬ2 日後には、推薦してくれた支店長から「おまえ、何を言ったんだ」と半分呆れ顔、半分応援してくれているよう
な表情で言われ、海外の新規事業を企画する新設課への異動がほぼ決まっていた。

TBCへの感謝と新現法設立
異動後は日本での半年間、どの国で何の事業をするのか、外資規制や市況調査を日本で出来る範囲のFS 調査をしていたものの、「伯国で再エネ」という選択肢は最初からあり、SDGsの取組みの一環としても最優先の候補であった。また、1973年のTBC 設立から2023 年で半世紀、という節目を控えていたこと、その中で、伯国で事業を行う厳しさを長年に亘り痛感していたことも、伯国で本業以外をする必要性を問う大きな要因であった。
ちょうど、本稿を寄せるにあたり、TBC のブラジル企業への売却のリリースがなされたが、数年来、伯国の経済動向における事業舵取りで、売却や撤退の検討を余儀なくされていた。 いま思うと、自分はその真っ只中にいた。
2018 年1 月、初めて伯国に渡り現地FS を実施、その3 ヶ月間での手応えを素に駐在を決意、まだ事業化には程遠かったので、TBC へ出向という形でプロジェクトの掘り起こしを開始した。事業化に際しては、新たな決意ということもあり、自分の中ではTBC とは別会社で新現法を立ち上げ、人財の掘り起こしから行っていく所存であった。
とはいえ、TBC 事務所の一角を借り、同じ日本からの駐在員や現地スタッフに励まされながらの環境下であったからこそ、駆け抜けられたのは言うまでもなく、当時の駐在員やその家族、TBC 社員への感謝は筆舌に尽くしがたい。
また、TBC が築き上げてきた信頼があってこそ、新規事業でありながらも、伯国の風力関係者が耳を傾けてくれたのだと思って止まない。

発電所運開と今後
駐在後、約1 年間のプロジェクト発掘・事業企画を経て、2019 年末の事業承認、2020 年1 月の新現法設立と、ここまでは順調であったが、現法設立(本邦から資金送金)後にコロナ禍に突入、コロナ真っ只中での風車設備他の発注、発電所建設と、その後の2 年間は怒涛の如く過ぎ去った。
特に、日本への退避期間中は、身は日本にあれども、気持ちは伯国に現法スタッフと共にあったと言える歯痒い思いをしたのは、同じコロナ禍を過ごした駐在員は皆同じ気持ちであったと思う。そのような中で作り上げた発電所も、間もなく稼働2年を迎えるが、24 時間365 日、何事もなく働いてくれている風車8 基も大事なTIB スタッフと思わずにはいられない。
自分を含め社員6 名とまだまだ少人数の会社だが、現在、同じRN 州にて2 期発電所を開発中であり、少しずつではあるが会社の体制も整ってきた。今後は、陸上風力に限らず、異なる発電源の再生可能エネルギーや次世代燃料にも注視し、半世紀にわたりお世話になった伯国に、建設とは異なる事業領域でも貢献していけるような活動を戸田建設グループとして継続して参りたい。
最後に、事業化に際し、ベンチマークとして幾度とない訪問や情報交換を快く受け入れて下さった、Honda Automóveis doBrasilとHonda Energyの皆様、一緒になって事業化に粉骨砕身してくれたTIB 社員・コンサル関係者にこの場を借りて御礼申し上げたい。