執筆者:田所 清克 氏
京都外国語大学名誉教授

本記事はラテンアメリカ協会のホームページに掲載されたものを執筆者の了解を頂き「伯学コラム」に転載させて頂きました。

1)先住民インディオの身体装飾

Adornos corporais dos índios

 

羽根飾り[adorno de penas]

 

先住民インディオにかぎらず、身体装飾[adornos corporais]は広く世界のどの民族においても行われている。刺青、羽根飾りなど以外にも、文明社会の日常なされている塗色、すなわちお化粧などもその類いのものだろう。

 

ここでは、インディオの身体装飾に絞って論じてみたい。その一回目として、先ずは羽根飾りについて言及することにする。アメリカインディアンも頭に鳥の羽根を飾る。が、インディオと彼らとの間には、どうやら装飾の美学が違うようにも思える。北半球の先住民がどちらかといえば単色を好むのに対して、ブラジルのインディオは、多様な色、しかも、種類の異なる鳥の羽根で飾る。コカール(cocar)と称する髪や帽子に付けたり、腕輪(pulseira)や首飾りなどにも羽根を用いる。

 

好まれる羽根はコンゴウインコ(arara)やオウム(papagaio)以外では、acauã,[ヘビクイワライタカ]、gavião-real[タカの一種]、mutum[ホウカンチヨウ]などのようだ。異なる色の組み合わせは、特定の部族の標章(estandarte)としても機能しているらしい。しかしながら通常、各々が自分の好みで身を飾っていることの

ようだ。女性よりも男性の方が羽根飾りを愛でるのは、意外な感じがしないでもない。

 

下唇の装飾 tembetá(=adorno labial)

 

ポルトガル語でbotoque と言われる、耳、鼻、下唇に穴を開けて付ける飾るのは、何もインディオのcaiapó族、botocudo族,、waurá族に限ったことではない。この風習は例えば、美しく見えるためにアフリカのエチオピアの部族の女性の間でもみられる。

tembatéは知る限り、カイアポー族などいくつかの部族では今もなされている。勇猛な真の戦士の象徴らしい。その材料となるものは、部族や地域によって異なる。ツウピー族が好むのは、木材やヒスイ輝石(jadeita)の円形状のものである。概して、木片あるいは骨をあしらった円筒形のものがほとんど。それも加工したのはまれである。バイーア奥地の部族の間では時折、鉱物も使用される。

 

taquaraと呼ばれる竹のタイプのものもあり、蝋で固められている。竹を使っているのは、先が尖って唇に通しやすいことからであろうか。このタイプのテンベターで飾るのはボローロ族(borôro)である。5ないし6歳になると、男の子はテンベターを用いる準備をするようになる。唇に穴を開けるのには、鋭利な小さい骨が使われ、その後開口部が塞がらないように木片があてがわれる。最終的に飾りが固定するまで、毎年、木片の直径は大きくなる。tembetá の使用は男女を識別するためのものであり、女性は使用が禁じられている。男女の区別をする目的以外にtembetá は、戦士が属する部族を明示する機能を有しているのである。

刺青

 

日本では刺青はタブーであるが、男女を問わず欧米の人のそれが多いのには、正直言っておどろく。そうした外国人観光客が、この日本においても普通に散見される。のみならず、この数年来、刺青を施している外国人の数が拡大の一途にあるようにさえ思えるのは、私だけであろうか。

 

ところで、刺青による身体装飾はブラジルの先住民の間では一般的で、ことにトウピー系統の部族集団のそれは現在も慣習となっている。そもそも刺青の目的は、女性の既婚者と未婚者とを区別することにあるようだ。身体塗色[ボディーペインティング]の際と同じく、ジエニパポ[jenipapo=チブサノキ] の汁や、ウルク[urucu=ベニノキ]の果肉が使われる。前者は黒色、後者は文字通り、ベニ色をしている。この着色剤の組み合わせで、性、年齢を識別するとのこと。guaiacuruの民族系統のkadiuéu族もまた、同様の刺青をするらしい。数年前に私がパンタナルを旅して周囲の原野を散策した折りに実をつけたジエニパポを見つけ、その実をもぎりとつてやたらと触りまくった。そのためにひどいめにあつたことがある。爪の周りにジエニパポの黒色が着色し、2週間ほど消えなかったからである。

2)ブラジルナッツについてー 

その1Introdução à Sutudia Brasiliana ーSobre a castanheira- do- brasilー

私は無類の果実好きである。そのこともあってほぼ毎日、デザートとして口にする、フルーツの常食者( frutívoro= frugívoro) と言えます。

とくにママン( mamão)、ジャッカ( jaca= パラミツの実)、グラヴィオーラ( graviola= チェリモア)、バナナが大好き。しかし、そうした果実のほとんどが日本では手にいらないので、食べたい気持ちもあってか、しばしば夢の中でも登場する始末です。私がかくも度々、ブラジルを訪れたのも、美味な異国情緒あふれるくだものを食べたいのが、一つの事由になっていたことは疑いないことです。

ところで、国連の世界食糧農業機構( FAO) によれば、ブラジルは中国、インドに次いで、フルーツ王国のようです。ブラジルでは言うに及ばず、オレンジとバナナが生産のランキングのトップに位置づけられますが、ブラジルナッツも首位に近い生産量を誇っています。

ブラジルナッツはカスターニャ・ド・パラー( castanha- do- pará)ともカスターニャ・ダ・アマゾーニア( castanha- dá- amazônia) とも称されています。天然ゴムの産業が衰退後、ブラジルナッツは輸出に向けた北部地域の主要な採取産業となり、結果として地域住民の大きな収入源になっています。

私は幾度か60メートルに及ぶ亭々たる高木のブラジルナッツを地上から見上げ、写真に収めたことがあります。残念ながらその写真がどこかにいって、見つかりません。
次回は、ブラジルナッツの植生の有り様、生態、環境条件等について記したいと思います。

写真: Webから