小林大祐(『ブラジル特報』編集委員)

 夜明けの谷(Vale do amanhecer)そう呼ばれる教団の施設がブラジリアの衛星都市プラナルティーナの閑静な住宅街に広がる。ブラジルで最も急成長した宗教の一つで、国内外に600 の支部、信者数は800 万人を数えるという。
何も知らない人はそこをテーマパークと思うはずだ。星形の池、ピラミッド、黄、赤、緑の色鮮やかな建造物が並ぶ。しかしすぐにただならぬ空気に支配されているのを直感で察する。興味本位で近づいていいものかどうか。
ハロウィンの時期じゃないのに、カラフルなマントやベールをまとった一群とすれ違う。シンボルのジャガーが掘られたマザー・テンプルの闇の中に踏み入ると、無事にここから出ることはできるだろうか? と背筋がゾクゾクする。
深入りは避けるが、キリスト教、ヒンドゥー教、ユダヤ教、インカ、古代エジプトなど、多様な宗教と文明から引き出された幅広い信仰に基づく。設立は1959 年。ブラジリア建設と時を同一にするのは偶然ではない。
新首都建設に伴って国内各地から集った移住者は新しいアイデンティティやメカニズム、空間を求めた。また、超組織化されたコンクリート都市はディストピアな側面もあり、それを癒すかのように、DF(ブラジリア連邦区)では「夜明けの谷」の他にもInri Cristo、Templo da Boa Vontade(TBV)等の新興宗教が誕生している。
もともとはバンデイランテスの宿場町であった古い歴史を持つプラナルティーナにはもうひとつの顔がある。それはブラジリアの礎石が置かれていることだ。市の中心から10km ほど離れた1,033mの丘の上に位置する。1922 年の独立100 周年の節目に据えられた。
礎石のオベリスクの高さは3.5m。とても小さい。ただ、ブラジルはどこから来て、どこへ行くのか?などと思いをはせる場所としてはなかなかの立地だ。中央高原に将来の首都を建設する調査のため、1892 年に訪れたMissão Cruls(クルルス調査団)の報告書にはこう記されている。
「気候は完全に規則正しく、一定の風が吹き、気温は常に一定である(中略)結論として、そこにあるすべてのものが、人間の存在を絶対的に容易にするために集まっていると私は信じている」