会報『ブラジル特報』 2011年3月号掲載
山本 一郎(日本ウジミナス株式会社 参与)
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はじめに ブラジル主な高炉メーカー ブラジルの鉄鋼業は、16世紀末から歴史は始まるが、近代鉄鋼業は1917年ミナスジェライス州にベルギー資本の参加で木炭一貫製鉄所ベルゴ・ミネイラが設立されたのが始まりであるが、第2次世界大戦を機に、政府の重工業化・輸入代替政策の下に一貫製鉄会社が順次設立された。ブラジルが連合国側参戦の報奨として米国の融資でリオデジャネイロ州ボルタ・レドンダに設立されたCSN、50年代には日本とブラジルの合弁会社としてミナスジェライス州イパチンガにウジミナス、サンパウロ州の産業界が中心となって作ったコジッパ、その後70年代に日本・イタリア・ブラジルの合弁としてエスピリットサント州ビトリアにCST、ミナスジェライス州のオーロブランコにアソミナスがそれぞれ建設され、ブラジルの鉄鋼業はこの5大高炉製鉄所を中心に発展していく。 ウジミナスは優良企業であったため全産業の民営化トップバッターとなり、93年コジッパの民営化に参画し傘下に収め、2008年には完全に経営統合し、生産量9百万トンのブラジル最大の板系メーカーとなっている。新日鉄グループは07年に資本関係を増強し、持ち分適用会社とした。また、新日鉄からの技術協力とミナス人の寡黙な勤勉さが相まって、ブラジルに留まらず米州大陸で最も技術力の高い会社にもなった。 CSNは93年民営化時、B.スタインブルック率いる繊維業ビクーニャおよび金融資本が入ったが、その後、ビクーニャグループが太宗をしめる体制となった。生産量5百万トン、薄板製品を製造するウジミナスのライバルであるが、設立当初よりのバックボーンから国策会社としての色合いが濃く、潤沢な資金で立派でかつバラエティに富む設備投資を行い、製品の種類も多い。この会社しか製造していないブリキは生産能力が100万トン/年、ウジミナスが2000年に設置した冷延連続焼鈍ラインを既に20年前から保有していた。しかし、操業レベルの点から、ウジミナスと同じ時期に自動車用のメッキ鋼板製造設備を設置したものの、この分野の市場シェアーは少ない。 アソミナスもCSTと同様に半製品工場として設置されたが、93年民営化を経て、現在北米メーカーも買収で傘下に収め、全世界で約15百万トンの生産能力を持つゲルダウ・グループの傘下になり、02年からは形鋼・線材の製品生産を始めている。 ブラジル鉄鋼業の今後 以上が現在までのブラジル鉄鋼業の簡単な流れと近年起こった再編の特徴であるが、ブラジル鉄鋼業界の今後の展開を展望するうえで、昨年は特徴的なことが起こった1年であった。リーマン・ショック以降順調に経済が回復したブラジルは、昨年7.5%の高成長を示したが、国内鉄鋼生産はさほど伸びなかった。国内の見掛けの鉄鋼消費は伸びたものの、レアル高を背景に中国、ロシア、韓国製品が急増した。いままでは、製品マーケットとしては遠隔地のためアジアや東欧諸国から敬遠されていたブラジルが、価格・為替が有利に働けば簡単に世界のどこからでも重量物の鉄鋼製品が侵入してくるほど、この分野のグローバル化が進捗したことを示している。中国や米国の金余りがブラジルの高金利・資源獲得を目指して流れ込む如く、中国・韓国等の鉄鋼製品の供給余剰が発生すると、同じように鋼材が流入してくる。品質の差別化やコスト競争力の手綱を緩めると、あっという間にブラジルも世界の大競争に巻き込まれる時代になったのである。 しかし、このように輸入品に苦しんでいる業界の中で業績が良かった会社がある。CSNである。それは、販売面よりもコスト面による理由であり、他社が甚大に受けた鉄鉱石価格高騰の影響をまったく受けなかったからである。鉄鉱石は世界の大供給元が3社であり、ブラジルの製鉄メーカーであろうとヴァーレから購入する限り、資源価格高騰の影響をそのまま他の立地国と同じように受ける。しかし、CSNは高品質の自社鉱山を持ち、全量使用するのでまったく影響を受けない。ウジミナス、ツバロン、アソミナス等も自社の鉱山を保有しているが、今までは隣のヴァーレから安く品質の良い鉄鉱石が流れてくるという感覚であったため、利用が進んでもおらず、今後は如何にして鉱山開発を進め、自家使用していくことが優先課題になっている。そのために鉱山開発のみならず、ロジスティックスの整備や低品質鉄鉱石の使用技術などの取り組みも必要となる。 最後に、ブラジル鉄鋼業界の今後の動きについては、好調な経済や14年のサッカー・ワールドカップ、16年のリオデジャネイロ・オリンピック開催に向けてのインフラ需要で確実にマーケットは伸長するので、この市場を目指す海外メーカーを含めて、その活動動向からは目を離せないであろう。
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