会報『ブラジル特報』 2011年5月号掲載
在日ブラジル商業会議所会員企業の紹介(第9回)

クニユキ・テラベ(日伯エタノール株式会社(BJE)取締役副社長
・ペトロブラス ダウンストリームジェネラルマネージャー)


 

はじめに

 ブラジルは世界屈指のエタノール生産国および消費国である。国内では35年以上車の燃料として利用しており、当国は長年にわたる経験、最先端の生産および使用に関する知識を生み出すことができた。
 恵まれた地理により、ブラジルは適切な気候、豊富な水源、良質な耕土をもち、世界でも最良な農産物の栽培が可能な環境にある。ブラジルと米国は工業用エタノールの生産のトップにあり、2009年には両国で世界の総生産量の89%を占めた。2010年にはブラジルは世界の消費量の38%を占める267億L生産した。また、ブラジルは世界で最初の環境持続バイオ燃料生産国である。
 ブラジルの面積は8.51億haで、耕地は7,200万ha、現在サトウキビを栽培しているのが810万haで全面積1%にも至っていない。ブラジルは現在でもバイオマス栽培農地の増加の可能性が大いにある。推測によると保護区、森林に侵入にすることなく、食料、バイオマス生産用の耕作地を7,000万ha増加することができる。ブラジルのエネルギー源は他国に比べると多少異なっていて、水力やバイオマス等再生可能源が全体の45%を占めており、世界平均の13%よりかなり高い。

ブラジルのバイオ燃料の概要
 ブラジルでは適切な気候と高生産能力により、多用なるバイオマス原料からのバイオ燃料が生産されている。2010年のエタノール生産量は267億L、バイオディーゼル32億Lであった。ブラジル産のエタノールはサトウキビを原料として使用している。その理由には容易な発酵プロセス、準多年生、機械農業が可能であるなどが挙げられる。また、サトウキビからのエタノール生産の効率も高く、生産量は1ha当たり7,000Lと、とうもろこしの1ha当たり4,000Lよりはるかに高い。バイオディーゼルの場合は多彩な原料が使用され、その中でも主要はパーム、大豆、カストア豆、綿、ココナッツ、カノーラ、ヒマワリ、ジャトロファなどである。

バイオエタノール生産および燃料としての活用
 ブラジルのエタノールは、12%が製造工場96ヶ所ある北東地域で、88%が工場327ヶ所ある南東地域で製造されている。収穫は北東地域の場合9月から3月、南東地域では4月から12月である。サトウキビから製造されたエタノールの燃料としての活用は、自動車がブラジルに導入された1920年代後半から30年代前半に記録されている。
 ガソリンとの混合使用は70年代まではほとんどなく、第一次石油ショックによる供給不足、石油依存の危険性にともない開発された。75年に国内アルコールプログラム(プロアルコール)という政府による融資の上、ガソリンなどの化石燃料の代用品としてサトウキビを原料とするエタノール燃料を活用する為のプログラムが開始された。
 エタノール業の生産・物流・販売・消費過程には様々なプレイヤーが関わっている。最初は農業関連で、810万ha の面積を使用するサトウキビの栽培・収穫が行われる農園には5万人の農場経営者、100万人の労働者が勤める。423ヶ所ある工場は砂糖とエタノール双方を生産できる。次に関連するのが配給業者(ディストリビューター)でブラジルには160社の配給業者27,000ヶ所のガソリンスタンドがある。また、新しいエタノール燃料使用現状への製品適合化を命じられるカーメーカーがある。これらすべてのプレイヤーを統制するため、政府側でも 様々な政策機関・省・局等が携わった。
 2003年にはフレックス燃料対応車(FFV)の生産が開始した。FFVは0%から100%とどの混合率のエタノール混合ガソリンで走行でき、発売以降消費者に人気も高く、販売量も飛躍的に伸び、現在では新車売上の90%近くを占めている。それにともなってエタノールの消費量も増加し、今ではガソリンの消費量を上回っている。09年『エネルギーポリシー』誌記載の調査によると、エタノール燃料の使用はブラジル全国のCO2 排出量をプロアルコールが始まった1975年以来現在までに12億トン削減できた。

バイオディーゼル プログラム
 2004年にバイオディーゼルの使用が定められ、05年に政府側が次の使用目標を立て、08年以降2%混合、13年以降5%混合を規制していた。当初の目標計画が繰り上げられ、10年1月には5%混合に至っていた。10年のバイオディーゼル消費量は230万L。ブラジルは多彩なる原料からバイオディーゼルを製造することができる。主要原料が大豆、次いで綿、パーム、カストア豆がある。
現在ブラジル国内にバイオディーゼル製造工場は57ヶ所あり、FAME工法、Fischer trosch工法等様々な技術を応用している。ペトロブラス社は独自の製造工程を開発しHBioプロセスの特許を得た。この工法では植物油を原料に既存の製油所のHDT (Hydrogen Diesel treatment)ユニットで加工して生産するプロセスである。

バイオ燃料の新技術
 近年、世界のバイオ燃料生産量が急速に増えているが、バイオ燃料業界ではある点が懸念されている。それはバイオ燃料製造の持続性である。具体的には直接土地利用変化、環境への影響、気候への影響などについての懸念が高まっている。この対策としてブラジルの各社は二次バイオ燃料と呼ばれる非食料農作物、あるいは廃棄物を原料バイオ燃料の製造開発に取り組んでいる。中でも知られているのがリグノセルロースバイオ燃料、バイオメタノール、バイオ水素、合成バイオ燃料が挙げられる。

日本でのバイオ燃料生産および使用プログラム
 現在日本で行われているバイオ燃料製造は、原料でいうと沖縄宮古島のサトウキビ、北海道の非食用小麦・トウモロコシ、山形県のモロコシ、岡山県と大阪府の廃棄木材、新潟県の米などを原料とした製造開発が挙げられる。また近い将来にはリグノセルロース技術の躍進にともない、農業廃棄物、木材などからのバイオ燃料の製造が可能になると見られている。
京都議定書への署名および締結を行なった日本は、CO2排出量を1990年を基準として6%削減することを誓約している。この目標を達成するために日本政府は2010年までに化石燃料の消費を50万KL、エタノールに変換する計画を立てたが、達成には至らなかった。

 09年には温室効果ガス(GHG)の排出量を、90年を基準として20年までに25%削減を公表した。10年11月には経済産業省から燃料ガソリン中のエタノールの混合量(エタノール直接混合、ETBE混合含め)を次表のとおり設定した(単位は1000 KL):


 2007年に日本ではETBE (Ethyl Tertiary Butyl Ether) 混合が石油連盟によって開始され、10年には3,000店ガソリンスタンドで販売されていた。エタノールの直接混合は05年に沖縄県宮古島にてエタノール、およびE3 (3%エタノール+97%ガソリン) の製造から始まった。06年には大阪府でバイオエタノールジャパン関西(株)がエタノール製造(木材原料)および府内でのE3販売を始めた。09年には日伯エタノール(株)が、ブラジルから輸入したサトウキビ原料のエタノールを、関東地方のガソリンスタンドへ販売を開始した。 同年に’JA 全農にいがた’ (全国農業協同組合連合会新潟県本部) がエタノール生産を自己プラントで始め (米原料)、 新潟県のガソリンスタンドでE3が発売された。10年には南西石油(株)が沖縄県でのE3の販売を開始した。
バイオ燃料の持続可能性基準の草案が経済産業省、および農林水産省、環境省により10年3月に公表され、11月に意見提出応募を始めた。日本の GHG排出規制は欧州規制に類似している。

世界を通じての協力事業
 2007年3月にブラジルと米国の両国大統領が中南米のサトウキビを原料とするエタノ−ル製造および燃料として活用の振興をする覚書を署名し、両国間の技術協力、国際的なバイオ燃料の仕様設定に向かって今後検討することに同意した。ブラジルはすでにガーナ、モザンビーク、アンゴラ、ケニヤ等のアフリカ緒国に技術提携を行ってきているほか、欧州・アジアの諸国との協力協定も結ばれている。日本の企業も数社ブラジルの生産者と輸出を目的に投資をする意向で交渉を行っている。

結論
 ブラジルは世界最大のエタノール輸出国である。2004年以降米国が最大の対象国で、それ以外にはオランダ、日本、スウェーデン、インド、韓国に輸出している。米国の環境局(EPA)はブラジル産のサトウキビ源エタノールを上級エタノールと格付けしている。ブラジル政府はエタノールの持続的生産を保障するため、09年9月にサトウキビ栽培推奨地とアマゾン森林、パンタナール湿原やパラグァイ川上流水盤等の地域内、もしくは近辺等の禁止地域をマッピングし法令化した。
 政府の観点から、これらのサトウキビ栽培推奨地は今後の国内外のエタノール・砂糖の需要を満たすのに充分だとみている。ブラジルは世界のバイオ燃料のニーズの一部を支給し環境問題対応に貢献する準備ができている。