会報『ブラジル特報』 2012年9月号掲載
日系企業シリーズ第20回


                                    澁谷吉雄(Kawasaki Do Brasil 前社長)


会社設立

 ブラジル川崎重工 (Kawasaki Do Brasil) は、1973年4月に川崎重工製品の販売サポート、南米の情報収集を目的に設立された。当時のブラジル(70年代)は「奇跡のブラジル」といわれたほどの好景気で、当社も製鉄所向け製鉄プラントを数多く受注した。


Embraer社との協業 (ブラジルと日本の共同作業の始まり)

 ブラジル国営企業から1994年に民営化されたEmbraer社は、95年に販売開始した小型旅客機ERJ-145の成功により業績のV字回復に成功し、99年8月には新しい70人乗りジェット旅客機ERJ170シリーズの開発をローンチさせた。世界中からリスクシェアリングパートナーと呼ばれる共同開発業者が集まる中で、99年10月にEmbraer社と川崎重工業の間でERJ170シリーズを開発するための基本契約が調印された。その後Embraer社のあるSão José dos Campos市(SãoPaulo州)に日本から先陣として25名程度のエンジニアが派遣され、現地のブラジル人を含めて50名以上の設計チームを構成して作業に取り掛かった。慣れない異国の地での作業であったが、Embraer社内で活躍する日系人や地元São José dos Campos市の日系人社会からの暖かい支援もあり、設計作業は順調に進んでいった。
 2002年2月に無事初飛行に成功。当時駐在していたエンジニア全員がブラジル人同僚やEmbraer従業員と共にその成功を祝った。またこの頃には駐在員と市内の日系人との交流も活発になり、カラオケパーティーやカーニバル、野球大会などで交流を深めた。

ニンジャ参上
 オートバイ部門は2007年にブラジルに進出を決定し、Kawasaki Motores do Brasil を設立した。2008年10月にはプレスコンベンションを行い、ブラジル市場にカワサキオートバイの進出をアピールし、翌年1月から販売を開始。最初に発売したモデルは Ninja ZX-6R。ブラジルにおけるカワサキブランドの知名度は高く、特に 「Ninja」 はスーポーツタイプのオートバイの代名詞となっており、趣味性の高い顧客を中心に高い評価を得ている。10年10月現在ブラジルで生産されている車種は Z750、Ninja250B、ER650N、VULCAN900LT/CUSTOM/CLASSである。

船舶、舶用機械の進出
 2012年5月、川崎重工はブラジルにおけるドリルシップ建造等の合弁事業への参画を決定し、バイア州知事公邸にて大手ジェネコン3社との間で調印式を実施した。造船所名は Estaleiro Enseada do Paraguacu S.A.EEP)。OdebrechtOASUTCにより各種海洋構造物、各種船舶の製造販売を目的に設立された会社であり、川崎重工は30%の出資と造船所の建設、ドリルシップ建造に関する技術を供与することとなった。
 ブラジルでは、超大深水プレサル層から相次いで油田が発見され、この開発・掘削のためのドリルシップやFPSO (洋上石油・ガス生産設備) を始めとした各種船舶の需要が急伸している。 


KMBマナウス工場にて 初号誕生を祝い全員集合(2009年10月)


社会活動
 
 ブラジル川崎重工の仕事の中で忘れてはならないことに、財団法人日伯協会への協力が挙げられる。
日伯協会は、1926年5月神戸市で誕生した。2国間の交流団体として日本で初の結成であった。
 その後兵庫県、神戸市、神戸の財界が一体となって当協会を拠点にして 「国立移民収容所」 を神戸に建設した。同収容所は戦中一時閉鎖されたが、71年5月に移住者激減により閉鎖されるまでの43年間、海外移民の出発地として使われた。
 この協会の活動をブラジル側で支えるべく、ブラジル川崎重工は協力を行っている。